第4話
あっさりとB研に加入してしまった僕だったけど、数日後B研の部室に呼ばれていた。
部室に入ると、瀬鳥会長、東藤、星嶺さんの3人がイノを取り囲むように立っていて、イノが入ってきた僕に気付いた。
「式村も来たか。これでみんな揃ったみたいだな。今日、みんなに来てもらったのは他でもない。
そう言葉を切り出したのはイノだ。
あれ、どういうこと?
「ちょっと待って。なんで、イノが仕切ってるの?」
「そんなもの、俺がB研の受付男子だからだろう? 決まっているじゃないか」
「いやいやいや、受付男子って、何? そこは受付嬢じゃないの?」
「うるさい奴だな。質問だったら、あとで聞いてやるから、今は話を進めるぞ」
「えっ、この状況をおかしいって思ってるの僕だけ? 瀬鳥会長はいいんですか?」
「いいっていうか、イノッチに受付をやってもらわないと困るっていうか。魔影保持者のパーティーはそれぞれ組合との連絡用に専門の受付を持たないといけないんだけど、受付は
「なんでそんな決まりがあるんですか?」
「魔影保持者たちが無理をしないようにって配慮みたいね」
「なるほど」
たしかにレベル上げや金銭目的で無理めな案件に首を突っ込む魔影保持者がいても不思議じゃないとは思うけど、せっかくならここは可愛い女の子の受付嬢を見たかったと思う僕はダメな奴なんだろうか。
「とくに私達の場合、女子に受付嬢をしてもらうと、B研は女子だらけって思われて舐められるし、他の下心丸出しの男子じゃいろいろ危ないし、イノッチくらい私達に興味なくてドライに仕事をしてくれる男子が、ちょうど良いのよ」
「くっ、それでも僕は可愛い受付嬢の衣装が見たかった」
「おいおい、式村、血の涙を流すほどのことかよ? しょうがない奴だな。あとで俺の受付嬢姿を見せてやるから、それで我慢しろ」
「ねえ、イノ、聞いてた? 僕は可愛い受付嬢の衣装が見たいって言ったんだよ」
「だから、俺の可愛い衣装で満足しろって言っているんだ」
イノの言う可愛い衣装って、スカートとかだったらどうしよう。短髪眼鏡男子のスカート姿なんて誰得なんだろう? そんな衣装があるなら、ぜひ星嶺さんに着てもらいたい。
うん、すごく似合いそう。
僕が幸せな妄想に浸っていると、イノがコホンと咳払いをする。
「まあ、話はそれたが、今回組合から届いた案件はこれだ」
イノがスマホの画面を見せてくると、そこには討伐依頼が載っていた。
「へぇ、ゴブリン型3匹の討伐か。私達のレベルを考えたら無難な案件だけど、これが緊急で依頼されたのはなんでなの?」
「小学校の近くに出て、登下校の妨げになるというのが理由みたいですね」
「たしかに、小学生にとってはゴブリンといっても怖いわけか。よし、やろう。ちょうど、式村君の動きも見ておきたかったしね」
「高校生にもなってレベル2しかない壁役って、どんなものか、興味あるっす。まあ、10秒も持てばいい方っすかね」
「……式村君なら、1分くらいはいけると思いますよ」
東郷の僕への評価低すぎないか?
それに引き換え星嶺さんは、気を遣ってくれてすごくありがたい。だけど、それでも1分という評価なのか。これはどうにかして、みんなの前で良いところを見せたいな。
だけど過信は禁物だし、まずは出きるところからアピールしていこう。
「じゃあ、依頼は受ける方向で返事しておくぞ。場所は近所だし、早速向かってくれ」
「「「「了解」」」」
◇ ◇ ◇
僕らは小学校に来た。
「あそこにいるのがそうみたいね」
校庭を見ると、身長100㎝程度のゴブリンが手に棒のようなものを持ってお互いにじゃれ合っていた。
魔影に魔影は見えるらしく、僕らが魔影を出すとあいつらは襲ってくるはずだ。
「瀬鳥会長、早速、やっちゃいます?」
「もちろん」
「それじゃ、魔影を出しますね」
僕たちは全員、魔影を展開する。
「まずは僕が前に出て、ゴブリンを引き付けるんで、各個撃破してもらえたら助かります」
「えっ?」
ん、今なんか瀬鳥会長たちが変な顔をしたような気がするけど、ゴブリンたちも僕らの魔影に気付いたようだし、とりあえずゴブリンたちを押さえておくか。
「お前ら、こっちだ」
たぶん聞こえていないんだろうけど、なんか声をかけたくなるんだよね。
僕は魔影を操作して挑発するような行動をするとゴブリンの1匹が僕の魔影に棒を振り上げながら飛びかかってきた。
「さすがに、そんなものは当たらないよ」
僕は交わしざまにゴブリンの腹部にロングソードを叩きつける。
「へぇ、式村君、鮮やかね……って、あれ? 今ので1匹は仕留められたかなと思ったんだけど、なんか式村君にやられたゴブリンって、ピンピンしてるのね」
「それはそうですよ。僕の魔影のレベルは2なんですからね。一撃でゴブリンを倒せたりするわけないですよ」
「うわ、低レベルが開き直ってるっす」
酷い言われように涙が出そうになる。
東郷の奴、脳パンしたろうか、こら!
そんな荒んだ僕を心配する声がする。
「……式村君、大丈夫ですか?」
「星嶺さん、ありがとう、大丈夫だよ。このまま僕が引き付けておくから、ゴブリンたちを倒してくれると嬉しいかな」
東郷や星嶺さんと会話しながらもゴブリンたちは容赦なく襲ってくる。まだ一撃ももらっていないとはいえ、僕の低いレベルじゃ、一撃でももらえば致命傷になりかねない。
防御と回避に徹してどうにかなっているけど、いつまでもこのままというわけにもいかない。
「ふぅ、お待たせ、私の魔法の準備ができたよ」
瀬鳥会長の声に従い、東郷と星嶺さんの魔影が動く。
東郷の魔影が一匹のゴブリンの足元を射て他のゴブリンの元に誘導すると、星嶺さんの魔影が残り一匹のゴブリンの懐に潜り込む。
「せいっ!」
星嶺さんの掛け声で魔影が正拳突きを繰り出し、ゴブリンを他の2匹の元へと吹き飛ばす。
「2人ともナイッスー」
「……会長、あとは任せます」
「頼むっす」
「了解、ファイアストーム!」
瀬鳥会長の魔影の放った炎の竜巻が3匹のゴブリンを包み込む。あと一歩逃げるのが遅れていたら、僕の魔影も巻き込まれているくらい遠慮も容赦もない威力だった。
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