第52話 やっと女神との契約が一つ果たされました
寝る前の読書タイムで。
前回の聖女の伝記は、ドキドキハラハラの大冒険で面白かったから、今回の本も楽しみ! と、ワクワクしていたのだが。
「ジャンルが……思ってたのと、違う……っ!」
ページをめくるたびに、わたしの期待はどんどんしぼんでしまった。
「神聖術の
聖女の伝記だったが、聖女の人生を面白い物語にした前回の本とは違って、聖女の人生の時期に合わせて、その時に聖女がしていた研究結果をまとめた本だった。
聖女や女神の使いの妖精、ファイアフォックスが使う神聖術と、魔道士と魔人が使う魔術の違いについて、攻撃や治癒など、様々な分野を比較した論文の詰め合わせだ。
(せ、専門書だ……マギクラウドなら喜びそうだけど……)
つまり、難しい。
なんだか眠くなってきた。
トン……トン……。
なにかが叩かれる音がした。ドアじゃない。
振り返ると、窓に白い影がいた。
「ぎゃあー!!! で、出たー!」
わたしは本を放り出した。
この時間に外にいる白いものといったら、幽霊だ! いや待て、【ほめらぶ】世界に幽霊はいない、ってゲーム内情報があるから、窓の外にいるのは――!
「マリカ! アンナ! ……じゃだめだ、レイン!」
お化けじゃなければ、不審者だ。
パーティーをする以上、人の出入りが
「ボクだよボク! せいじょとあいのほん、持ってきたよ!」
窓の外にいたのは。
「なんだ、ショウか……おいで」
純白の毛並みに青い炎の尾を持つ、狐の妖精だった。
わたしがショウを迎え入れるために窓を開けたと同時にドアが開き、レインナイツが入ってきた。
「オーレヴィア様? どうかしましたか?」
「妖精だったから、大丈夫よ。レインはわたしのことを気にせず、ゆっくり休んでね。マリカとアンナにも、そう伝えてくれたら嬉しいな」
不審者を追い払ってもらうにはレインの力がいるが、これからわたしが読むせいじょとあいのほんは、ゲームとしてこの世界のことがかいてある。
読書中、思わず叫んでしまうことが多いわたしだ。叫びの内容で、レインナイツたちに怪しまれてはたまらない。
窓枠に座っているショウを見て、レインナイツは納得した顔。
「ああ、あの……。オーレヴィア様に迷惑をかけるんじゃないぞ、ショウ」
レインナイツが出て行ったのを見て。
「はい! これ、『せいじょとあいのほん』」
ショウは一瞬、尻尾の炎を大きく燃え上がらせ、その中から一冊の本を取り出した。
だいたい、単行本ほどの大きさの革表紙の本だった。
「ありがと。でも……遅くない?」
女神に『せいじょとあいのほん』が欲しいといったのは一年前だ。
「遅くない! だって、女神様から究極の素材で作った本じゃないと、要求された仕様を満たせないって言われたから、神聖な山の初めての雪解け水に、密林の香木が雷に打たれて自然にできあがった炭でインクを作って、鹿の王を狩ってその革を表紙にして、中の紙は、神聖な湖の限られた場所にしか生えない草を使って……カラーイラストも再現しなきゃいけなかったし、誤字が一つあるだけで術式がおかしくなるから、誤字一つで両面のページを書き直さなきゃいけなかったり!」
「た、大変だったんだね……」
「超特急で作って、やっとできたの!」
服だけではなく、本を作るのもオーダーメイド。
しかも、ショウは本文だけではなく、絵もひとりで描いたのだ。
(ちゃんと、時間がかかったのには意味があったんだ……)
「遅いって言ってごめんね?」
「お菓子作ってくれたら許す!」
「また、明日ね」
「じゃあね!」
ショウはひらり窓枠から飛び降り、きらりと窓が光ったかと思うと、窓はもう閉まっていた。
(今日の聖女の伝記、面白くないから『せいじょとあいのほん』読もっと)
ベッドに戻り、わたしはショウが渡してくれたばかりの『せいじょとあいのほん』をめくる。
すると。
――Qセオフロストが呪われるのはいつですか?
――デビュタントの前日です。犯人は女性に化けた魔人です。
「デビュタントの前日にセオフロストが呪われるし、犯人は魔人ですって?!」
わたしがほしくてたまらなかった情報が、視界に飛び込んできた。
――Q.女性の魔人は【ほめらぶ】に登場しませんが、それはなぜですか?
――彼女、ラスボス予定だったんですけど、尺の関係で【ほめらぶ】では削りました。
――Q.彼女の名前は?
――彼女の名前はベラドンナです。【ほめらぶ】本編でも、オーレヴィアの取り巻きとして登場している紫色のドレスの子です。ベラドンナはオーレヴィアに従う理由があるので、ベラドンナはオーレヴィアに従いつつ、セオフロスト観察日記を書いていると思います。
――Q.オーレヴィア追放後、ベラドンナはどうなりましたか?
――実は、悪役令嬢が追放されたのは、ヒロインに見える部分ではヒロインへの虐めとなっていますが、政治的には魔人による聖女の迫害が確認されたからです。なので、ヒロインを虐めた悪役令嬢とその取り巻きは人類の敵として追放されました。なので、ベラドンナも2年生の時にはいなくなっています。
つまり。
女神に伝えられた、魔王がオーレヴィアと自分の魂を入れ替えようとしていた情報を合わせて考えると。
「オーレヴィアの中身が魔王で、ベラドンナは魔王の手下の魔人だったってこと?! そういうの……ゲーム内情報で! 教えてよ!」
わたしはそう叫んで――気絶し、翌朝とんでもない寝相をアンナに見られて、少し気まずくなったのだった。
そして、7月に入って。
バラの花咲く王宮で、わたしはセオフロストとお茶会をしていた。
「オーレヴィア、読書に集中しすぎて、変な格好で寝ちゃったんだって?」
ゲームでは。
デビュタントでひとことあいさつしただけの悪役令嬢が王太子に一目惚れ、王家とのつながりを強化したいヴィラン家と、ヴィラン家の後ろ盾が欲しい王家の思惑が一致、婚約が決まるも、家が決めた結婚としか思っていないセオフロストは「聖女探しをする」といって、悪役令嬢を呼びもしないし、悪役令嬢の家によりつかないという冷めた婚約生活を送るのだ。
そのはずなのだが。
「なんでそんなこと知ってるんですかセオフロストー!」
クリストさんによる接近禁止令が解けてから。
地獄の妃教育のレッスンがない日のお茶会が、再開されていた。
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