第3話 極限状態
魔物と遭遇しないように周囲を警戒し、森を歩くこと約数時間。
徐々に木々が深くなり、陽射しが入らず夜のように暗くなってきている。
ペイシャの森には狩りをしに何度か親父と来たことはあったが、こんなに深い場所までは立ち入ったことがない。
奥へ進むに連れ、魔物どころか動物の気配も消えてきており、俺の歩く音と木々が擦り合わさる音だけが森の中にこだましている。
この異様な空気感に、魔物と出会うこととはまた違った恐怖を感じながらも、俺はようやく拠点と出来そうな場所を見つけた。
崖の下……というよりかは、大きな岩と岩の間に丁度良いスペースが空いている場所。
岩同士が重なり合っていて屋根のようにもなっているし、入り口の横幅が俺三人分くらいしかないため、魔物に囲まれる心配もなければ、大きな魔物はそもそも入ってくることが出来ない。
雨や風にも強く、天然の要塞にもなっているこの隙間。
びっしりと生えた苔と、見た目の悪い虫が大量に湧いていることだけが懸念点だが、どちらも大したことではない。
早速暮らしやすくするため、びっしりと足の生えた虫達の駆除と苔の掃除から始めることにした。
虫を何匹か捕獲しつつ駆除を行い、びっしりと生えた苔を掃除。
更には、ちょっと泥濘んでいる地面を整地するため、枝と葉っぱを敷き詰めて簡易的ではあるが拠点が完成。
あとはひたすらに時間が流れるのを待つだけなのだが……。
人というものは、何もせずともお腹が空くもの。
ましてや、今日は朝食を食べていない上に、クラウスと本気で戦い殺されかけ、怪我を負った状態でこのペイシャの森の奥地まで逃げてきている。
生まれてから一番体力を消費しているだけに、先ほど捕まえておいた足が数十本とびっしり生えた気持ちの悪い虫でさえ――見ただけでゴクリと生唾を飲んでしまうほど、お腹が空き切っている。
流石にこの虫を食べるのは、糞抜きを行うという意味でも最後の砦としたいし、付近に生えている植物類を採っては食べていこうと思う。
作った簡易的な拠点から出て、早速生えている植物を手にとっては口の中へと放り込む。
如何せん生のままでは苦味しかない植物ばかりで、毒があるとか関係なしに食べられたものではない。
それでもお腹が極限まで空いているため、無理やり飲み込んでエネルギーへと変えつつ、毒々しい実や怪しげなきのこ類も口にしていく。
意外なことに見た目が怪しげなものほど、苦味以外の味がついていて食べやすい物が多い。
とりあえず見た目度外視で、口にして美味しかった物を積極的集めていき、持参していた鞄いっぱいになるまで植物採取を行った。
拠点へと戻り、集めた植物を鞄から取り出して別で保管。
あとは……どうにかして水分を補給したい。
植物を採取している最中も、近くに小川がないかも見ていたのだが、見つけたのはちょっと深めの泥水交じりの水たまりのみ。
泉からこの拠点までの道中にも水源はなかったし、あの泉まで戻るか泥水を飲むしかない。
気持ちとしては数時間かかるが、泉まで戻って水の確保をしたいところだけど、そもそも泉までの道が分からない。
今まで現実から目を背けていたが、無我夢中で進んできてしまったため、現在は帰り道が分からず遭難している状態なのだ。
となると、あの水たまりの泥水を啜るしかない訳で……。
植物類同様に【毒耐性】のお陰で体に害が及ぶことはないんだろうけど、味を考えて体が自然と忌避してしまう。
植物から水分を取れないこともないけど、量を考えても泥水を飲まなければ脱水で死ぬだろう。
覚悟を決めた俺は、先ほど見つけた水たまりまで向かい、両手ですくって口へと流し込む。
黒に近い茶色の水に相応しく、臭みや苦味に加えて口の中に残る異物が絶妙にマッチし、嘔吐しかけるが無理やり口を押さえて体内に留める。
食べ物もなければ、まとものな飲み水もない。
あまりにも劣悪な環境に自然と涙が溢れそうになるが、絶対に生き残るという覚悟はもう決めている。
親父とクラウスをいつか見返す。
その気持ちだけで立ち上がり、俺は口を拭ってから拠点へと戻ったのだった。
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