初めての同人誌
もう入場の列はなくなっていたので、楽に入ることができる。
「今日はどうしよっか」
「小説のところに行きたいです。あと、創作も見て回れたら行きたいですね」
お姉さんにうながされ、昨日見てみて面白そうだったところをいくつか言ってみる。
「あたしはそれにJUNE系ちょっと見るかなー」
「私は評論も」
「じゃあ左っかわの建物ずーっと回ればいい感じ?」
「だね。適当に別行動してもいいけど、待ち合わせ大変そうだし一緒に行く?」
「はい」
三人連れ立って回ることになった。建物の中は人波に飲まれながら動くような移動なので、見失わないようにしないと。
「じゃあ、行こっか」
お姉さんがさりげなく手を差し出してきたので、その手を握る。
さっきまで飲み物を片手に持っていたせいか、体温が低いのか、少しひんやりして気持ちいい。
それもわたしの熱で温められ、何も感じなくなる。
ニルさんを先頭に、お姉さん、わたしの順で連れ立って建物に入る。
最初に入ったのは少女系の創作。オリジナルの少女漫画やイラストが並んでいる。
ニルさんからサークルのプロフィールやイラストが描かれたサークルカットを見て、行きたいサークルに目星をつけておくといいと言われていて昨日作業をしたので、そのメモに書かれた番号をふたりに伝えながら通路を行く。
見ると決めていたサークルの近くにも魅力的な本が置かれていることも度々で、目移りしながら時間が過ぎていく。
それに、お姉さんやニルさんも色々と見つけてどんどん見る場所が増え、何冊か同人誌を買ってしまった。
「おめでとー。初同人誌」
「あ。コミケが最初だったんだ。地元のイベント行ったことないの?」
「はい。お姉さんに言われて初めて詳しく知りました」
外に出て買った本をトートバッグに詰めていると、ふたりから謎の祝福を受ける。
「ヒダカちゃんも悪い子だね。業の深いこと教えちゃって」
「いやー。あたしってばこんなんばっかり趣味にしてるからさー。夏休みにどこか行きたいって言われて困っちゃったわけよ」
わたしが夏休みどこかに行きたいと言い出したからお姉さんがコミケに行くように手を回していたとは知らなかったみたいで、ニルさんが意外な顔をしている。
「それに夏は死んじゃうインドア派だしねー。どうしたもんかと思ったけど、ニルちに誘われてたし、いっそコミケにふたりで行こうかなって」
「そこは海やらプールなんかに連れてってあげなよヒダカちゃん。コミケだってこんなんだから」
ニルさんは少し呆れた顔をして、日射しを見上げる。
「いやー、こたえるねー」
「でも、こういうの楽しいです。ありがとうございます」
タオルで日射しを遮ってるつもりのお姉さんの手を握り、思っていることを言う。
「ありがとー。君が楽しんでくれてるならいいやー」
「ゼロワンさん。あまりこの子甘やかさない方がいいよ」
ニルさんからそう言われ、ついつい苦笑いが出てしまう。そんなに甘やかしてるつもりはないのだけれど。
「まー、そろそろ次行こうか」
「そうね」
荷物を整理し、またちょっと飲み物を飲み、大きな扉が解放されている隣の建物へ向かう。
JUNE系は昨日ちょっと話をしたように、男性同士の恋愛もの。
同じ建物には文芸サークルも入っていて、こちらはオリジナルの小説や詩の本が並んでいる。
ここではお姉さんが自分のメモを見ながらわたしとニルさんを連れ回し、色々と買い物をしていた。
十八歳未満には売れないみたいな注意書きを書いたものもあるので、そういうのは見なかったことにして、わたしも興味が出たものはちょっと立ち読みもした。
「実際に色んなサークル見ると眼福だわー。雑誌に投稿したり通販してるところばかりじゃないし」
「そうそう。カタログの住所に手紙送るのもハードル高いし」
「だよねー」
歩きながらお姉さんとニルさんが話している。
確かにカタログに連絡用の住所氏名を書いているサークルもあるが、見ず知らずの人に問い合わせの手紙を書くのはちょっと、いやかなり勇気がいる。
そう考えたら、実際に読んでみることができるコミケは助かる。
問題はそこに行くまでのハードルかもしれないけれど。
そしてわたしたちは、そのまま隣の小説系サークルが入っている建物へ向かう。
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