第5話
結局騎士とそれ以上何かあったとかそういうことにはならず、私はイナンナに勧めてもらった宿屋さんに宿泊している。
安くてご飯も美味しいし、ちょっと外れた位置にあるってだけでここは大当たりだと思うね。
イナンナさまさまだわ!
女将さんに古代金貨……はさすがに厳しいかと思いつつ換金してくれる場所はないか聞いたところ、骨董品屋さんを紹介してもらった。
最初は盗品かと疑われたけど『きっと合格すると信じてくれた両親がこのコインを換金しろと渡してくれたんです』って言ったら「いい親御さんじゃあないか……!!」って感動していた。
ごめん、かなり脚色入ってて。
両親は私の合格は確実だと信じてくれているのは事実だけど、その古代金貨はうちの金庫に私の祖父よりも前の代からしまいっぱなしだったモノらしいんだ。
まあ骨董品としては良いんじゃないかって理由で渡されたんだよね……。
ちなみに骨董品屋さんは女将さんと同じ説明したところ、足元見ることなくきちんと査定をしてくれた上で大金になるから町の両替商のところで口座を作って必要なときに下ろすようにしなさいってアドバイスをもらった。
(……この町って親切な人が多いわよね)
それもこれも私が吸血鬼だってバレていないからなんだけど、それでも胸がほっこりするじゃない?
で、当然ながら私は試験に合格した。
イナンナと一緒に見に行ったよ!
「マリカノンナちゃん総合三位だなんてすごいわ……!」
「えへへ。座学は得意なんだあ」
そう、座学はね。
総合科目ってことで座学と体術の双方で判断する……とされていたもんだから、体術の方は相当気を遣った結果ぎこちなさが出ちゃったのよねえ……。
(それでも三位とか、悔しい!)
華々しく一位デビューで謎の美少女としてこのマリカノンナ=アロイーズ・ニェハ・ウィクリフの名を轟かせるつもりだったのにッ!
どうやら座学を私と同じく満点をたたき出したのが二人いて、その二人が私よりも体術の点が高かったようである。
まあ、こういうこともあるよね……次で挽回してやるわよ!
「しょうがないよ、だってマリカノンナちゃんよりも上の二人ってカタルージア王国の王子殿下と、サタナール王国の王女殿下だもの。わたしたちみたいな一般受験者とは格が違うよ」
「えっ、王族……」
そういやこの学園、他国の王族も来るんだった。
生徒としての暮らしを楽しむ一方でプチ社交界的なこともあるって、そういえば叔父様が言ってたような……。
(あー、ここは処世術的に負けて正解だったってことかな?)
ふっ……天はこの美少女に味方だったってことね!
そうよね、最初から目立ちすぎてはただでさえ美少女なんだか、鼻につくとか思われたら大変だもの。
「私、寮について説明を聞いてくるけどイナンナは先に帰ってていいわよ?」
「そう? じゃあ良かったら今日はうちに晩ご飯食べに来てよ! 合格のお祝いしてもらう予定だから、マリカノンナちゃんがきてくれたらうちの両親も喜ぶよ」
「じゃあ後で伺うわね!」
イナンナ、本当にいいこよねえ。
何でも彼女は小さい頃病弱で、昔から店の奥にある自宅の部屋で過ごしていたらしい。
大分元気になってお店を継ぐためにも経営学を学びたいと受験を決めたはいいものの、友達らしい友達もいなくて……ってところに私と知り合ったんだってさ。
おかげで笑顔が増えたってイナンナのご両親にも感謝されちゃった。
(……いつか、イナンナには吸血鬼だって明かせたらいいんだけど)
折角友達になれたんだもの、私もあまり隠し事はしたくないっていうか。
いやでもそれよりもなによりも、王子だの王女だのって存在がいるってことはその護衛がいたりするのよね。
神官とかその辺でいちいちグァァッ! とか本物の吸血鬼はならないからそこら辺は心配してないけど……むしろ私たちも信仰とかあるし。
(でも王族よ、王族。私が最終的な目標としている、官僚となって偉い人に取り入るっていう大きな目標を一足飛びに叶えられそうな存在じゃない!?)
王子だか王女に気に入られて、側近にでもなれたら……私の野望は叶ったも同然になるのでは!?
いや万が一にでも正体が権力者にバレたら、危険極まりないのは変わらないってことだわ。
(やはりここは慎重にコトを進めるべきよね……)
私はため息を吐き出して、入学手続きのための書類の中から成績優秀者にだけ配られる入寮手続きの書類を抜き出して、該当の場所へと向かうのだった。
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