観覧車に乗る
海辺の公園沿いに続く並木道を歩く。それだけだが、景色がいいので観光している気分は高まる。
「もうちょっと早く来てたら見学できるところもあったんだけど」
「歩いて眺めてるだけでも雰囲気があっていいですよ」
「日射しを浴びながら歩くのはねー」
そう言っても夕日が最後の頑張りを見せている今だってかなり暑い。並木道に感謝しながら、船の浮かぶ海を見ながら進む。
しばらく歩くと公園は終わり、アンティークな建物の多い通りになった。確かにニルさんの言った通り、横浜っぽさが集まっている。
さらに進むと大きな橋があり、その向こうにはまた別の公園が見えてくる。
そちらにニルさんが向かったのでついて行くと、そこには帆船があった。
「おー。観光地って感じねー」
「写真撮りましょう」
「おっけ。ヒダカちゃんそっちに立ちなさい」
わたしとニルさんの連携でお姉さんを追い詰め、船の前で写真を撮る。
といっても、だいぶ暗くなってきたので五百円のカメラだとちゃんと撮れているか心配だ。
次はわたしがカメラマンになり、ニルさんとお姉さんでも写真を撮る。
「ちぇー。ニルちとすっかり仲良くなっちゃって」
写真を撮られてしまったお姉さんが文句を言っている。
「恋人って言ってるんなら一緒に写るくらいいいでしょ」
ニルさんが言ってくれた。そういえば彼女はわたしとお姉さんのことを知ってるんだった。
お姉さんがわたしのことを恋人だと宣言したことを。
「そりゃいいけどさー。心の準備というものが」
「準備、できますか」
「えー。難しいかも」
だからふたりに追い込まれるのに、お姉さんはまたそんなことを言う。実は構ってほしいのだろうか。
そんなこんなで船の周りにある公園を通り抜ける。暑さはあまり変わらないが、日射しがなく、風もあるので少し快適になってきた。
「そーいやさー。これからどこ行くの? 駅の方角じゃないっしょ」
「ここまで来てもわかんないか、この子は」
「何だよニルちー。今日は随分辛辣じゃない」
お姉さんはぷくっと頬を膨らませる。かわいい。
しばらく歩くと、遊園地のアトラクションがそのまま置いてある、海にほど近い一角にやってきた。さっき見えた大きな観覧車もここにあるものだった。
「ここ、子ども向けの遊園地だけど利用料だけで色々遊べるらしくてね」
地元のニルさんにはあまり馴染みの無い場所のようで、たまに道を確認して先へ進んでいる。
「まあ、そういうわけだから。ふたりで乗ってきな」
そう言ってニルさんに連れて来られたのは、観覧車の乗り場だった。
「え? ニルちは?」
「私は高い場所が駄目でさ」
「嘘だー。一緒に東京タワー行ったじゃん」
「ゼロワンさんと一緒に乗るなら、私は邪魔じゃん。そういうの察しなよ」
わたしの前で言っては台無しになることをニルさんが言っている。
そういうことならこちらも考えがある。お姉さんの手を握り、目を見つめる。
「な、何?」
この人はこういうのに弱いのだ。
「乗りましょう」
「えー」
しばしの沈黙。
「はい」
わたしが手を引くと、お姉さんは観念したのかあっさり歩き始めた。
「いってらっしゃい」
それを笑顔で送り出すニルさん。
「強引だったらごめんなさい」
手を引きながら列に向かい、お姉さんに一応謝っておく。
「ん、大丈夫。ていうかあたしヘタレだしー」
わたしから目を逸らしまた頬を膨らませている。かわいい。
「うー。にしても君、強いねえ」
意外なことを意外な人から言われた気がする。
「わたしが、ですか」
「そうだよー。覚悟決まったら一直線じゃん」
「お姉さんがヘタレだからですよ」
「うー」
「もうちょっと頑張ってもらえると助かります」
「善処します」
他の人に聞かれていたら恥ずかしいことを話しながら列に並んでいると、わたしたちの順番が回ってきた。
係の人に説明を受け、ゴンドラの中へ。奥行きがかなりあるので外から見たときと印象が違う。
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