5 生物は環境の中で常に変化し続けるのだ

前書き

伏線張るのむずかしい


本文

 人に物を教えるのはとても大変だ。小学校や中学校なんかは免許が必要だし、教えるだけで給料が貰える。正確に言えば教える事だけが仕事ではないだろうが、大部分は授業だと思う。理解しやすい教えは金になるのだ。


 地球ではブラックな職場で奮闘する教員がいる中、人生経験が浅い中学生は一人の娘に戦い方を教えていた。






「良いか、狙うのはここだぞ」




 木の枝で地面に下手くそな絵を描きながら、急所とそうした場合の利点を説明する。地面に描かれている絵は丸い円盤のような形をしていて、微妙に立体的で特徴だけは捉えている。




「どうして?」




 下手くそな絵と分かりにくい説明、ベストマッチなコンボは第二者に対してどうしようもない不快感と疑問を与える。


 世の中には他に類を見ない天才という者が存在するが、同時に出来損ないと凡人も存在する。残念ながら俺は凡人、一歩間違えば出来損ないだ。


 


「だから、ここはエネルギーを貯めている所なの。エネルギーを失えば何だって動けないだろ」




 下手くそな円盤の真ん中を木の枝でつつく。普段は優等生なのに、何故こんなに物分りが悪いのだろうか。




「でも、ここは円の中心だよ。円盤は物凄い速さで移動するんだから、当てられるわけないよ」


「う~ん」




 教える側が無能というのはよくある話だ。無能が人に根拠や理由を的確に説明する事は難しい。


 中学校の先生は万人が理解出来るように日々努力をし続けているのだ。だが、俺には才能も準備する時間もない。だから、俺のやり方を見つけなければならないのだ。




「あっ、空を飛ぶ装置を壊せば良いんじゃない」




 あの宇宙船は重力の操作によって飛行している。また、タキオン粒子を利用する事によって光の速度にまで到達できる。その装置は円盤に何個も取り付けられている。




「駄目だな。車と違ってエンジン一つで飛んでいるわけじゃないからな。一度に全部壊すなんて事も出来ないし、あまり現実的ではないな」


「えー」




 俺はそもそも教師ではない。だから、人に物を教えるのは下手くそだ。その結果、思いついた事をお互いに言ってメリットやデメリットを考える議論の形式になってしまう。




「でも、どこか一つでも壊せば動きが変わったりするんじゃないの」


「ほんの一瞬だろうから、当てにはならないだろうな」




 お互いが平等な立場での話し合い、そこに父と娘の関係は必要ない。そもそも、親らしい事ができていない俺が偉そうにするのはおかしい。常に謙虚であるべきだ。




「まあ、場合によってはその一瞬が役に立つ事もあるだろ」


「そうだね」




 相手を否定するだけでなく、良いところも誉め合う。それが話し合いをスムーズに進める為の秘訣だ。誰だって否定ばかりされたらやる気を失くすからな。そう、異世界転生するニートみたいにな。




「そもそも、破壊するという考えだけでいいのかね」


「どういうこと?」


「そもそも、お前が使う武器は俺が創るのとか、自然にある石とかだろ。俺はできるだけエネルギーを節約したいからこのやり方は良くないと思うんだ」




 俺は星を吸収した。だからエネルギーがゼロになるなんて事はないと思うが、何事もあの勇者のように慎重にならなければならない。お腹がすけば死ぬように、エネルギーがなくなれば俺は死ぬのだ。




「じゃあ、私もパパみたいに身体を自由自在に変化できるようになればいいんじゃないの?パパの娘なんだから私もいつか凄い力が使えるでしょ」


「あれ?言ってなかったか。この力は奴らに実験されたからなんだ。だから、ダレスに特別な力なんてないよ」




 宇宙人に無理やり行為をさせられたのは相棒と合体する前だ。つまり、ダレスには純粋な人間の雑魚い遺伝子が流れているのだ。


 ダレスにこの力を移す事はできるのか?




『無理だよ。力を分け与えるとか、俺が移るとか、そんなことできるわけないだろ』




 何故か微妙に上手くいかない世の中だ。




「知らなかった」




 ダレスの顔を見ると、血の気が失せて青ざめていた。血圧低下によるショックでも起きたのだろうか。




「どうした?」


「ちょっと無神経だった。何も知らないのに勝手に凄い力が手に入ると思って、ごめんなさい」


「気にするなよ。言ってなかった俺が悪いのさ」




 ダレスはあれ以来、真面目になった。前みたいに、ご飯が不味いから俺の皿に移すなんて事はしないし、ふざける事も少ない。一つの大きな出来事で少女の理念は変わってしまった。


 前の平凡な暮らしが懐かしい。




「でも、パパは嫌じゃないの?」


「何が?」


「あいつらに実験されて手に入れた力なんて、私は欲しくないよ。パパも本当は使うのが嫌なんじゃないの?」


「う~ん」




 何て言えばいいのかね。




「確かに使わないという選択肢はあるさ。でも、そうした場合、俺には何の力も残らないんだ。贅沢を言えるほど俺は強くないんだよ」


「贅沢は、敵」




 前にもこんな事を言った気がする。頭が悪い俺は何度も同じ事を繰り返す駄目な生き物だ。成長をしないから何度も負ける。気を付けよう。




「パパ、宇宙船の中に侵入するのはどう?」


「それは、良いかもな」


「パパは宇宙船の構造がある程度分かるから侵入するのは楽でしょ。それに、敵の兵器を奪えば自分も使えるし、敵の戦力も削れて一石二鳥だよ」




 こちらの戦力が減る事なく敵を倒す事ができる。確かにその方法は俺達が求めていたものだ。




「でも、ダレスは奴らの兵器を使うのは躊躇っていなかったか。本当にそれでいいのか」


「パパが言ってたでしょ」


「何を?」


「贅沢は敵だって」


「確かに言ったけど」


「それに、自分たちの武器で殺されるなんて、最高に皮肉でしょ」




 生き物を苦しめるのは恨みだと聞いた事がある。でも、そのくらいの原動力がなければ生きていけないのだ。どんな酷い事でも目標は大切だ。




「侵入するとしたら、ここだな」




 木の枝で円盤の真ん中を示す。




「そこって、エネルギーがあるところでしょ」


「でもな、ここが出入口なんだよ」


「もしもエネルギーが爆発したら逃げれないよ。この宇宙船を作った奴は馬鹿なんじゃないの」


「こいつらの命が大切なら、こんな造りにはしないだろ」


「それって……」




 奴らは、洗脳されている。それに数もまだ多く残っている。




「使い捨てなんだよ」


「もしかして、あいつらも被害者なの?」


「難しい質問だな」




 確かに、無理矢理戦わされている奴がいるのも事実だし、この虐殺を止めようと反論した奴もいる。全てが全て敵だとは言い切れない。しかし、そいつらだけ洗脳を解いて助ける事も出来ない。俺の力は万能ではない。




「俺が住んでいた国には、こんな法律があるんだ。人質を取られていたから、仕方なく命令に従って人を殺した。この場合、指示した奴の罪の方が重いが、殺した側も犯罪者だ。洗脳されていようが、俺達の命を脅かすなら殺したって良いだろ。あいつらは被害者かも知れないが、俺達にとっては加害者だ」




 同じ生き物でもないのに罪なんておかしな話だけどな。




『もうちょっと分かりやすい説明をしろよ』




 刑法なんてうろ覚えだ。そんな事できるわけないだろ。




『俺の能力なら記憶も鮮明に思い出すだろ』




 理解力が低いんだ。察しろ。




「助ける方法はないの?」


「無い」


「そっか」




 ダレスは少しだけ暗い表情をしている。


 なんか、急にヒーローみたいな考え方をし始めた。主人公は俺じゃなくてダレスなのかも知れない。俺はダサくて、悪役に近い間抜けな馬鹿だからな。




「じゃあ、方針は宇宙船への侵入だな」


「うん」


「まず、俺が入口まで連れていく」


「待って。パパは空間を歪ませてワープできるでしょ。そっちの方が楽だよ」


「ワープした所にワープを重ねられるから意味がないんだよ」




 青いタヌキがポケットから出す不思議なドアがある。Aの地点とBの地点があると仮定し、一つをAからBに向かうと設定した後、もう一つをBからAに向けて重ねるように設定すれば、あら不思議。ただドアをくぐっただけ。


 相手が同じ力を持つ場合、チートの意味は薄れる。髪の毛のようにな。 




「でも、何回もやれば行けるんじゃない」


「エネルギーが減るし、場所もばれるだろ。デメリットの方が大きいよ」


「前から思ってたけど、パパは倹約家なんだね」


「下手したら死ぬからな」




 エネルギーがなくなる事は俺にとって死活問題だ。それにしても、ここはケチという場面なのだが、本当に変わったな。パパは情けない気分になったよ。




「次は侵入した後だな」


「そうだね」


「と言っても、操作する部屋はどこにあるか分からないから、しらみ潰しに頑張れ」


「えー」


「いやぁ、一つ一つの部屋に違いがないからな。見分けるのが難しいんだよ」




 奴らの宇宙船の構造は中心が出入口になっていて、その周りを隔てる壁と一つの扉がある。扉の向こうは円状の廊下になっている。その廊下にはいくつも扉があるが、基本的に見分けがつかない。




「難しいだけ?」


「ああ、番号があるんだ。でも、機体によって違うから乗組員しか分からないな」




 奴らの宇宙船には、ドアの前に1とか2とかが記されている。




「規則性とかはないの?」


「あるかもしれないし、ないかもしれない」 


「分からないんだね」




 暗号解読なんて難しい事、できるわけがない。アインシュタインみたいな天才ではないからな。


 相棒は何かわかったか?




『いいや、分からないよ』




 スライムさんのスキルは天才だし、右手に寄生するやつも頭が良い。でも、俺の相棒は大した事がない。脳が筋肉でできている純粋な馬鹿だ。




『なんだと!君だって馬鹿にできるほど頭が良いわけじゃないだろ』




 痛い。言葉のナイフが突き刺さってきた。でも、ネットで聞くような言葉よりは柔らかい。つまり、ネットは怖い。




『匿名によって誰でも平等になったからこそ、怖い』




「パパ?」


「おっと、ごめんごめん」




 脳内会話のせいで少しだけボーっとしていた。もっと自分を律しなければ。




「前言ってた二重人格みたいなのとお話してるの?」




 小馬鹿にするような目線。どっかの高い木さんみたいにからかってるのか。きっと気のせいだな。




「番号の事に関して、ちょっとな。それよりも次の話するぞ」


「はい」


「侵入した後は、こんな感じでボールが出現する」




 手からボールを一個出す。




「でも、こいつは光の速度で動くからお前じゃ対処出来ない」




 ボールがダレスの目に見えない速度で宙を飛んだ。




「ダメじゃん。やっぱり、私は無力なの?」


「大丈夫。ボールが出る扉の速度は光よりもおそいからな。そこを狙えばいいさ」




 しかし、阿保な俺でも気づく致命的な問題がある。




「ボールはビームを反射するよね」


「そこなんだ。でも、しまわれている時はヒト型だから大丈夫。ビームは効くさ」




 俺が相棒と暴走した時、奴らはシステム起動とか言ってロボットを出してきた。それに、あの三機も最初はロボットが出る仕組みだ。 


 ロボットはビームこそ撃てるが、反射やバリアができないので何の問題もない。




「操作する部屋に着いたら、後は分かるだろ」


「うん、全員殺して宇宙船を操縦すれば終わりだよ」




 言ってる事が怖い。一つの出来事でこんなに変わるんだな。ダレスにも自分にも驚いた。




「敵を撃つタイミングは自分で考えろよ」


「大丈夫だよ」




 不安しかないが、今さら止める事もできない。今の俺にできる事は準備だけだ。




「さて、今の自分が何を練習すれば良いか分かったか」


「うん、射撃の精密さと狭い場所での機動力を上げれば良いと思う」


「お、おう。そんな感じだな」




 


 荒れ果てた大地、無数にあるクレーター、崩れ落ちる廃墟。侵略されて何もかもがなくなってしまったリミーの故郷には練習に適した場所などない。


 この場合に取れる選択肢は、目的を達成できる場所に行く。あるいは自分で作る。大まかにわけてこの二つだ。そして、俺には自分で物を作る力がある。


 出番だぞ、相棒。




『あいよ』




 右手を前にかざすと、手からメタリックな円盤が出てくる。大きさや構造まで完全再現した二級品だ。




「パパ、これを作ったらエネルギーが消費されるんじゃないの?」


「また取り込めばプラスマイナスほぼゼロさ」


「ちゃんと考えてたんだ」


「ケチだからな」


「そっか、じゃ行ってくるね」




 ダレスが円盤の中へと入っていく。


 持ち物は腰に付けられた二丁の銃だ。この銃は少し特殊で刃が付いている。接近戦もできる一級品だ。背中にはバッグがあり、トランシーバー的なやつなどの便利な物が入っている。






「さて、俺達も始めるか」




 俺の能力はあの宇宙人が開発した物だから、俺以外にもわんさかと現れる可能性がある。俺達は偶然フェーズ3の洗脳の状態から逃れる事ができたが、他の人間はそう上手くはいかないだろう。それこそ、量産する事だってできる。


 だからこそ、俺はこの力を理解し上手に扱えなければならない。




『ボールのからか?』




 ああ。


 フェーズ2のボールやフェーズ1のロボットなんかは、目的を設定した上でそれらが意思を持ち行動する。生物のように何をどうすれば良いのか考える事ができるのだ。


 だとしたら、目的を設定した上でその物体自体の能力を上げる事も出来るのではないだろうか?例えば、俺と同じように吸収や再現なんかができるコピーや、俺が吸収した生き物の記憶でその生き物自身を蘇らせる事だ。




 手から俺と同じような見た目の男が創造される。黒目黒髪のザ日本人だ。こいつに与えた目的は俺の命令に従え、だ。




「右手上げて」




 コピーの右手が上がる。ちょっとだけ面白くなってきた。




「右手下げないで、左手上げて、右足上げて、左足上げる」




 コピーは両手を上げたまま、両足を上げて盛大にずっこけた。




「ぷっ、くくく」




『おい、あんまりふざけるなよ』




 分かってるって。それにこの実験で明確になった事があるだろ。




『そうだね』




 コピーの考える力は自分の身を守る為にあるのではなく、設定された目的に従う為の力だ。


 だとすれば、目的を達成した、あるいは目的が曖昧な場合はどうするのだろうか?




「今から自分の意思で行動しろ。お前は自由だ」




 ぐたっ




 コピーはそのまま倒れた。エネルギーが無駄になるので、コピーを吸収する。


 コピーは具体的で分かりやすい目的でないと仕事ができないようだ。




『主人に歯向かう展開はなかったね』




 そうなると困るのは俺達だけどな。


 さて、ここからが本番だ。このコピーは生き物というよりも機械に近い存在だ。ならば、目的の代わりに記憶と身体を与えればどうなるのだろうか?


 森に入るごとにちょっかいをかけてくる面倒なハンターを再現する。大きいのを作るのは、ほんのちょびっとだけ時間がかかるので子供にした。




 半分が黒い毛ともう半分が鱗で覆われた不気味な見た目、スピノサウルスのように細くて鋭い歯、ギョロリと動く四つの目、猫又のように別れた成長途中のしっぽ、1メートルもない小さな身体。


 星と一緒に吸収したハンターの子供だ。




 もしも、生き物を蘇らせる事ができるのなら、リミーも生き返らせる事が可能だ。彼女には伝えていないたくさん事がある。でも、俺は口下手だから素直になれないのだ。だから、後悔する。思いは口で伝えないといけない。




「今の気分はどうだ?」




 言葉でコミュニケーションを取る概念が存在しない生物だが、何となく声をかけてしまう。


 この子供のハンターは記憶を完全に復元し、心臓や肺などの生命維持に必要不可欠な器官もある。今も心臓が全身に血液を流し込んでいるはずだ。




 それなのに、何の反応もない。




『やっぱり、駄目か』




 死者の蘇生なんて行い自体が不可能なのか?




「くそ、何が足りないんだ」




 そういえば、闇教における死は魂との解離だったな。約28グラムと言われている、存在も不確かな、形も分からない、漠然としたイメージしかないそれが、本当に必要だというのか?




「魂なんて、あるわけないだろ」




 もしそうだとしたら、俺という存在はどうなるんだ。二重人格なのか?それとも、二つの魂が共存しているのか?一つの体でそんな事ができるなんておかしいだろ。




「お前は、生きているだろ。自分の意思を、持っているだろ」




 肩らしき場所を何度も揺らす。


 奴らの機械によって洗脳されていたとはいえ、こいつは俺が殺したんだ。それなのに、無理やり記憶を戻して実験されている。何とも鬼畜で、非道な行いだ。もしも、こいつに意識があるのなら苦しいと感じているだろう。


 どうして俺はこんなにも、醜いのだろうか。




 ぐたっ


  


 子供のハンターは、倒れた。心臓は止まっていて、目に光はない。ピクリと動く事もない、ただの大きなぬいぐるみだ。


 この世界のルールには死者を蘇らせる行為が禁じられている。そのルールは誰にも破られていない。絶対普遍のルールだ。




「なぜ、上手くいかないんだ」




『どこを探しても、いつの時代を巡っても、神に祈ろうとも、叶えられない願いがあるんだ』




 俺は人じゃない。でも、人の夢は儚い。俺の夢も人の夢のように儚い。




「もう、いいか」




 肉でできた大きなぬいぐるみに手で触れる。すると、ぬいぐるみを包むように手が変化し俺の体内に吸収される。俺の性根はとても倹約家だ。




「ボールはここまでで良いか」


  


 諦めようと思っても、諦められない。心の奥底にずっと引きこもっている。




「次は何するかな」




 立ち直ることが正しくて、座り込んだままは間違い。引きこもりは悪で、働くことは偉い。金持ちは楽できて、貧乏人は虐められる。イケメンはモテて、ブスはキモいと言われる。


 こんなに苦しい世界を創ったやつは、誰なんだろうな。




「そういえば」




 空間の歪みと呼んでいる、空間を超えた現象を引き起こす事ができる。そして、それをもたらしたのは預言者だ。その預言者は文字通り未来を覗き見る事ができる。ならば、時間を超越する事だってできるかもしれない。




『無理だよ』




 いいや、できるはずだ。


 預言者が宗教と共に教えた技術とは、フェーズ1のヒト型ロボットや重力操作、ビームなどのあらゆる力だ。ロボットぐらいなら、そのうち地球で作られるかもしれないが、ビームとかはちがう。それらはエネルギーを闇へと還元させ、闇の力を使うのだ。闇は既存の法則をねじ曲げる事ができる。故に理解できていない事も多く、預言者の技を全て再現できていない。その例が未来予知だ。




 預言者が過去に戻ったという明確な情報はない。でも、法則を破れれば多次元的な空間、あるいは時間の移動だってできるはずだ。




 右手を前に出すと、迸る稲妻と共に空間に歪みができる。だが、これはただのワープだ。流れる時間は変わらない。




「何を、変えればいいんだ」


  


『今まで何人もの学者が研究してきたけど、解明されていないんだ。そんな簡単に分かるわけないよ』


 


 今、見えている物が全てとは限らない。別次元に行けば、それは形を変える事だってあるかもしれない。三角柱なんかは場所によっては四角形にも三角形にも見える。つまり、見ている立場を変えればいいんじゃないか?




『何言ってるんだよ』




 空間の歪みは座標の指定によって場所を特定している。その位置が遠ければ遠いほどエネルギーを消費する。ならば、そこに新たな軸、時間という概念をプラスすれば移動できのではないか。


 新たな設定をして再び空間の歪みを出現させる。




「これで、戻れ………」




 歪みは音を立てる事なく突然閉じた。




『だから、無理だって言ったんだよ』




「また、挑戦するさ」




 諦めない限り、命が続く限り、何度だって立ち向かう事ができる。それが生き物の特権だ。




『で、次は何するんだよ』




 光の速度で滑らかに移動できるようにするんだ。


 前に戦った時、明らかに技量の差があった。同じ速度だから追いつけないという事もあるが、曲がるときや上昇するときなど直角になっていた。そういうところを修正しないといけない。




『今度は俺の出番か』




 俺は吸収する事で記憶を奪える。しかし、その人が生きた経験とか技術をそのまま使えるわけではない。あくまで参考だ。 


 何の変哲もない中学生の見た目、そこからは想像もできないような速度で宙を舞った。




 おい、曲がる時に速度が落ちてるぞ。




『分かってるよ。意外と難しいんだよ』




 女神から貰う力はこんな努力するシーンなんてないだろ。俺の信仰している異世界の神様が泣いてるぞ。




『うるさい中二病。ちょっと黙っててよ』


  


 何だよ、中二病は悪くないだろ。


 光の速度だと、星なんて一秒で何周もできてしまう。周りの景色が線のようになって全く見えなくなる。そんな中で細かい調整をするのは達人の技だ。




 適当に星を周りながら障害物があったら避ける。しかし、ドリフトみたいな鮮やかな曲がり方ができない。直角になったり、そのままぶつかったりする。こんなものでは絶妙に役に立たない。




『練習あるのみか』




 コツとかがあれば楽なんだけどな。




『コツ、か』




 そういえば、取り込んだ奴の記憶では早めに曲がるように心がけていたな。


 ふと、あの宇宙人は光の速度の中でどうやって操縦したのかと疑問に思ったが、特別なことはない。映し出される景色をスローにしているんだ。あるいは、機械に操縦させている場合もある。




『見えてる景色は常にスロー状態だよ。でも、早めに曲がるとかはやってなかったね』




 ここから少し先には大きな岩があるはずだ。そこを意識して、早めに角度をつけておけばできるはずだ。


 岩とのスレスレの地点。そこを弧を描くように回避する。




『できた。できたよ』




 何かが出来るようになると素直に嬉しい。努力とかの意味はそういうところにあるのだろう。全ての行動は誰かに褒められる為ではなく、自分のこれからの為にあるのだ。


 あっ前。




『えっ』




 油断した間抜けな俺は木にぶつかった。木は大きな穴をあけて、支える事が困難になりそのまま折れる。


 筋肉は使わないと衰えるらしい。それと同じように常に危機管理をしないとすぐに油断する。もう一度心に刻もう。油断大敵。




『おい、あれなんだ?』




 空を見上げる。それはどこかで見たようなフォルム。変な軌道と一つの赤色の円盤。あれは俺が作った物とも違う。どうやら敵のようだ。   


 まだ、俺の事に気づいていない。ならば、不意打ちができる。身体を極限まで小さくし微生物くらいの大きさにする。そして光の速さで宇宙船に当たる。一度触れてしまえば俺の勝ちだ。一瞬で宇宙船を吸収する。


  


 奴らの記憶が流れ込んでくる。目的は星の破壊だったようだ。今さら何をしているんだろうな。




『洗脳した奴の考えまでは分からないよ』




 星を守る目的を与えたコピーを何個も展開させる。


 


『これで大丈夫だよ』




 そうだな。そろそろ、ダレスも終わった頃だな。




『戻るよ』




 空間を歪ませた方が早く到着できるが、せっかく上手くなったので光の速度で移動した。




 


 戻ると、ダレスは料理をしていた。


後書き

サ·レセクタの能力紹介




吸収


 生物でも機械でも、触れれば何でも飲み込むことができる。記憶やそのものの情報も分かる。




再現


 自分の形を変えたり、吸収した物質自体を作れる。死者蘇生は出来ない。




重力操作


 重力の向きや大きさを変えられる。




ビーム


 物質を破壊する。ビーム同士だと消滅する。エネルギーの使い方でバリアもできる。




反射する壁


 ビームの威力を上げて反射させる。やり過ぎると壊れる。




空間の歪みワープ


 稲妻と共に空間が歪み別の場所と繋がる。宇宙船の中に繋げようとすると歪みを重ねられる。





 タキオン粒子の利用によって光の速度に到達する。タキオン粒子は光の速度で動く粒子。




宇宙でも生き残る方法 


 体を機械にすれば呼吸をしなくてもいい。






サ·レセクタの倒し方


 エネルギーを使いきらせる。


 回復できないほどの攻撃をする。


 洗脳する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る