第57話
「……そういう噂ならこちらにもあるな。やはり王家の特殊な血を狙っているとの噂だが……まあそういった噂は昔からあったので、誰も特に気にしていなかった。だがマリカノンナたちの話を聞いた上だと、その『作り出された』吸血鬼という輩が動いていると考えるのが筋か?」
「そうだな。これまでは一般的に清らかな乙女の血を求めているということで聖女が狙われているという低俗な噂の一つだと気にも留めていなかったんだが。……なあマリカノンナ、そいつらには思考能力はあるのか?」
ジャミィルたちのいう『噂』はよくある、悪いことがあったら全部吸血鬼が悪い、みたいな感じの噂だったらしくて彼らも気に留めていなかったみたいだ。
だけど私たちの話を聞いて、少し思うことがあったのかもしれない。
ジャミィルの質問に対して、おじさんが頷いた。
「ある、といえばあるな。いくつかの条件下にあると吸血鬼化した際に自我を保つ症例があった。一つ目は魔力が高い者、二つ目は抗魔力が強いこと、三つ目は亜人種との混血である者だ。……普通の感性を持つ人が自我を持ったまま吸血鬼化させられたときには、色々とあったもんだが……」
言葉を濁すおじさんに、私たちはいやな気分になる。
どう考えても明るい話じゃなさそうなので、突っ込んで聞く勇気は持てなかった。
そんな中で私はふと妙なことを思ってしまった。
「……あれ、それって」
ちょっと突拍子もない話だ。だけど、辻褄があってしまう。
でも、まさか……ねえ?
私がぽつりと口にしたから、みんなの視線が集まった。
「ええとね、突拍子もないこと、なんだけど」
つまるところ、吸血鬼化させられた人は常に生者を求めている。
理由があってなった人、ならされた人がいたとして、どちらもとにかく死にたくないから人を襲うわけだ。
その中で自我があるタイプは、人じゃなくなった自分をどう思うだろうか?
超越者? それとも、自分を排除しようとする隣人への怒り?
とにかく、彼らは生きるために支配するし、生きるために配下を増やそうとするだろう。
「それは、かつての皇帝と同じように……要するに、実験材料兼食糧を集める方法、なんだけど、ね?」
「歯切れが悪いな、はっきり言え」
「……カタルージア王家は亜人種との混血、サタルーナ王家は弱くなったとはいえ聖女の血筋。もしその噂の吸血鬼が、襲った相手よりも上手なら隷属させられるってことになるのよね?」
自我を持ち、相手を自分の隷属化した吸血鬼とすれば……暴虐の皇帝、再来である。
この場合は人間族至上主義じゃなくて、不死者・吸血鬼至上主義ってやつになるのかな。
「あ、あはー、さすがに考え過ぎかなあ」
「いや、そうでもないかもな。……ああ、それだ。いやすごいなマリカノンナ! よく気づいた。俺も忘れていたぐらいのことだってのに、すごいなあ、いやあはははやっぱりうちの子はすごいぞ!!」
「お、おじさん落ち着いて!?」
「そうだよ、暴虐の皇帝には弟がいた。賛同者で、魔術師で、常々亜人種に神々の恩恵たる魔力が宿り魔法が使えることに対して不平不満を漏らしている男がいた!」
この世界には魔力がある。
だが魔力を用いて魔法を使う私たち亜人種と違い、人間族はその短命さから魔力が弱いために機会や魔術というものを用いて世界から魔力を
それが魔法と魔術の違いだ。
皇帝は人間は機械や術式を用いれば魔法と同等のことをやってのける、むしろ幅が広がっている、人間族はすごい、人間族こそ最高、全ての種を超越する存在になれる! って考えの持ち主だったわけだけど……。
その皇弟ってのが皇帝の腹違いの弟で、兄の庇護の元生きてきた魔術師らしい。
その男は兄のためになら帝国民も、亜人種も、全てを犠牲にして兄の夢を叶えるためだけに生きていたという男らしく……。
「まあ最終的に皇帝は
「なにそれただの恐怖話……?」
あれ、今夏じゃないんですけど?
思わずそう呟いた私に、ハルトヴィヒとジャミィルも頷いたのだった。
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