第2話

 結論を言うと、テスト簡単すぎん? 始まって十分で終わったわ。

 吸血鬼の知識量、馬鹿にならないんだなあ……そう思ってしまったね。

 そういえば他の不死者一族に比べると私たちって記憶力優れてるし、それが今回とても役立ったってことかしら……。


(それにしても目下の悩みは体力のなさか……)


 それでも人間族に比べたらある方だとは思いたいけど、やっぱり引きこもり生活を百年もしてれば運動不足にだってなるというものだ。


「お腹空いたなあ」


 両親は私が外の世界に出たいと言ったことに大変驚き慄きそりゃもう大変な騒ぎで長老まで呼び出して古代金貨を山ほど持たせて『怖い人がいたら邪竜を召喚してもいいからね!』なんて物騒なことを言いながらも快く送り出してくれた。

 頭が上がらない。


 でもその物騒な邪竜とか呼び出せちゃうところが多分、世間からは恐れられている要因の一つなんだよな……単にビビりなだけで実際には召喚したりなんてしないよ……多分……。


「あ、あの……」


「え?」


「あの、ハンカチ……」


「えっ、あっ、私の! ありがとう、拾ってくれたの?」


 他の受験生と交じって外に向かう私の背後から声をかけてきたのは、大人しそうな女の子だった。

 やだ、ハンカチ拾って届けてくれるとか恋愛小説のベタなヒロインみたいで思わず胸がキュンとしちゃった。


「私、マリカノンナ=アロイーズ・ニェハ・ウィクリフ! 本当にありがとう!」


「う、ううん。渡せて良かった……」


 ほっとした様子でぎこちなくも微笑んでくれたのはメガネのおっとり系美少女さんだ。

 うん、これは癒やし系として人気が出ること間違いなしって感じ。

 それに内気な感じがするし……そんな子がこんなほわっとした笑顔を自分に見せてくれたら落ちない男はいないんじゃないかって思うね!!


「同じ受験生だもんね、仲良くしてくれたら嬉しいな!」


「う、うん! あの……ウィクリフ? って名前、珍しいけど、この町の人じゃない……?」


「そうよ。ええとね、私は白い森の国『サナディア』から来たの」


「サナディア……! すごく遠くから来たのね」


「まあねー」


 サナディア。

 実在する国だし、嘘じゃない。この学術都市ロナーンを囲む三つの国より更に一つ向こう側にある、広大な森にあるエルフの国だ。


 とはいえ、エルフ以外も大勢住んでいるけどね!

 人間もいるし、リザードマンとかほかにもなんていうか、とりあえずお互い干渉しないだけの亜人種が大勢いる。

 その中に吸血鬼もいるってだけの話。


「でもエルフじゃないわ」


「う、うん。耳が長くないもんね……?」


「そうよ! ところでお名前を聞いてもいいかしら?」


「あっ、ごめんね! あの、わたし、イナンナ・ファセットっていうの」


「イナンナね。ありがとう、イナンナ! ねえ、私の友達になってくれる?」


「……うん、わたしこそ、よろしくね。えへへ、友達ができて嬉しいな……!」


「私も嬉しい!」


 いえええい、友達できた!

 あれっ、よく考えたらマリカノンナにとって初めての友達じゃない…?

 親戚の子と遊ぶことはこの百年の間に何回かあったけど、あれっ、もしかして指で数えられるくらいしか他の人と会っていないのでは……。


(これは、まずい)


 つうっと私の背中を嫌な汗が伝った。

 吸血鬼の地位向上、コミュ障、引きこもり、その他諸々……私には該当しないとばかり思っていたけど、こうして思い返してみれば記憶を取り戻す以前の私はまさしく一族らしい・・・生活スタイルだったじゃないか!


 このままではいけない。

 何をどうしたらいいかはわからないけど、私はとりあえず思ったのだ。


(友達百人作らなきゃ)



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明日よりこちらの作品を、12時と18時の2回更新いたしますのでよろしくお願いいたします。

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