第4話
(それにしても騎士、騎士かあ……)
前世でそりゃもう騎士といえばイケメンの象徴だった。
カッコイイだけじゃなく意地悪だったり魔法が使えちゃったり、はたまた顔良し家柄良しすぎてモテすぎた果ての女好き、拗らせとまあそれこそゲームや漫画、小説アニメと待ったなしだったと思う。
私だって好きだったゲームの硬派系騎士キャラが好きだったなあなんて思ってそれどんなゲームだっけ? となるのが現状だ。
うん、前世の記憶を取り戻しても相変わらず曖昧だなあ。
「騎士ってそういえば見たことないわ。私の暮らしていたところが田舎だったせいもあると思うけれど……国境を越えるときに立っている兵士とはやっぱり違う?」
「そりゃもう! この学術都市の騎士隊はね、この自治都市を運営する議会をトップに司法と騎士隊で三角形を描くようにしてお互いを監視するって形を取っているんだけど」
(ほうほう、三権分立ってやつか)
「まあそこに加えて宗教とかもちょっとだけ絡んでややこしい中で、騎士様たちは公平かつカッコイイ人揃いで、この学術都市に通う学生の中にはここの騎士隊を目指す生徒もいるって話!」
「へえ……」
「マリカノンナちゃんも騎士様に憧れてるの?」
「騎士様、うーん、騎士様は、ちょっと……敷居が、高い……かなあ」
将来的に好きになった相手に首を切られそうになるのはちょっと。
でも、そうだなあ。
「恋愛は、ちょっと、興味あるかな。うん」
異種族だけに寿命の問題とかあるけど、ほら、ここはやっぱり学生になるわけですし?
そういう充実した日々とか甘酸っぱいキュンがあると日々の潤いがあって私の野望に対してもモチベーションが上がるっていうか?
言って確かに百歳(推定)だけど、吸血鬼の中じゃあまだまだピッチピチですもの!
「マリカノンナちゃんだったらすぐだよう。それどころかモテて大変かもしれないよ?」
「そ、そうかな?」
「そうだよ! あっ、そろそろ一度宿屋さん行って部屋聞かないと埋まっちゃうかも」
「いっけない!!」
どうして女子同士のお喋りってこんなに時間が早く過ぎ去っちゃうのかな!?
いやあでもここのお店は本当に美味しかったのでまた来よう。
さすがに古代金貨は出せないので、私が途中の町でつくって溜め込んでおいたレースとかその辺を売って作ったお金があるからね!!
(……まあでもどっかで一枚は換金しないと生活に困るな、これ)
私自身は寝食自体はそこまで必要としていないっていうか、吸血鬼の体ってコスパいいのよね……。
意外と普通に生活するだけだったら花一輪とかの生気があればいいし、なんだったら複数の生物からほんのちょびっとずつ生気を分けて貰えばそれで生きていけるもの。
世間じゃあ〝吸血鬼〟なんて名前が定着しちゃってすっかり『吸血鬼は読んで字の如く生き血を啜るのだ』なんて恐れられてるけどそれまったくのデマだからあ!!
(……長年の、人間族の妬みがそれを生み出したなんて言っても今は誰も聞いてくれたしないんだろうなあ)
そう思うと切ないなあ、切ないなあ!
あんまりにもな扱いに涙が出ちゃいそうだよ!!
「あっ……」
そんなことを考えていたらイナンナが被っていた帽子が飛んで、私は思わず追いかける。
とはいえ、人間族よりも健脚なところとかを見せるわけにはいかないのでものすごく、心がけて走って追いかけて手を伸ばして――人にぶつかってしまった。
(いけない、走る方に気を取られすぎた……)
色々気を遣わなきゃいけない生活にまだまだ不慣れなものだから、って言い訳をしている場合じゃなかった。
「す、すみません!」
「いいえ。大丈夫ですか? 可愛らしいレディ」
「れ、れでぃ?」
なんだその呼び方。
困惑する私を前に、ぶつかった相手……鎧を着た、なかなかのイケメンがにっこりと笑って私に帽子を差し出した。
「こちらは貴女の持ち物かな? レディ」
「い、いいえ、友達ので……ありがとうございます」
「そうか、友達思いなんだね。だけど気をつけて、周りを見ずにいると危険が多いからね」
「は、はい」
どうやらお説教をされているの、か?
いやまあよそ見をしていた私が悪いっちゃ悪いので、ここは大人しく頷いておく。
「じゃないと、君のような可愛らしいレディは吸血鬼が来て攫っていってしまうかもしれないからね!」
ばちーんとウィンクを決められたけど、私は気が遠くなる思いだよ。
ああ、うん。
風評被害甚だしいなア、おい!!
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