第58話
「……っていうか二人とも、私が
私の言葉に、二人が顔を見合わせる。
それこそ意外なことを言われた……みたいな。
えっなんでよ、私がおかしいみたいな空気出さないでくれるかな!?
「さっきも言っただろう、マリカノンナだからだ」
「僕もそうだ」
「いやもう男前すぎない?」
なんだ見た目じゃなくて心までイケメンとかお前らどんだけ!?
一周回ってときめくよりも呆れる方が強いわ。
「……正直にいえば他の種族と僕は付き合いがなかったからな。精々がエルフを遠くから見るくらいで……実際に言葉を直接交わしたのは、カレンデュラ先生くらいだ」
「俺はまあ、いろんな伝手があったからな。だが正直
「いろいろ?」
私の問いに、ジャミィルは少しだけ考えてからおじさんを見る。
その視線におじさんは肩を竦めただけだ。
なにそのアイコンタクト。
「……暗殺者ギルドの連中は、モノによっちゃ普通の人間とは違う暮らしを強いられ特殊な訓練を受けている。人とはおよそ呼べないような姿になっていることもある。同じような連中は、案外ごろごろいるもんだ」
「ジャミィル、お前」
吐き捨てるようにそう言ったジャミィルに、ハルトヴィヒはとても複雑そうな表情を見せている。
同じ従者でも、ハルトヴィヒとジャミィルでは立場が違うのだとはっきり見せつけられたというやつなんだと思う。
どちらかといえばハルトヴィヒは、多分……ジャミィルは自分と同じというふうに見ていたんじゃないかな。
でもハルトヴィヒは、貴族だ。
貴族として汚い部分を知っていても、自らが手を汚すことはないというのが貴族のやり方……ってひいおばあちゃんが言ってた!
対するジャミィルは、平民だ。直接手を汚す立場だったのかもしれない。
(スィリーンは、ヤバい連中にも顔が利くって言ってたものね)
双子の妹を守るという側面と、王女の側付きであるスィリーンは綺麗な身でいなければならないということから貧乏くじを引いたってところだろうか?
まあそこは各家庭の事情ってヤツだから、何も言うまい。
考えてみたらうちも割と特殊だしな……。
「まあそういうことなら、それぞれ国元であれこれ調べてみたらどうだ? 伝手はあるだろう、こちらにいる間は俺やマリカノンナ、学園の教師陣がお前たちの主人を守ってくれるだろうが……今回の情報を知り、誰に話すかにもよると思うが国元に戻ってからが危険だということは間違いない」
亜人種は敵ではないかもしれない。
むしろ人間族が作り出した不死族が敵になる。
そんなことを言ったところで過去の話をどうしようもないけれど、過去の産物は今も生きているというこのおかしな状況は、いつかしわ寄せがくるのだ。
それが今回真実の歴史というやつを
私もおじさんも信じてくれた彼らに対して、協力は惜しまないつもりだけど……でもそれはこの学術都市にいる間の話。
サタルーナやカタルージアではやはり人間族の関係が強すぎて、上手に動ける自信もないし。
「そう、だな……考えてみなければならない。父上に相談できるかも怪しいが」
「うちはだめだな。サタルーナの上層部は聖女信仰だけあって、よそものに対して閉鎖的だ。表向きは客を出迎えるような親切っぷりだが」
「ジャミィル、いちいちトゲがあるよ?」
「ここでもなけりゃ言えない。スィリーンはイイコだからそういう発言をいちいち咎めてきて面倒だしな」
肩を竦めるジャミィルに、私は苦笑する。
スィリーンは腕も立つし女性としては強い部類なのは間違いないけど、なるほど女王というよりは次期聖女のために清廉潔白な侍女として育てられているのだろう。
そういう意味では神の申し子と噂されるカタルージア王家の王族に仕えるハルトヴィヒも、神官戦士の立ち位置に近い形で育てられているように思う。
(……人間族の中でも、色々あるんだなあ)
そりゃそうか、私も前世で色々あったもんな。あんま覚えてないけど。
でもそうやって考えてみたら、種族の垣根を取っ払うのはそう遠くない……いや遠いわ。
そもそも種族の垣根を取っ払って仲良くしてほしいっていうんじゃないのよね。
違う種族としてそれぞれ尊重してもらえたら嬉しいってのが私の目的じゃないか。
(……あれ、それって今がまさにそうか)
ある意味、小さな一歩を踏み出した。
そういうことでいいのかな?
そんな風に思ったら、なんだか胸がほっこりしたのだった。
……いや何も解決してないけどな!!
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