5・推しが呪われるのを防ぎます
第51話 セオフロストより一足早く、誕生日を迎えました
色とりどりのドレスに一級品のごちそう。
そして。
「オーレヴィア・ヴィラン公爵令嬢、お誕生日おめでとうございます!」
と、入れ代わり立ち代わり、わたしの誕生日を祝ってくれる同年代の子供たち。
「オーレヴィア、緊張しているの? 今日はオーレヴィアが主役なんだから、楽しめばいいよ」
なんて、クリストさんは言ってくれるけど。
「はい、お兄様」
(華やかな夜会が、自分のために開かれているという事実で気絶しそう……)
なんとか公爵令嬢の仮面をかぶっているが、わたしはまだまだ、日本のOLの感覚で考えてしまう。
OLのわたしが、ゲームの元ネタとなった異世界の悪役令嬢、オーレヴィアと魂が入れ替わって、1年と3ヶ月。
今日、神聖歴339年6月22日は、オーレヴィアの14歳の誕生日だ。
一通りのあいさつが終わって、飲み物でも取りに行こう、とわたしがテーブルに近づくと。
「オーレヴィア! ジュースでいい?」
「ありがとう、セオフロスト」
尻尾が見えそうな勢いで、セオフロストがずいずい近づいてきた。
「あと少しでオーレヴィアのこと、僕の婚約者としてみんなに見せびらかせるのが楽しみだよ」
セオフロストのヤンデレはなりをひそめたものの、その代わりの公の場でセオフロストはわたしに対する独占欲を全く隠さなくなった。
その重い愛情に――セオフロストを惚れ薬やおまじないで振り向かせようとしていた令嬢たちは、そっとわたしたちから目をそらしている。
(例外はベラドンナなんだけど……今日は呼んでないからね)
「デビュタントは7月27日でしたっけ」
「うん、僕の誕生日」
にこにこのセオフロストは、上機嫌に金髪を揺らす。
(呪われてないんだよね……氷の王太子になるとは思えない人なつっこさだし)
デビュタントの前にセオフロストは呪われる。
誰にどうやって呪われるのか、聖堂で聖女が呪いを解いた記録たちを一年間調べたけれど、その手がかりは、わたしには全くつかめないままだ。
「セオフロストは、いつもわたしの隣で笑ってるね……」
「オーレヴィアの隣は、安心できるから」
「そうですか?」
特にセオフロストを気遣ったことはないんだけどな、と思っていると。
「だいたい、貴族たちは僕を見ずに、王太子の地位と権力がほしくて近づいてくるだけなんだ。でも、オーレヴィアはそんなものがほしいんじゃなくて、僕のことを見てくれるでしょ」
「……友達なら、当たり前ですよ?」
「友達?」
わたしの言葉に、セオフロストはむう、とすねた顔。
「友達よりも、もっとずっと仲良くなりたいのに」
「王太子殿下、王宮に戻る時間です」
「スノウネージュ! 久しぶり!」
「お久しぶりです、お姉様」
雪のように消え去ってしまいそうなはかなげな印象は残しつつ、騎士団で鍛えられて健康的な強さを身につけたスノウネージュは、爽やかな少年に育っていて。
「お……お姉様……」
(推しからお姉様っていわれるの、いい! なんだか新しい扉を開きそう!)
わたしが感動していると。
「オーレヴィア?」
セオフロストから黒いオーラが出ていた。
(どっちかというと、【ほめらぶ】で爽やかだったのはセオフロストで、黒いオーラをまとっていたのはスノウネージュなんだけど!)
「弟が立派になって、しっかりセオフロスト様に仕えてくれていて嬉しいだけですわ!」
冷や汗をかきながら言い訳するわたしに、セオフロストはわざとらしくにっこり笑って、
「そういうことにしておくよ。またね、オーレヴィア。僕の大切な人」
とろけそうなほど甘いでわたしにささやき、
(ちょ……は、恥ずかしい!)
セオフロストが残したしたセリフに、わたしは固まってしまった。
「オーレヴィア様、真っ赤ですよ」
「ソルラヤン様! 見ないでください!」
セオフロストと入れ替わりに、ソルラヤンがわたしの元にやってきた。
「オーレヴィア様、ベラドンナは呼ばなかったのですね」
「ええ。セオフロストにつきまとう女には来てほしくない、って嫉妬したふりをしたら、仕方がないなぁ……ってお兄様、許してくれました」
ベラドンナが魔人の関係者だと分かった以上、なんだか一緒にいるのは嫌だし、独自の情報網を持ち、ありとあらゆる秘密を知るソルラヤンがベラドンナをセオフロストに近づけるな、と言っている以上、こうするべきだろうと思ってわたしは行動したのだが。
「嫉妬したふりでしたか……」
「なんでしょっぱい顔してるの? ソルラヤンの意見を聞いてセオフロストにベラドンナが近づかないようにしたのに?!」
「セオフロストから『僕、やっとオーレヴィアに、僕はオーレヴィアのものだってわかってもらえたみたい!』と数時間惚気られたのですが……」
「お、おつかれさま?」
「その間、おれは真面目に話を聞いていたのに、マギクラウドは目を開けたまま眠れる薬を飲んで、寝ていたんですよ? 声を出さずに首だけで相づちを打つなぁ、と思っていたら、眠って船をこいでいただけなんですよ? ずるくないですか?」
「マギクラウドらしいね……と言うか今日、マギクラウドは?」
わたしの誕生日パーティーの会場に、マギクラウドの姿はない。
「実は、セオフロストがマギクラウドに、泊まりがけの王立魔術研究所の研究に参加しないかと誘って、今日はそれに行っているんですよね……女神の力を使う神聖術と、視線の力を強化する魔術を同時に使うと、なぜかどちらも強力になることが経験上知られているから、その精密なデータを取るための合宿だそうです」
「やっぱり、わたしの誕生日より研究を重視かぁ……」
「マギクラウドは喜んで行ってましたけど……絶対、オーレヴィア様からさりげなく遠ざけられたことに気づいてませんよ」
マギクラウドが自己中なのは知っているけど、ちょっと寂しいな、とわたしが思っていると。
「でも、誕生日プレゼントは預かってます」
「なに?」
「プレゼントそのものではなく、送り状なのですが」
と、ソルラヤンから差し出された紙には。
「最新鋭魔導オーブン納入書……?」
「王宮より先にヴィラン家に献上する、ってマギクラウドが言い張って、色々政治的に面倒だったんですが、なんとかしました。あと、マギクラウドからのメッセージが送り状の裏にあります」
送り状の裏には。
『誕生日おめでとう、オーレヴィア。
オーレヴィアがこの手紙を読んでいるということは、自分は誕生日パーティーに参加できなかったということだろう。申し訳ない。
しかし、この魔力と神聖力に関する研究は、オーレヴィアの神託にあったという、寿命を奪う呪いと、それが聖女の力によって解けるということについて推測する大きな手がかりとなる。研究結果は隠すことなく教えるので、遅めの誕生日プレゼントだと思ってほしい』
と、走り書きされていた。
そんなこんなで、パーティーが終わって。
「お休みなさいませ、オーレヴィア様」
窮屈なドレスを脱ぎ、寝間着になって布団に包まれて、楽しい時間の始まりだ。
「アンナ、寝るまで読書をしたいから、ランプは付けたままにして」
「はい。ゆっくりお休みなさいませ」
アンナがドアを閉めたのを確認して。
「よし! これで音読しても外に聞こえない!」
わたしは聖堂の図書室から持ってきた聖女の伝記を開く。
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