秋葉原へ行こう
広大な空間が外界と仕切られていて、その道路沿いに店がひしめく場所がある。学校の近くにある古い商店街とも似ている。
しかし、ほとんどが昼は二時、三時に終わるみたいで、開いている店が少ない。
そして、開いている店を見つけても。
「いやー、高いねー」
「はい」
「こりゃ学生には辛いよー。ごめん」
お昼にちょっと食べるには高すぎた。わたしたちは背伸びをしすぎたみたいだ。
「我慢できない。飲み物買うから待ってて」
「あっ。わたしも」
市場でがっかりしたわたしたちは、築地駅に戻る道すがら飲み物を買う。コミケの会場にも売店や露店は来ていたが、人が多くて行く気も起きなかったので、ようやく水分を採ったことになる。
「はー。明日はジュース持ってかないと」
人心地ついたお姉さんが教訓を述べる。
もうしばらく歩いて駅が見えたとき、お姉さんが腕時計を見て口を開く。
「うーん。中途半端に時間があるなー」
「六時でしたっけ」
「そ。保土ケ谷だから、恵比寿から一時間もしないはず」
あと二時間ほどある。
「渋谷とか原宿とか行ってみる? 若者って感じの」
「自分も若者じゃないですか」
「ええー。でもガラじゃないしー」
「それならわたしも同じですよ」
実際、わたしは芸能とかファッションにうとい。そこまで関心がないともいう。
かといってお姉さんのように、別の趣味に興味が向かっているわけでもない。
小説や漫画も空いた時間を埋めるためのもので、はまる程好きな作品もない。
そういう自分を空虚だとは思わないが、面白くない奴だとは、たまに思う。
「そっか。それならあとはサ店で粘るか。あ、秋葉原行きたかったけど、明日でもいいしなー」
「パソコンの店ですか」
「そーそー。専門店がいっぱいあるの」
瞳を輝かせて解説してくれる。専門店というと、地元でお姉さんに連れて行かれた、パソコン関係の物しか置いてない店か。
「二時間くらいならいいですよ。わたしは特に行きたいとこないですから」
「ほんとにー? じゃあお言葉に甘えよっかな」
嬉しそうな顔で切符売り場に行くお姉さんの後をついて行く。
こういう表情を見るのが、幸せなのだ。
築地から秋葉原までは乗り換えもない。空いていた席へ横並びに座り、しばしくつろぐ。お昼頃からずっと歩いていたので、染み渡るように疲れが癒やされる。
「あっ。もう次だよ」
と思っていたら、ほんの十分程度で秋葉原に着いてしまい、後ろ髪を引かれながら立ち上がって再び歩き出す。
地上に出てしばらく歩くと、突然、激安やビデオ、テレビなど、その壁一面に広告の文字が躍るビルが視界に入った。ここもテレビで見たことがある。店先の様子を見るに電器店らしい。
「びっくりするよねー。あれ」
お姉さんが笑う。そういえば、駅からここに来る時もすんなりこっちに来ていた。
「知ってたんですか」
「去年受験でこっちに来て、ちょっと観光したんだー。結局、地元にしたけど」
どおりで。と納得する。東京に来てここなのも、お姉さんらしい。
「まー、そういうわけでちょっとは君をエスコートできるってわけ」
恥ずかしいことを言うお姉さんに連れられ、ガード下を抜けて秋葉原の街を歩く。
大通りは家電の店という感じの店がよく見える程度だが、小さな通りに入ると、露天のようにむき出しの電気機器や小さな機械が並べられている。
こういう怪しさはお姉さんの好きそうなものだ。
そういう小さな店にはゲームショップもあり、その店先をちょっと眺めたりもする。
明らかにわたしの住む街のそういう店よりも、並んでいるものに幅がある。
「どこから仕入れんだろうね、こういうの。田舎のおもちゃ屋を探す人らもいるらしいけど」
「そんなに古いんですか」
「この辺はファミコンと、これはカセットビジョンだから十年と少し前くらいかなー」
わたしが生まれた前後だった。そう言われる特に古くもないような気になるので不思議だ。
「表の方にあったスーファミが五年前で、去年サターンとプレステが出たし、この辺のは地方だと見なくなりつつあるねー」
「もう少ないんですか」
「それもあるけど、買う人が少ないから置かなくなっちゃうの」
店の中で大きな声を出すのもはばかられるので、お互いぼそぼそと会話する。少し後ろめたい。
「まあその、秋葉に来ればあるって安心感があるのかな。結構高いけど」
最後のほうは本当にこっそり囁かれる。何度かうなずいて返事をする。
となると、ここはお姉さんのような人にとっては、安心できる街ということなんだろうか。
一通り見終わり、外に出る。弱いながらもエアコンがついていた店の中から出たせいか、暑さがのしかかってくる。
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