第59話
「とりあえず、もう少ししたら学園が長期休暇期間に入るだろう? ハルトヴィヒたちはカタルージアに戻るのか?」
「そうだな、それを殿下も望まれている。今件のこともあって、ご家族に相談したいのだろう。そちらはどうだ?」
「うちもそうだろうな。とはいえミアベッラ様は女王陛下に相談せず、失われた歴史書についてはもう少し慎重に取り扱うおつもりのようだが……やはり敵が多いからな……」
おおう、ミア様切ない。
まあ女王陛下に相談することによって何ができるのかっていうと、まず女王陛下がどのくらい権力を掌握しているかによるとは思うんだけど……。
でもミア様が聖女召喚について調べたいと思うくらいには追い詰められている状況ってことでお察しなんだと思うんだよね。
(そこに歴史の真実、なんてものを持って帰って心労をかけたくないって思ってそうだよねえ)
ミア様ってどこまでも真面目なところがあるんだよねー、苦労を背負い込みやすいタイプというか。
そういう意味ではスィリーンみたいな真っ直ぐ尊敬の念を向けているタイプが近くにいると、奮い立つタイプなのかもしれないけどさ。
私から見ると大変そうだなあって思うこともある。
「だから、マリカノンナ」
「ふぇ?」
おっと、唐突にこっちに話を振ってくるもんだから思わず気が抜けた声が出ちゃったじゃないか!
恥ずかしくなって口元を押えても後の祭りってヤツだ、出てしまったモンはしゃーない。
おじさんがニヤニヤ笑ってたので脇腹に肘を入れておいた。
でもジャミィルは笑ってない。
真っ直ぐに私を見ていた。
「なに、どしたの?」
「俺と一緒にサタルーナに来ないか」
「ふぇっ!?」
思わずドキッとしてしまった。
いやなんかすごく真面目な雰囲気で真っ向からそう言われるとドキッとするじゃない。
「ああ、ええと、夏期休暇でサタルーナ? いやなんで?」
「うちの親に会ったりとか」
「ふぇえ!?」
「俺と一緒ならサタルーナで一般人が入れないところも一緒に行動できるし」
「あ、そういう……」
なるほど、ミア様のためにあれこれと動くのに個人で行ったら何もできないという私に対して、ある程度の身分があるジャミィルが一緒ならなんとかできるぞってことね。
夏期休暇中も手伝えってことか! やりおる!!
若干動揺してしまったけど、そういう私を利用したいという気持ちを隠さないところ、好感が持てるぞジャミィル君!
決してドキッとしたとかそんなんじゃないぞ!!
「……どういう意味が良かった?」
「クッ……」
そういうとこ~~~~!!
それまでの真面目な顔から一転、ニヤニヤしやがって!!
お前私の実年齢知ったら絶対驚くんだからな?
年上女性をからかいすぎたら後が怖いと覚えておけよ!
「な、ならカタルージアの方がいいんじゃないか!!」
「ハルトヴィヒ?」
「サタルーナの方がそういう意味では敵も多いならば、マリカノンナが動き回るにも不自由があるだろう。ジャミィルは僕よりも顔は広いかもしれないが、僕は貴族としてあちこちに顔が利く!」
「ちっ……そう来るかよ」
何を張り合ってんだかと呆れる私をよそに、ジャミィルが舌打ちする。ガラ悪い!
そんな私たちを見て、おじさんはニヤニヤしっぱなしだ。
「さすがマリカノンナ。モテモテだな。だがお前ら忘れるなよ、どちらの国に招待しても俺もついていくってことをな!」
可愛い姪っ子に手出しができると思うんじゃねえぞっとドヤ顔で言うおじさんに、私は頭が痛くなってくる。
「うちの末姫を口説こうなんざ百年早いからな、小僧ども。覚えとけ!」
「……こりゃ中々手強いこって」
「むう……し、しかし引くのは騎士の名折れ!」
いやもう勝手に盛り上がらないでくれないかな。
呆れて天を仰ぐ私は、ふと後ろを振り返る。
彼らの死角になる位置から、にょっきりと手が出てきて小さなお菓子の小包が置かれる。
そしてその手はひらりとゆるく振られたかと思うと、また影の中に消えていった。
私は手を伸ばして小包を手に取り、リボンを解いて中を確認する。
そこには中々可愛らしいクッキーが入っていた。
「……ハインケルが今のところ一番ポイント高いな」
クッキーを一口かじった私がそう呟くと、男たちが一斉にこちらを見る。
おっとお、声に出しちゃったね!
「ハ、ハハハハインケル!? だめだぞあんな遊び人!!」
「ハインケル!? 誰だそれ!!」
「マリカノンナ、どういうことだ!?」
「ああもううるさいなー」
まあ未来のことなんて誰にもわかんないんだし、とりあえず夏期休暇に向けていろいろ考えなくちゃいけないんだなあ、なんて私はぼんやり考える。
(……どうせなら、イナンナも巻き込めないかなあ)
安全の保証がないのが問題だけど。
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