3.ゴブリン討伐

 ゴブリンが居るのは街の南門を出て少し進んだところにある、はじまりの森だ。

 木の枝が屋根のように伸びており、昼の今でさえ視界は若干悪い。遅くなる前に終わらせた方がいいだろう。


 まずは私のできることを整理しよう。


 スキルは4つ。そのうち、役立ちそうなものは、 〈魔物図鑑LV1〉〈直感LV1〉〈黄魔法LV1〉だ。

 ただ、〈魔物図鑑LV1〉は今の所スライムの情報しか見れないので、倒した魔物の情報だけが見れるのだろう。

〈直感LV1〉は五感を鋭くするが、LV1だとそこまで強化されない。また、常時発動型であるため、このスキルを使ってどうこうできるわけではない。

〈黄魔法LV1〉はまだ灯火ライトしか使えない。光量もそこまで強くないから不意をついて使えたとしてもびっくりするぐらいだ。頼りにするには少し心もとない。


 スキルは微妙だ。かと言って、武器はないし、防具もない。あるのは拳と薄い服だけだ。

 ゴブリンは弱いが、それでもただの小娘の私よりは断然強いだろう。孤立しているゴブリンに奇襲をしかけてようやく5分5分と言った所だろうか。


 1回戦ってみて、ダメならもっと簡単なクエストをやる、という訳には行かない。宿代、飯代で無くなってしまうと武器や防具が買えない。

 遅かれ早かれゴブリンぐらいの敵は倒せないといけない。なら早い方がいいだろう。


 私は近くにある投げやすそうな石を数個拾って草に隠れた。ゴブリンが来るまで待つ。

 隠密なんてしたことがないから、何時までこうして待ってればいいのか、ゴブリンなんて居ないんじゃないか、と不安になる。

 それでもじっと待っていると、1匹のゴブリンがきた。


 ゴブリンは腰に葉っぱを巻いていたがそれ以外の装備はなく、私でも勝てるかもしれない。だが、油断はしない。

 ゴブリンが私に背中を向けた瞬間、立ち上がり石を投げた。半分も当たったのは上出来と言っていいだろう。


 突然の痛みに硬直しているゴブリンに向かって走り出し、勢いをつけてみぞおちを蹴る。


「グォォ!」


 呻いてはいるが浅い。ギラついた目が私を捉えた時、悪寒が走って殴った。

 ゴブリンが何も言わなくなるまで殴った。私の力は弱いから、殺し切るまで何回も何回も殴った。

 途中からゴブリンは泣きそうな目で見ていた気がするが、やらなきゃやられるだけだ。


 ゴブリンが消滅し、魔石を落とすと私はその場に座り込んだ。


「はぁ…はぁ…」


 魔物と言えど生き物を殺した。私の右手にはまだゴブリンの感触が残っている。

 吐きそうな気分だ。だけど、生きるためにはここで止まっていては行けない。

 たかがゲーム、そう思っていた。けど、私はもうこの世界をただのゲームとは思えない。


 死にたくない。ここまで感覚がリアルに再現されているなら、死んだ時の感覚はどうなっているのか。考えただけで恐ろしい。

 覚悟を決めよう。私は、生きるためなら全てを利用する。そして、願いを叶える。


 そのためにも、ゴブリンをあと9匹殺さないと。


 2匹目のゴブリンは1匹目と同じように殺せた。少し慣れたのもあり、時間は半分ぐらいに短縮できた。


 3匹目のゴブリンは棍棒を持っていたから苦戦した。拳より棍棒の方がリーチが長く、迂闊に踏み込めなかった。思いつきで使ってみた灯火に怯えていた隙をついて棍棒を奪い、殴り殺した。

 棍棒がゴブリンと共に消滅したのは残念だった。


 4,5,6匹目のゴブリンは何も持っていなかったから楽に殺せた。少し力が強くなった気がする。


 7匹目のゴブリンは弓を持っていたが、殴り合いに持ち込んだ時点で私の勝ちだ。


 8,9,10匹目も問題なく殺せた。


 これで10匹、クエスト達成だ。

 すでに辺りは暗くなっていて、早く帰ろうとした時だった。


「っ!」


 私の〈直感LV1〉が反応した。とても強大な存在を感じる。幸い私から近くは無いが、モタモタしていると私の存在がバレる可能性がある。


 疲れた体を酷使して冒険者ギルドに戻り、クエストの達成報酬を貰った。

 宿は選ぶ余裕がなかったから近くにあった1泊1000Yの普通くらいの宿にした。

 ベッドに倒れてログアウトと念じると、私の意識は落ちた。



 ―――クエスト―――

 目標:ゴブリン10体の討伐

 報酬:2000Y+1000Y

 状態:達成

 追記:上位種の確認の報告により報酬を1000Y上乗せとする。

 ――――――――――


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