サークルの準備を手伝う
坂道の多い保土ケ谷をゆっくりと進んで電車に乗り、今日は新橋という駅で乗り換える。そして昨日と同じく有楽町で降り、地下鉄へ。もう混み始めているので、はぐれないように荷物を抱えながら固まり、言葉少なに移動する。
そして、昨日と同じように豊洲に着いた。
「今日はバスに乗っていこう」
「時間だいじょーぶ?」
「まだ八時になってないからちょっと待つくらいなら大丈夫」
荷物がかさばっているのでバスは助かる。うんうんとうなずくわたし。
駅と会場を往復しているようなので、列に並んでバス待ちをする。
「かなり詰められることもあるから覚悟したほうがいいよ」
「何十分か荷物運ぶよりマシでしょー」
「ですね」
果たして、何分か待ってバスが来ると、乗客を乗せられるだけ乗せてぎゅうぎゅう詰めにして運ばれる。かさばる荷物を持ってるのが申し訳ないくらいに乗せられた。
ただ、お姉さんが言ったように、朝とはいえ夏に何十分か荷物を運ぶよりは確かにましだった。
「ここから反対側まで回んの?」
バスを降りて人混みから離れたところで、お姉さんがニルさんに訊ねる。確かに結構な人数が敷地の反対側に向かって移動している。
「そ。サークル入場は逆側。チケット渡しとくね」
ニルさんが財布からカード上の厚紙をくれる。これでサークルとして会場に入ることができるらしい。
「それじゃあ、もう少し歩きましょ」
スーツケースを転がすニルさんを先頭に、わたしとお姉さんが続く。十分も歩かずにサークルの入場口に着いてまた並び、係の人にチケットを渡して会場へ入る。
「こっからまた反対側なんだよねー」
疲れた声でお姉さんが言う。また折り返すのは疲れる。
まだサークル参加の人たちだけで、昼間の混雑と比べれば閑散とした会場を、三人で進む。新館と呼ばれている建物の前には階段があり、ニルさんはわたしたちをそっちに導いた。
「ここ、入口と出口別になるみたいだから遊びに行く時は注意してね。薄い方のカタログに書いてるけど、出る時は別の階段で降りてから出口に行くみたい」
「一階は男性向けだっけ」
「混むよ」
ふむふむと聞きながら、二階へ行く。ホールの中ほどに整然と机と椅子が並び、その間をサークルの人たちが行き来している。
「ええと。こっちこっち」
相変わらずニルさんが先導してわたしたちが続き、スペースに来る。この机半分がニルさんに与えられた場所だ。
「それじゃあ設営しよっか。荷物はこっち側に置きましょ」
「助かるー。やっと降ろせるよ」
椅子が準備されているところの後ろにわたしたちは荷物を降ろし、楽になる。ニルさんはその間にもスーツケースを開き、机にテーブルクロスを敷いて三脚を置き、タイトルと値段を書いた厚紙をテープで貼る。
「あとはこれ並べて、見本誌係の人が来たら提出してっと」
昨日みんなで詰めていったゲームが並ぶと、なんだか達成感がある。
「写真撮っていいですか」
「いいよ。でもフィルム勿体なくない?」
ニルさんには苦笑されたが、そういう気持ちを収めたかったので、陳列の終わったスペースを一枚取る。
「そういえば、どんなゲームなんですか」
「文章と絵が表示されて、たまに選択肢を選んだら分岐する小説みたいなの」
そういえば、そういうのをお姉さんが遊んでた気がする。
「かまいたちの夜みたいなのですか」
「そうそう。あそこまで複雑じゃないけど。ゼロワンさん、ゲームやるんだ」
「ヒダカさんのを見てるだけですけど」
「あれはサウンドノベルっていってるけど、うちのは音もないしねー」
そうなんだ。
「見本誌集めてます。準備できてますか」
「お願いします」
ふいに後ろから声がかかる。どうやらスタッフらしく、ニルさんがさっき用意していた見本のディスクを渡し、二言三言会話して去っていく。
「あれ、何なんですか」
ちょっと疑問に思ったので口に出す。
「会場で売ってもいいかどうかの審査みたいなのかな。それと、準備会が同人誌を集めて保存してるから、それにひとつ提供するの」
色々とルールがあるらしい。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
向こうから歩いて来た、少し太めの男の人が、わたしたちの前で会釈する。
「よろしくお願いします。これ、新作ですのでよろしければ」
「あ、どうも。うちのも後で」
その人はわたしたちのスペースの隣で設営を始めた。やはり荷物を置き、色々な物を置いたり並べたりしている。
「まだ開場まで三〇分以上かー」
時計を見るとまだ九時半にもなってない。
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