第3話
今、僕はB研の部室にいる。
僕の目の前には瀨鳥会長、星嶺あみさ、東郷ルリの3人と一緒の顔をした魔影が登場していた。
3人の魔影も僕の魔影と同じく、ゲームからそのまま飛び出したようなファンタジーの衣装と装備を身に纏っている。
瀨鳥会長の魔影はヘソ出しルックでミニスカートの魔術師風。手には宝石のついた簡素な杖を持っていた。年上女子の大人な腹部がチラチラ見えるのが僕の目には眩しすぎる。
東郷は健康的な美脚を惜しみ無くさらしたショートパンツの狩人のような衣装で、手には木製の弓矢を持っていた。
星嶺さんは少し丈の短めの清楚なローブを身に纏っているし、僧侶って感じかな? ゆったりしたローブなのに母性を象徴する体の一部分の主張が激しいのが気になる。だけど、僧侶って、儚げで優しそうな星嶺さんのイメージにピッタリだ。
ヘソ出しに美脚に巨乳。
僕の視線がキョロキョロと奪われ過ぎてさ迷っていると、瀨鳥会長が僕に声をかけてくる。
「私達の魔影ってこんな感じなんだけど、式村君から見て、私達の魔影って、どうかな?」
ここは、スタイルとかではなく強さとかに関する答えが正解のはず。
間違っても、腰や脚や胸が最高ですなんて言ったりして僕の良識が疑われてしまうことは避けなければいけない。
よし、まずは落ち着いて深呼吸だ。
すーはー、すーはー、うん空気がうまい!
そんな挙動不審な僕に最高の親友が声をかけてくる。
「式村、先輩らの魔影は、お前の好みに合ってただろ?」
「うん、腰に脚に胸。控えめに言って最高だよ」
って、イノのバカ! なんてことを言わすんだ!
思わず、グッと、サムズアップまでした僕も僕だけど、イノもイノだろ。
何もこのタイミングで、そんなことを聞かなくてもいいじゃないか!
ほら、会長以外の2人が僕を不審者を見るような目で見てるじゃないか。
「イノのこと、最高の親友だと思ってたのに」
「そんなこと思ってたのか、キモい奴だな。だが、安心しろ、俺はそんなこと思ってない。俺にも親友を選ぶ権利はあるからな」
なんてことを言うんだ。
イノの奴、最高の親友改め、最低なクソヤローに認定してやる。せいぜい暗い夜道には気を付けることだ。
「と、まあ、見てもらってわかったとは思いますが、式村ってのはこんな感じの自分の欲望に嘘がつけない奴です」
「なんかいい感じにまとめてはくれているけど、それじゃ僕が欲望の塊みたいじゃないか」
「違うのか?」
「違うよ」
「式村、先輩の腰の感想は?」
「最高!」
って、またやってしまった。
落ち込む僕をよそに、瀬鳥会長がお腹を抱えて笑っている。
「あはは、本当に君たちって、面白いわね」
「あれ? 瀨鳥会長は怒ってないんですか?」
「魔影の姿は変えられないし、見られて減るもんじゃないしね。それに最初に見せたのは私達の方だから怒る理由はないわ……って、さすがに、そこまでマジマジと見られちゃうと、ちょっと恥ずかしいかな」
至近距離の凝視は、さすがにNGらしい。
まあ、普通そうだよね。
「すみません」
会長も恥ずかしそうに可愛く顔を赤らめているが、僕も恥ずかしくなって、顔を羞恥に染めながら謝っておいた。
「そういえば、なんで先輩は僕にパーティーを組もうと誘ったんですか?」
「式村君に質問だけど、脳パンを知ってる?」
「もちろん、魔影所持者として当然知ってますよ」
脳パン、もちろんそれは下着を履いてないこととかじゃなく、『脳ミソにパンチを喰らった症候群』それを略して脳パンというらしい。
脳ミソにパンチを喰らったことがないから本当かどうか比べる手段はないけど、魔影所持者は魔影を傷つけられても痛みもない代わりに魔影が破壊されると、脳の魔力器官に衝撃が走り確実に気絶してしまう。
たしか講習でそんな説明を受けた気がする。
「だったら、理由もおのずとわかるんじゃない」
「どういうことです?」
「ほら、わりと私とルリルリだって可愛い方だし、あーさなんて完全に美少女じゃない。そんな私達が脳パンなんてことになったら危険じゃない?」
たしかに先輩たちみたいな可愛い女子はとくに気を付けないといけないだろうな。そうじゃないと、脳パンでノーパン、なんてことになりかねない。
「壁役としてパーティーに誘った奴が私達を裏切って、私達の魔影を直接攻撃したり、モンスター型の魔影を私達の方に素通りさせたりしたら、後衛型の私達の魔影になす術はなく脳パンされちゃうじゃない」
「だったら、なおさら僕みたいな男子をパーティーに入れるのって危険じゃないですか」
「式村君は意識を失った私達を襲ったりするの?」
「しませんよ」
「私の腰は、どう?」
「最高です!」
うわ、またやってしまった。
僕が恥ずかしさに頭を抱えていると、瀬鳥会長が笑い出す。
「あはは、本当にイノッチの言ってたみたいに正直な子なんだね。ねえ、良かったら式村君の魔影も見せてもらえる?」
「いいですよ」
僕も魔影を出現させる。
ゲームでいうところの初期装備を身に纏った剣士が出現する。
「弱そっすね」
「……全然怖くないです」
東郷と星嶺さんがそれぞれの感想をもらす。
うん、弱そうなのは自分でも十分自覚しているから放っといて欲しい。
そんな中、瀨鳥会長が満足そうに頷く。
「いいわね。理想的な前衛ね」
「会長のいう理想ってなんですか?」
「レベルが高くなく、弱そうってことかな」
うん、手加減のないディスりですね。
「まあ、たしかに僕はレベルも2ですしね」
「ああ、そうなんだ。因みに、私はレベル15。ルリルリのレベルは13で、あーさのレベルは10よ」
全員、僕よりレベル高っ!
まあ、装備からしてわかってたことだけど、ちょっと悔しい。
「あはは、そんなに落ち込まないでいいよ。私達にとってはそのほうが有り難いんだから。もし、式村君が私達を裏切ろうとしても私達だけの力でどうにかできるかもしれないし、そもそも多少エッチだけど、今のところ正直な受け答えをしてくれる式村君にそんな危険は感じてないよ」
うーん、これは喜んでいいんだろうか?
「式村君のレベルも上がると思うし悪い話じゃないと思うけど、改めて確認させてもらうね。式村君、私達とパーティーを組んでもらえない?」
女子の頼みを断る?
僕にそんな選択肢はない。
「僕で良ければ、よろしくお願いします」
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