第8話:イメージ戦略

 教室での俺のイメージが良くない。いや、正確には「良い」のだが、俺の計画から行けば最悪でなければならなかった。


 先日の鈴木の一件で、俺は「実はいじめっ子ではないのでは」と疑いをもたれている。


 そして、須河内すがうち陣内じんない安彦あびこのイキったやつらがクラスで暴れ始め、新たなるいじめっ子として出て来そうだったので、出鼻をくじかせてもらった。


 俺が目立たなくなるからだ。


 けっして、あいつらが遥を殴ったからその仕返しではない!


 とりあえず、あの三人を大人しくさせたので、教室は静けさを取り戻し、俺は再び「暴力を振るう怖いヤツ」としてクラスのやつらの畏怖の対象と返り咲いた。


 それなのに、その日たまたま弁当を忘れたせいで妹の美沙姫みさきが教室まで届けに来てしまった。


 クラスの不良と笑顔が可愛い美少女は絡んではいけない。大失敗だった。


 俺は教室内でいじめる相手がいなくて少々イライラしていた。絡んできてくれれば全力でやり返せるのに、誰も来ない。


 それどころか、ニコニコしながらチラチラこっちを見てくるヤツもいる。明らかにイメージダウン、いや、イメージアップだ。


 なんとかイメージダウンを図ろうと、椅子にふんぞり返り、机に両足を載せ、いたずらにスマホでポチポチやっている。


 ちなみに、教室内では用事がないのにスマホを取り出して操作するのは禁止だ。よく見ると、周囲のやつもスマホの画面を見ているヤツが多いのでこの行為は無駄かもしれない。




『神庭紀一郎、神庭紀一郎、職員室に来なさい』



 昼休みに放送が入った。


 教師から職員室に呼ばれたのだ。これは悪い! 明らかに悪いヤツだ! よくやった西新にしじん


 西新とは、クラス担任の教師だ。40代の男性教師なのだが、学校内で女子を盗撮しようとしていたのを俺が捕まえた。


 スマホを取り上げて保存されている動画や画像を見たけど、盗撮らしきものはなかったので、たまたま魔が差しただけだろう。


 それ以来、弱みを握っているので、俺がいいように使っている。




「神庭です」



 職員室の扉を開け中に入った。



「来たか。生徒指導室に行くぞ」



 職員室で西新が厳しい口調で言った。中肉中背……というには、お腹だけは少し出ていた。カッターシャツにスラックス。髪は七三分け、よくいる目立たない教師といった印象。俺は臆することなくついて行った。



 *



「神庭くん! クラスの子から聞いたよ! 鈴木くんを田中くんのいじめから救ったんだってー!?」



 生徒指導室に入ると、明らかにさっきの態度と違う西新。人はこうも掌を反すことができるのか。大人って怖いぜ。



「違うわ! あれは陰湿ないじめが教室内にあったら気分が悪いから……俺のいじめが目立たなくなるだろ!」


「もう、僕には神庭くんが何を言ってるのか分からないけど、僕が教頭に褒められてさ!」



 テーブルにお茶を出してくれた。ここは「生徒」を「指導(要するに叱る)」する場であって「接待」する場所じゃないはずだ。



「そういうのは、お前の手柄にしとけよ! 俺のイメージが良くなるだろ!」


「うん、そうだったね。こっちも僕には一ミリも理解できないけど、そうさせてもらうよ」


「あと、須河内すがうちくん、陣内じんないくん、安彦あびこくんが教室で暴れてたのを止めてくれたんだって?」


「あれは、単なるケンカだ。ホームルームとかで注意しろよ!」


「それとなく、言っておくよ」


「それだと遥は殴られ損だ。ちゃんと謝るように言ってくれ」


「分かったよ。頑張ってみる」



 ちょっと戸惑い気味に言っていた。本当に大丈夫か⁉ 俺があの三人の首根っこを掴んで遥の前に突き出して、謝らせることは簡単だが、それだと俺は善行をしたことになってしまう。


 それは俺にはできないことだった。



「あと、この後 午後の授業が始まる前は『神庭は以後くれぐれも注意しろよ』とか、あたかも説教していたみたいに一言 言えよ!」


「うん、それだと僕、神庭くんにも強く言える厳しい教師っぽくて教室でもやりやすいから強めに言わせてもらうよ」


「それで頼む」



 俺はなんでここに呼ばれたのか……

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