会場を回り、そして店番

 一通り見て回ったら建物の右端から出て、A館へ。こちらも壁際に男性向けがあるが、他は全部格闘ゲームだ。ここもお姉さんがチェックしていたサークルと、ニルさんに頼まれた分を見て、ところどころで買っていく。

 それにしても、暑い。空気が熱くなっている。そして湿度が高いせいかそれが重い。呼吸に負荷がかかる。


「ふー。ちょっと休もっか」

「そうですね。暑くて」


 A館から外に出ると、ふたりとも疲れてしまっていた。タオルで汗を拭う。こんなだと日焼け止めも落ちてしまってると思う。

 飲み物を開けて口を付けると、すっかりぬるくなっていた。


「まだ行けそう?」


 お姉さんが缶をゴミ箱に捨てて言う。


「お姉さんこそ大丈夫ですか」

「好きなことだかんねー。頑張っちゃうよ」


 ニルさんが言ってたように、お姉さんは好きなことだと少し見境が無くなる。だから見てないといけない。


「あー、笑ったー。どうしたの?」

「なんでもないです」


 思わず苦笑してしまっていたようだ。でも、これは心にしまっておく。


「えー、ずっこーい」


 抗議するお姉さんをなだめ、次の目的地、東館へ。

 丸い。ガメラ館とも呼ばれているらしいが、ドームみたいだ。

 その中は中心部から右にかけてがゲームのRPG系、左側が魔法少女系らしい。

 わたしたちはRPG系に向かっていく。


 お姉さんが遊んでいるのを横で見ることも多いので、知っているゲームやキャラが色々いて面白い。

 ファイナルファンタジーⅥが圧倒的なようだが、お姉さんは女神転生関係のサークルを見ている。

 この人はこのキャラをこう解釈するのか。みたいなのもちょっと見つかって、わたしでこれならお姉さんはもっと楽しいんだろうと思う。

 キャラの衣装を着ている、コスプレをしてる人ともたまに行き合うので、視界の中はまさに混沌。でも、それが面白い。

 ここに来ている人はそういうのも楽しんでいるのだろうか。

 などと考えながら、お姉さんとはぐれないようについて行き、サークルを見て回る。東館はかなり広いので時間もかかったが、さっきのA館より環境はよかった。


「はー。こっちはちょっと涼しいっていうか、マシだった?」

「そうですね。割と」


 外に出て、そんなことを話すくらいに。

 飲み物がないので休憩もそこそこに、少し奥まった南館へ向かう。

 こちらは小ぶりな建物の中に格闘ゲームやRPG以外のゲームが入っている。わたしがお姉さんの家で触る数少ないゲームのひとつ、ぷよぷよもここにあったので、キャラの描かれたグッズを少し買う。


「そういやぷよやってたね。見たいって言ってたのこれかー」

「ええ。グッズもあってよかったです」


 同人誌やグッズを買う楽しみにはまってしまいそうだ。


「そかそか。君を置いてけぼりにしてないか気にしてたけど、ちょっとでも楽しんでくれてるならよかったー」


 ほっとしたようなお姉さんの笑顔がまぶしい。


「一緒にいるだけで幸せですよ」

「こらー。そーやってすぐのろけてー。こっちが溶けちゃう」


 嬉しいような困ったような視線で刺されてしまう。

 南館を出ると、さすがに疲れも溜まってくる。


「一回戻る? 荷物もたまったし」

「B館行かなくて大丈夫ですか」

「んー。食事して店番したりして、そっからでもいいよん」

「そうしましょうか」


 話もまとまり、南館の正面にある新館へ戻ってくる。入口で二階へ行く人の流れに入り、ニルさんのサークルへ。


「おっ。おかえり」


 店番をしていたニルさんがわたしたちを見つけたので、お姉さんは片手を上げる。


「ただいまー、暑かったよー。これはニルちに頼まれてたやつ。好きそうなのを選んだつもりー」


 お姉さんはスーパーのビニール袋に入れていた本をニルさんに渡す。


「ありがと。お金は後でいい?」

「終わってからでー」


 すっかりへとへとになった様子のお姉さんは、スペースに入って保冷バッグからアクエリアスを取り出していた。


「うぇ、ぬるい」


 そう言いながらも、喉を動かして飲んでいる。


「わたしも一本」


 ポカリスエットを飲む。ぬるい。そして心なしか味が濃い。


「で、どこまで行ってたの?」

「あとはB館だけです」

「頑張りすぎ」


 ニルさんから苦笑いされてしまう。


「う。喉つまりそう」


 お姉さんは昨日買ったカロリーメイトも食べていた。お昼過ぎだし、わたしも保冷バッグに入れていたものをもらう。

 ぱさついて水分の少ない喉にはりつくブロックのカロリーメイトを、ぬるいアクエリアスで流し込むのがコミケ最初で最後の昼食になった。でも、初日は飲まず食わずで歩いたのだから、たいした進歩だと思う。


「休憩したら店番頼める?」


 買ってきてもらった本のチェックをしながら、ニルさんが言う。


「わかりました」

「いいよー」


 わたしたちも疲れていたので、椅子に座れる上、そこまで暑くない場所での店番は助かる。


「じゃ、私も行ってきます。売り物は五〇〇円だからお客さんが来たらよろしく」


 スペースの上を見ると、二〇枚くらいあったディスクは一〇枚くらいになっていた。半分くらいは売れたらしい。


「いってらっしゃーい」


 お姉さんが見送り、ニルさんは旅立っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る