4・悪役令嬢の取り巻きになるはずの令嬢のお茶会に参加することになりました

第46話 破滅回避の方向性を、少し変えてみることにします

 お茶会、当日。

 出発前、わたしはアンナと身支度の最終チェックをしていた。


「ドレス、ばっちり決まっていますわよ! オーレヴィア様!」

「あとは……この髪飾りを、お願いできる?」

「あの、オーレヴィア様、わたしの理解が正しければ、オーレヴィア様はセオフロスト様に嫌われたいんですよね? だったら、この髪飾りはやめておいた方がいいのでは……」


 わたしがアンナに手渡したのは、セオフロストからもらった髪飾りだ。

 

「現状を再認識しろ、とマギクラウドに言われたときは腹が立ったけど、正論だったから、ちょっと考えてみたのよね」

「一番最初にマギクラウド様と聖堂でお会いした時のこと、ですよね? オーレヴィア様がセオフロスト殿下と婚約すると……いえ、神託のこともうかがっております」

「それなんだけどね……」


 わたしの破滅フラグが、もしかするとセオフロストとの婚約以外にあるかもしれない、と気づいたのだ。

 断じてマギクラウドのおかげではなく、なんとなく【ほめらぶ】や現状を考えてみただけなんだけどね!

 

「婚約破棄のために嫌われよう、と思っていたけど、神託……予知夢の中のわたしは、セオフロストの気持ちを大事にしなくて、セオフロストに嫌われた結果、死んでいたの。それに、現状を考えると……」

「レインナイツとセオフロスト殿下が決闘したことです?」

「なんでか分からないけど、婚約破棄されそうもないぐらい好かれてて、決闘の理由も、セオフロスト殿下が、わたしがレインナイツのことを好きだと勘違いしたせいなの」

「……なんだか、イナカ村の大人たちが好きそうな話ですね」

「お兄様の接近禁止命令が解けたとき、セオフロストのことが嫌いだ、って噂が流れてたら、監禁されそうな予感がしてて……だから、この髪飾り、どんなパーティーにでも絶対付けてね、ってセオフロストのお願い、やろうかなって」

「なるほど……」


 アンナは苦笑いし、私の髪に髪飾りを挿した。


「では、行ってらっしゃいませ!」


 そしてわたしは馬車に乗り、宰相の屋敷――ベラドンナの家へと向かった。


「ベラドンナさん、お呼びくださってありがとうございます」


 呼び方はどちらも同じ「こうしゃく」だが、公爵令嬢のわたしが、わたしを出迎えた侯爵令嬢ベラドンナに、格上として先にあいさつすると。

 

「オーレヴィア様、ありがとうございます。今日はたくさんの方をお呼びしましたので、立食パーティーという形にいたしました。子供同士の集まりですし、気楽に過ごしてほしいという趣向ですわ」


 そう言って、優雅に礼をするベラドンナの向こう側には。

 全て円卓でそろえられたお茶会会場があった。


(円卓って、四角いテーブルだと上座下座が発生するから、平等という意味で使われるものよね……なんだか嫌な予感がする……)


 というなんとも言えない始まり方をしたお茶会だったが、ベラドンナ以外の貴族の同年代たちとのあいさつは、なにごともなく終わり。

 食べ物を食べてもいい空気になったとき。


(どうしよう、顔見知りが、いない……!)


 ぼっち飯 イン 異世界!

 そう予感しつつも「こだわりのお菓子を厳選しているだけです」という顔で、取り皿にお菓子をのせていたが。


(いっぱいになってしまった……)


 小さな取り皿はあっという間にいっぱいになってしまい、周りにはテーブルを囲んで楽しそうにおしゃべりする同年代たち。


「オーレヴィア様は、いったい誰を選ぶのかしら?」

「セオフロスト様に好かれるには、まずはオーレヴィア様に好かれなきゃよね……でも、どんなドレスの趣向がお好きなのかわからないから、全員色とスタイルを変えたのよね」

「一番団結してたんじゃないの? 親たち」


(おしゃべりの内容、怖っ!)


 セオフロストの心を射止めるために、オーレヴィアと仲良くしようとする打算が隠せてない!

 君たちのそういう所がセオフロストは嫌いなんだってば!

 できる限り距離を取りたい。ぼっち上等だ。

 そう思って、わたしが会場のすみ、人がまばらなところに行くと。


「オーレヴィアも呼ばれていたのか?」

「マギクラウド?! なんで今、研究をしていないの?!」


 すっかり見慣れた黒と紫の二色の瞳を丸くして、マギクラウドがひとり紅茶をすすっていた。


「父上からの交換条件だ。嫁探しをする時間と同じ時間だけ、錬金術研究室の利用を許可する、と」

「ぶれないねマギクラウドは……」

「今回はできなさそうだがな」

「ああ……わたし経由でセオフロストの愛人になりたいって言う話ししか聞こえてこなかったよ」

「意味がわからんな。ひとりの女性を愛して、なおかつひとりの女性に愛されて、お互いがお互いにとっての唯一なのが、結婚というものではないのか」

「なんていうか……愛とか恋とか信じない人だと思ってた」


 と、わたしが言うと。

 

「子孫繁栄のためには、多くの女に自分の子供を産ませるのが合理的、という男だと思われていたのか、自分は?」

「まぁ……マギクラウドなら言いかねないかなって……」

「まぁ、さっきのたとえは動物としては正しいが、貴族としては財産の分配が面倒になるから、無計画に子供を増やすことは合理的ではないぞ」


 マギクラウドは真顔で紅茶を飲み干した。


(じ、常識人だ……!)

 

 わたしが驚いていると。

 

「もっと話したいが……あのご令嬢の口から、オーレヴィアと自分が話していたことがセオフロストの耳に入ったら怖いな。では、さらばだ」

 

 マギクラウドがわたしから離れた瞬間。

  

「あら、今日はお一人ですのね」


 ベラドンナがやってきた。

 ベラドンナというか、何人も貴族を引き連れていて――。

 

(ゲームの悪役令嬢登場シーン?)


「先ほどまではマギクラウドと話しておりましたが……」

「先日、セオフロスト殿下の誕生日パーティーでお会いしたときからずっと同じ髪飾りだなんて……オーレヴィア様はけんやくなのですね。国庫を傾ける心配がない、よき王妃におなりのことでしょう」

 

(うわー流れるような嫌味)


 ベラドンナはケチですね! を上品に言って――つまりはわたしの悪口を言っている。

 どうやりかえしたものか、と思っていると。

 

「ベラドンナ嬢、おれに聖女様と話せる機会をいただけるかな」


 わたしとベラドンナの間に、赤毛の――顔が良い少年が割り込んだ。

 

(この声……攻略対象だ!)


「ソルラヤン・マイス公爵令息……」


 ベラドンナに名前を呼ばれ、ソルラヤンはわざとらしくウインクをしてみせる。


(こんなわざとらしいのにかっこよく見えるなんて、さすがは乙女ゲームの攻略対象……)


 新たな攻略対象の登場に、わたしはかたをのむ。

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