第47話 なんだかギスギスした空気になってきました

 ソルラヤン・マイス。

 乙女ゲーム【ほめらぶ】のチャラ男担当。母親が王女の公爵家の令息であるという地位を十二分に活用し、口説いた女は数知れず。

 という軽いキャラ付けとは裏腹に。

 勇者パーティーの義賊の子孫として、セイント王国中にスパイを放ち、ありとあらゆる人間の秘密を知っているし、もしスパイがセイント王国で反乱を起こそうとする人がいるという情報を掴めば、拷問込みの尋問をしてでも止めるという重たい役割を学生の身ですでに担っているというギャップで、ヤンデレ枠のスノウネージュには負けるものの、二次創作が【ほめらぶ】で二番目に多いキャラだ。

 なんでセオフロスト純愛二次創作ばかり読んでいたわたしが知ってるかって? スノウネージュとヤンデレを検索除外ワードに入れて【ほめらぶ】で検索したら、次に出てきたのがソルラヤンに外堀を埋められまくって溺愛される二次創作ばかりが出てきたからですね!

 

という前世の記憶は置いといて。

 

 ベラドンナを黙らせた後、ソルラヤンは黙って、わたしをにこにこ見つめている。

 お茶会では、基本的に目上から話しかけられない限り、勝手に話してはいけない。だから、公爵令嬢より、公爵令息の方が立場が上だから、ソルラヤンに話しかけてもらわないと――とわたしは貴族になってから習った知識で考えていたけれど。


(もしかして、ゲーム知識の聖女の特権的な立場を考えると――聖女って、公爵令息よりも立場が上?!)

 

「こんにちは、マイスさん」


 と、わたしがソルラヤンに話しかけると。

 

「聖女オーレヴィア様と話せるとは、夢のようです。ソルラヤンとお呼びください」


 ソルラヤンは――ゲームそっくりの、爽やかな笑顔だった。

 

「そこまで……ですか?」


 チャラ男なのは知っているけど。

 夢のよう、と大げさに言われると、うれしさより先に詐欺師ではないかと疑ってしまうレベルだよ!

 あなただけのキャンペーンという触れ込みのネット広告を山ほど見てきた元OLのため、わたしが疑いの目でソルラヤンを見ていると。

 

「セオフロスト殿下が自分以外の人間とオーレヴィア様が、挨拶以上のお言葉を交わすことを嫌がって、オーレヴィア主催のお茶会を行わないよう、ヴィラン家に伝え、その上他の貴族たちには、お茶会にオーレヴィア様を招待しないように通達しておりましたから」

 

(間違いない、ヤンデレだー!)

 

「そんなことが……てっきり、聖女で公爵令嬢という立場ですので、皆様から敬遠されてしまっているから、寂しく思っていましたわ」

「ええ。セオフロスト殿下は、オーレヴィア様に対する独占欲を隠していらっしゃいませんから――特に、その髪飾り」

「確かに、どのパーティーにもこの髪飾りを付けるように殿下に命じられましたね」


 どういうことだろう?

 わたしが首をかしげていると。

 

「自分の瞳の色と同じブルーサファイヤに、自分の髪の色と同じ黄金の金具。これはセオフロスト殿下による、自分の婚約者だと知らしめるための道具ですよ」

 

「……でもこれ、セオフロスト殿下が好きな物を選べといくつか見せてくださった物の中から、自分に似合いそうな物を選んだだけなのですけれど」

 

「お目が高い! そのサファイヤは最高級の品質であるだけではなく、魔力を帯びた魔法石を、シンプルでありながらとしての意味を持たせた彫刻で彩る、見る目がなければその価値がわからない品ですよ! 値段を付けるなら……城3つでしょうか。ほかの宝石が安物に思えて、身につける気がしなくなる気持ちも分かります」

 

(一番安そうだからこれにしたのに、一番高いなんて、とんでもないわなじゃない!)


 わたしがふるえていると。


「セオフロスト様がオーレヴィア様を想っていらっしゃるのはとてもよく分かりましたわ。でも、恋は一方通行ではうまくいきませんわ」

「ベラドンナ嬢、話は途中で――」


 ベラドンナが割り込んできた。

 

「王太子がこの場に来ていないのは、オーレヴィア様を恋い慕う騎士と決闘したからだと聞いたわ! オーレヴィア様はどちらが大事ですの?!」


 オーレヴィアが王太子に嫌われた説を流すのは形勢不利と読んだらしく、ベラドンナはからめ手から攻めてきた。


「ベラドンナ嬢、おれが聞こうと思っていたことを取らないでください」

「そんなつもりはございません。ただあたくしは、真実を明らかにしたいだけです。正直に答えてくださいませ。オーレヴィア様、二人が決闘をして、どう思われたのですか?」


 どう思うって、それは。

 

「怖かったですわ」

「部下も婚約者も恐ろしいとおっしゃるなんて!」


 ベラドンナは、大声をあげながら周りを見回す。

 

「オーレヴィア様は、二人が大切ではないのですか? わたくしなら、どんなセオフロスト殿下でも愛しますわ!」


(さ、さりげなくマウントまで取ってくるじゃん! 変な空気になるし!)

 

「大切だからこそ、怖かったのです。二人とも傷ついてしまうことが」

「じゃあ、どちらが大切なのです?」

「セオフロスト殿下を婚約者としてお支えすることと、部下のレインナイツにきちんと報いることでは、大切の質が異なります」


(推しだから二人とも大切なんだよ! でもこれをいまここで言ったら、絶対面倒くさくなる!)

 

「具体的にいうとどのようなのでしょう、オーレヴィア様」


 と、ベラドンナが掘り下げてきたので。

 

「セオフロスト殿下は婚約者としてついて行くべき人で、レインナイツは主君として導かなければならない者です。レインナイツは我が公爵家に仕える騎士で、年が近いのでわたしの護衛を任されているので、わたしのそばに控えさせることが多いだけです」

「決闘の心当たりはないと?」

「どうして二人が争うことになったのかは、わたしには騎士の才能がないのでわかりません。あのときはただ、婚約者と忠実な騎士が同時に傷ついてしまうかもしれないことが、ただ怖かったですわ。騎士の才能があれば、二人の気持ちが少しは分かったのかもしれませんけれど」

「騎士の才能は関係ないでしょう! 二人の殿方に慕われていることを自慢なさっているのですかオーレヴィア様!」

 

(正直に言っただけなんだけどなぁ)


 どうにかしてわたしを悪役にしたいらしく声を荒げるベラドンナに、うんざりしていると。

 

「ベラドンナ嬢、やきもちを焼く貴女の表情も美しいけれど、おれ以外の男がその表情を引き出したのは、すこし妬けてしまうな。それに、貴女の美しさにおれ以外も気づいたのか、視線を感じますね」


 さりげなく、ソルラヤンが会話に復帰した。

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