アンナミラーズ
そしてしばらく電車に揺られ、品川で降りる。
昨日は通り過ぎるだけで気にしてなかったが、広い駅だ。
わたしたちが向かっているのと反対方向には工事中の空き地が広がっている。
しかし、ニルさんに連れられてわたしたちが出てきた方はビルが建ち並び、いかにも都会な雰囲気なのが不思議なくらいだ。
目的の店はその駅前にあるビルに入っていた。
ショーケースの中にはアップルパイやその他色々なパイが並んでいる。
土曜日の昼前だからそれなりにお客さんがいたが、待たずに座ることができた。
店員さんは確かに他のファストフードやファミレスとは違う、かわいい制服を着ていた。
「アップルパイがおすすめかな」
「へー。じゃあアップルパイとコーヒーで」
「わたしもそれで」
注文を済ませ、お冷やを口にしながら食事が来るのを待つ。ニルさんは飲まない派のようだ。
「そういえば、今日はこれからどうするんですか」
「ここから山手線に乗って、地下鉄に乗り換えて会場かな。東京駅からバスがあるけど、相当混んでるはずだから」
「そーなんだ。案内はジモティーのニルちに任せるよ」
「会場までまあまあ歩くけど、多分一番確実よ」
「そういや昨日も歩いたねー」
「三十分くらいかかった気がします」
「そーそー。橋に日陰がなくてさー」
「あ、日よけになる物持ってた方がいいってメールに書き忘れてた。初めてだもんね」
「道中のことまで考えてなかったよ」
「そうなんですよね。日焼け止めは塗ってたけどちょっと痛いです」
今日の予定や昨日のことで話が弾む。こういう話は今までお姉さんとばかりしていたから新鮮だ。
「こちらアップルパイとお飲み物になります」
盛り上がっているところに店員さんがやってきたので話は中断される。
「へー。結構大きいし厚い」
「ね?」
「リンゴもたくさん入ってますね」
パイを食べながらコーヒーを飲む。朝に食べるものとしてはちょっと重いが、これからのことを考えたらこれくらいでいいのかもしれない。
「帰り道のこととかは道すがら話しましょ」
食べた後もまたちょっと話をして、店を出て、また駅へ。
コンビニで飲み物も買ったので、準備は万全だ。
テレビでもよく見る緑の電車に乗って東京駅を通過して次の駅、有楽町というところで降り、そこから地下鉄に乗り換えるとすぐ豊洲に着いた。
昨日買ってパラパラと読んだカタログで、築地などと一緒に最寄り駅として書かれていた場所だ。一目でコミケ目当てとわかる人たちでごった返している。
人波をかきわけながら、地下から地上へと出る。
太陽に照らされる地上は、開けている。というのが第一印象。
道幅が広い道路で区切られた土地に、大きな建物がどん、どんと建っている。
昨日も会場の近くで感じたが、他の街とはスケールが違う感覚。
「途中ではぐれたらこの出入口近辺で待ち合わせね。でも、ベル鳴らしても電話がないからどうしようか」
「んー。デッドライン決めとけば? 三時までとか」
「じゃあそれで。それ以降は自力で私の家まで帰って」
「わかりました」
めまいのような感覚に襲われながら、はぐれたときの打ち合わせなどをしつつ、昨日と同じように人の流れにしたがって会場へ向かう。
まるでテレビや本で見た巡礼者のように。
お昼時なので頭の真上に来ている太陽からの光と熱を浴びていると、自然と言葉が少なくなる。日陰も少ないので、前へ、前へ。
タオルで陽をよけてちょっとずつ飲み物を口にしながら歩き、ほのかに海の香りがする橋を渡り、ふたたび会場に到着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます