第5話
B研の瀬鳥会長の魔影の放った炎の魔法で3匹のゴブリン型の魔影が消滅する。
ちょっと避けるのが遅れていたら僕まで巻き込まれるくらいの威力と範囲だったから、まだ心臓がバクバクしている。
「式村君、すごいよ」
「会長の魔法がすごい威力だったってだけで、僕はそんなに褒められることしてませんよ」
僕はただゴブリンたちを引き付けただけで、1匹も仕留めることはできなかった。
ゴブリンたちを最終的に葬ったのは会長の魔法だし、そんなに褒められると、ちょっただけ居心地が悪くなってしまう。
「いや、本当にすごいよ。私は式村君の魔影も魔法に巻き込む気だったのに避けきったんだから」
会長、最低です。
「僕を巻き込む気だったって、どういうことですか?」
「いや、男子の式村君なら脳パンになっても最悪大丈夫かなって」
会長、ほんと最低です。
僕が恨みがましい目で会長を見ていると、星嶺さんが僕をキラキラした羨望の眼差しで見つめてきた。
「……式村君、なんで瀬鳥会長の魔法を避けられたんですか?」
「なんか、レベル10台の会長の魔影の魔法構築速度ならそろそろ魔法が完成するかなとは思ってたんだけど、うーん、あとは勘かな。なんか、自分の魔影に危機が迫ると背中がゾワワってならない?」
「……私はなったことはないですね」
「自分もそんな感覚を味わったことないっすね。式村先輩、まるで天才みたいっすね」
僕の説明に東郷は呆れている感じだけど、ほんとなんだからしょうがないだろ。
スライム退治で一緒になる、いろんなタイプの魔影使いの動きを見ているうちになんとなくわかるようになったんだけど、みんなは違うみたいだ。
「まあ、でも本当にギリギリだったけどね。あんな威力の魔法に巻き込まれたら、僕も初脳パンってことになってただろうし、本当に良かったよ」
「へっ!? ひょっとして式村先輩って、脳パンになったことないんすか?」
「ルリルリったら、何いってんの。魔影保持者として活動しているなら、そんなことあるわけないよ」
「でも、式村先輩の今のいいようじゃ、そうとしか考えられないっす」
東郷と瀬鳥会長が慌てている。
あれ、僕、何かおかしいこといったっけ?
戸惑う僕に星嶺さんが、ずいっと迫ってくる。
「……式村君、実は強いんですか?」
「えっ、僕は弱いよ」
レベルは2だし、初期装備だし。
星嶺さんたちに比べたら、最弱もいいところだと思うんだけど。
「……でも、式村君は脳パンを経験したことないんですよね」
「うん」
僕の返事を聞いて、会長が星嶺さんに何か耳打ちしている。
「あーさ、頼んだ」
「……はい、式村君ちょっと恥ずかしいんですが、私の胸どう思います?」
「最高っ!」
って、星嶺さんまで僕に何言わせるの!
「嘘は言ってないようだね」
「そうっすね」
やめて、こんなことで僕の発言の真偽を確かめるの! 僕のプライバシーにも、もっと配慮してほしいんだけど!
僕の存在が星嶺さんに悪影響を与えているような気がするんだけど大丈夫なのかな?
「ねえ、式村君、せっかくゴブリンも片付けて小学校の校庭を広く使えるんだし、私達とゲームしようか」
「ゲーム?」
「大丈夫、簡単なゲームだよ。私達が全員鬼で、逃げる式村君の魔影を全力で倒しにいく。脳パンされたら式村君の負けって感じで」
「あの、それって、僕の勝つ条件がないような気がするんですが、気のせいですか?」
「そうだね、私の気がすむまで逃げきれたら式村君の勝ちってことでいいよ」
えっ、何、瀬鳥会長の好奇心の度合いでルールが変動する勝負って、なんなの。
こんな酷い条件聞いたことない。
「式村君は乗り気じゃないみたいだね」
「なんかご褒美でもあれば頑張れるんですけどね」
「ご褒美か。上手く逃げきれたら、私が責任をって、あーさとルリルリとのデートをセッティングしてあげるよ」
「さあ、いつでもかかってきてください!」
こんな最高の条件は聞いたことない。
僕のやる気が、さっきのゴブリンなんかのときと比べ物にならないくらいの最高潮だ。
東郷はともかく、現役アイドルの星嶺さんとデート。こんなもん、やるって選択肢以外あるわけがない。
「……会長、そんな約束を勝手にされても困ります。式村君とデートだなんて、心の準備が」
「自分もデートするなら相手は、イケメンって決めてたんっすけどね」
「じゃあ、私達が勝てばいいんだよ」
「……そうですね」
「そういうことっすか」
なんだろう。
なんか向こうもやる気になった気がする。
「あーさ、ルリルリ、いくよ」
「「了解」」
女子3人の魔影が、僕の魔影に殺到する。
このままだと、僕の魔影は簡単に破壊されそうだ。
僕も魔影を操作する。
会長と東郷の魔影は中距離から遠距離対応だし、飛び道具がある以上は離れすぎるのは悪手だろう。
僕は接近を試みる。
「……式村君、みんなのところには行かせません」
「星嶺さん!」
ゴブリンに拳を叩き込んでいたのを見ていたからわかったことだけど、星嶺さんの魔影は僧侶型と思いきや、
得意な距離は僕の魔影と同じ近接。
他の2人の魔影を庇うような位置取りで僕の魔影に迫ってくる。
「……おとなしくやられてください。正拳突き」
「おわっと、危なっ! ごめん、星嶺さん僕はやられるわけにはいかないんだ」
「……式村君、そんなにルリちゃんとデートしたいんですか?」
「いや、別にそんな訳じゃ」
どっちかというと、星嶺さんとデートしたいんだけど。さすがに本人を目の前に言うのは恥ずかしいから黙っとこう。
「……ルリちゃんとのデートを望んでないなら、いいじゃないですか」
「いや、よくないよ」
「……そこまでデートしたいんですか?」
「うん」
姑息な奴だと思われてもいい。
僕はデートしたいんだ!
「……仕方ありませんね。聞き分けのない式村君は私の手でやっつけます!」
僕の言動は、なぜか星嶺さんのやる気スイッチをガン押ししたみたいだ。
アイドルとは思えない勇ましさで、僕の前に星嶺さんの魔影が立ち塞がった。
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