コミケの帰りは
さっきまでいた新館に入っていた文芸サークルはオリジナルだが、今から行く西館に入っているサークルは、普通に出版されている小説に関係する同人誌という分類らしい。
わたしが読んでいる小説のサークルもいくつかあったので、ちょっと見てみたかった。
人波にも少し慣れてきたが、それでも呼吸するとき熱さを感じることもある。
外に出たところで水分を補給してお姉さんと手を繋ぎ、ニルさんに先導されて西館へ。
同じ作品は固めて配置されるというので、わたしがチェックしていたサークルも固まっていたのでここは楽に見て回ることができた。
並んでいる本は原作のキャラクターを使った漫画や小説が多かったが、変わったものだとシャーロック・ホームズの舞台になったイギリスへ行ってきた旅行記なんかもあって、色々な形で好きなことを表現していることを知ることができた。
ここでもわたしが何冊か買い、お姉さんやニルさんも少し見たり買ったりしているようだった。
西館の残り半分は色々な少年漫画のサークルらしく、わたしも知っている作品のイラストや本を眺めながら、入場口から一番奥にあるA館へ。
レストランを横目に見ながら、大きな扉をくぐる。
入ってすぐのところは、少女漫画のサークルが入っていた。こちらも出版されている漫画の同人誌を作っているところで、レイアースの多さに驚いた。
そういうサークルも眺めながら、ニルさんが目指したのは評論の並び。
「いろいろ面白いのがあるらしーね」
「うん。色々な意味でね」
ふたりがそう話していたので少し期待して眺めてみると、わたしにはちょっとわかりそうもない漫画やアニメについて文章で批評する本に混じって、ゲテモノ料理や一月の震災に遭った人の体験記などもあった。
「あっちの方は地方のイベントが出してるサークルだから、ふたりの地元のもあるんじゃない?」
「じゃあ見てみるかー」
ニルさんに連れられてそっちへ行ってみると、確かに色々なイベントの準備会というところが机の上にチラシを並べていた。
残念ながらわたしたちの地元から来ているサークルはなかったが、全国各地でイベントをしているところが開催しているものがあるらしいので、そのチラシをもらう。
「東京まで来て自分ちの情報集めるのも変な話だねー」
お姉さんが笑いながら言う。その通りだ。大回りしている。
「これで全部回りましたか」
会場の隅でチラシをバッグに入れ、ふたりに訊ねる。
「私はもういいよ」
「あたしもー」
返事をするふたりとも少し疲れた顔をしている。
わたしも多分そんな顔をしているはず。
「帰ろうか」
「そうですね」
「だねー」
連れ立って建物を出て、日射しの中を歩く。
結構歩いたのでレストランの横を通るとついつい眺めてしまう。
「ゼロワンさんお腹すいてる?」
それを見ていたのか、ニルさんが指摘する。
「まだ大丈夫です」
二時を過ぎたくらいだが、朝が遅めだったのでまだぺこぺこではない。
「じゃあ、ヒダカちゃんがよければ横浜で何か食べる?」
「いいねー。中華街とかあるんでしょ?」
「東京から一時間くらいかかるのが大丈夫なら」
「わたしは大丈夫です」
「あたしもおーけー」
移動しながらなんとなくこの先の予定が決まる。
なんだか、いい。
それはともかくまた炎天下を歩き、今度は帰りの人で混雑している駅に戻り、ぎゅうぎゅうの地下鉄に乗って運ばれる。ここが一番人が多いかもしれない。
地下鉄を降りたらJRに乗り換える。
「やっと座れたー」
「歩きっぱなしでしたからね」
「一息ついたね」
三人で年寄りっぽいことを言いながら、クーラーのかかった電車の中で座る快適さを満喫する。気持ちよくて寝てしまいそうだ。
「寝落ちには注意しなよ。遠くまで運ばれちゃうから」
ニルさんに言われ、はっとする。
「三人もいるからだいじょぶでしょー」
お姉さんは気楽なものだ。それにしても涼しくて気持ちいい。
と思ったら肩を揺すられる。何かと思ったらお姉さんがこっちを見ていた。
「あ、起きた起きた。寝てたぞー」
気をつけようと思った矢先に寝ていたらしい。
しかも一番寝そうだったお姉さんに起こされたのがちょっと悔しい。
「朝からいろいろ行ったしねー。次で降りるらしいよ」
ニルさんとお姉さんに続き、わたしもシートから立つ。
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