第3話
「そうだったんだあ……大変だったんだねえ」
「でもないわ! 乗合馬車をいくつか乗ってくるのも色んな景色が見れて楽しかったもの。途中に出会った人たちが親切だったおかげだとは思うけどね」
「ふふ、マリカノンナちゃんが可愛いからかなあ」
「そんなことも……あるかなあ?」
褒められて悪い気はしないがここは謙遜のために否定しておこうかな? なんて思ったものの、逆に卑屈と取られては困るので私は曖昧に微笑んだ。
初めてのお友達であるイナンナの実家はこの学術都市ロナーンでお店を構えているらしく、私はお腹が空いたと訴えて美味しくて安いお店を紹介して貰ったのだ。
やはり人徳。
私の美少女っぷりがなせる人徳……!!
「それにしてもね、マリカノンナちゃんがあんまり綺麗だったから、その、わたしてっきりどこかの貴族かと思って……話しかけたら怒られないかなって心配だったんだあ……」
「さすがに声かけただけで怒るような人はいないんじゃない?」
「そうでもないよう、お店とかでも結構見かけるんだよ? ほら、このくらいの時期になると入試でこっちに来て暮らしの準備をするのに物入りであちこちの商店に声をかけるみたいなんだけど、時折この時期からオーダーメイドの家具とかを注文する人がいるから……」
「えっ、無理でしょ」
っていうか合格できる自信があるならもっと前から注文しとけよって話じゃない?
ぎりぎりまでわからない程度の自信なら、大人しく売り物の家具で我慢しなさいよと私は思っちゃうね。
それでもブルジョワって思っちゃうのに!
私の言葉にイナンナも苦笑しながら頷いている。
うんうん、持つべき者は庶民的感覚を共有できる友達だよね……!!
「うん。だから断るんだけどね、そうすると『平民のくせに生意気だ!』って……」
「最悪う」
「まあ、お金持ちなのには違いないからありがたいと言えばありがたいんだけどね。そういえばマリカノンナちゃんはどこに泊まるの?」
「ん? うーん、どこか安い宿を探して……って思ってたの。お勧めあったりする?」
「それならうちの近くにある宿屋さんがいいよ。女将さんがとっても親切な人なの」
「じゃあそこにする!」
「マリカノンナちゃんは本当に綺麗だから、人攫いとかに気をつけてね?」
ものすごく真面目に言われてしまった。
まあ確かに私のこの金の髪も紫のくりくりしたおめめも?
スレンダーボディもなかなかのモンだと思いますから?
同性であるイナンナが繰り返すってことはやっぱり自信を持っていいと思うんだよね、前世の感覚に引っ張られた美的感覚ってだけじゃなくて、世間一般でも通用する美少女ってことだよねコレは!!
それにしても人攫いとは物騒な。
人間の社会ってこんな発展している都市でも物騒なの?
吸血鬼の里なんて人にすれ違う方が稀だから、まずもってこの通行人の数に私は驚かされっぱなしなんだけど?
「人攫いとかあるんだ……」
「この時期、マリカノンナちゃんみたいに遠くから来る子も多いでしょう? 受験期ってこともあって、そのまま行方不明扱いにされちゃう子がいるんだ」
「気をつける」
「あ、でもね! よっぽどじゃなければ大丈夫だよ! 学術都市の騎士隊がいてくれて、強くてカッコイイんだ。だからそうそう遭遇なんてしないよ、大丈夫。怖がらせてゴメンね」
「ううん、心配してくれたんでしょ?」
それにしても騎士隊か。
私が吸血鬼と知られたら、それってもしや狩られてしまう……!?
(ひぇっ……)
気をつけよう。
やはりこの都市で何かしらの功績を挙げて、私は自分の身を守らなくてはならない。
名声こそが私を救うのだ!!
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