第44話 お説教は、マギクラウドなりにセオフロストを気遣った結果のようです
マギクラウドが言っていることは、正しい。
でも、今日が初対面なんだよ? いくら推しだとしても……いや、ゲーム中でもマギクラウドってこんな感じだった。
マギクラウドルートを初プレイしたとき、マギクラウドのド正論と長い演説にうんざりしてフラグを立てられず、マギクラウドに嫌われて学園も追放されて革命エンド行ってたな……。
周回プレイするうちに「これぐらいキャラが濃いのも乙女ゲームの登場人物ならではだよね!」ってノリで推すようになったけど、同僚には絶対いてほしくないって思ってた!
マギクラウドを平手打ちした右手が、じんじん痛む。
でも、後悔はない。
でも。
「質問に答えてくださった事にお礼申し上げます。ウィズ様の、神託の内容の解釈に感情的になってしまい、申し訳ありませんでした」
マギクラウドを名字で呼び、立ち上がって深く頭を下げる。
まだ、マギクラウドは13歳だ。
中学生に本気で腹を立てるなんて、大人げなかったし、暴力を振るってしまったのはわたしの方だ。
(マギクラウドは王家の次に偉い公爵家の跡継ぎ。公爵令嬢より立場は上。彼に暴力を振るったことを理由に追放されて破滅なんて、嫌!)
理由は保身100%だ。
「……本気、なのか?」
「ウィズ公爵家の跡継ぎ様を傷つけたこと、心からお詫び申し上げます」
心にもない謝罪を誠心誠意に見せる方法を身につけられたことだけが、ブラック企業にいてよかったことだなぁ、とわたしが考えていると。
「そうではなくて顔を上げてくれ。神託という、他人には証明不能な理由をこじつけることによって、セオフロストをからかって遊んでいるだけだと思っていたんだ」
「はい?」
顔を上げると。
マギクラウドは、片頬にモミジを咲かせたまま、気まずそうな表情を浮かべていた。
「自分が立てていた仮説は、こうだ。オーレヴィアはずっと田舎にいた。その理由は、魔物狩りを見るのが好きな令嬢だったからだ。だから、魔物狩りをするための調査にもついて行った。そこで。魔物について詳しいオーレヴィアは、自分の騎士たちでは手に負えない魔物を見つけ、セオフロストを利用して王立騎士団を呼び出して、最高の魔物狩りを行った。だが、その過程でセオフロストに惚れられ、魔物狩りができない都に連れてこられてしまった。だから、田舎に帰りたさに、セオフロストに嫌われるよう行動している」
「一から十まで違うんですけど……」
私がずっと田舎にいたのは、オーレヴィアの父が、娘を教育する気が全くなかったからだし。
「現実に向き合えていなかったのは、自分の方のようだ。オーレヴィア様の質問内容からして、オーレヴィア様には魔物に対するこだわりは全くない事程度、冷静ならば読み取れていた。友人から毎日のように婚約者と会えないさみしさを聞かされて、そんな婚約者をぎゃふんと言わせたい、そんな自分の意図に、とらわれていた」
「ぎゃふん……ふふふっ」
意外な言葉を使うな、とわたしは笑ってしまった。
ついでに意外だったのが、【ほめらぶ】のセオフロストは孤高の王太子でぼっちの印象が強かったから。
ちゃんと自分のために怒ってくれる友達、いたんだ、セオフロスト。
そう思うと、なんだかほっこりしてしまった。
「誤解してしまって済まないが……これからも、研究に協力してもらえると、助かる」
「ええ、こちらこそ」
と、マギクラウドと勉強するようになった、数日後。
聖堂の図書館に現われたマギクラウドは、たんこぶを生やしていた。
「どうしたのそれ?」
「セオフロストに、オーレヴィアにビンタされたことを言ったらうらやましいっって……」
レインナイツに負けるとはいえ、セオフロストも剣を握れる腕力がある。
「痛そう……治癒魔法を使えるシスターに頼んで、手当てしてもらってからにしようよ、今日の勉強」
「そうだな。まったく、恋人同士のケンカに自分を挟まないでくれ、直接殴り合ってくれ……」
と、不満たらたらなマギクラウドを連れてシスターを探していると。
「
ベラドンナが、しずしずと礼拝堂に向かっていた。
その顔色は、紙のように真っ白で、とんでもなく気分が悪そうだ。
「聖堂は、寝たきりの病人でも少しは身体を起こせる程度に回復させる神聖力で満ちているはずなのに。あれはどうしたことだ?」
「マギクラウドにわかんないなら、わたしにもわかんないよ……」
と、廊下の片隅でひそひそしていると。
「これから、聖堂関係者が全員参加する本日の礼拝がございます。もしよければ、オーレヴィア様とマギクラウド様も参加なさいますか?」
シスターさんに、誘われてしまった。
「参加します。それと――終わったら、マギクラウドのたんこぶの治療、お願いします!」
「この程度なら、礼拝をしている間に聖堂の神聖力でなおっていますよ」
と、シスターさんに言われ、二人とも礼拝堂に詰め込まれてしまった。
「身分的な席次は一番前がマギクラウド様、次がオーレヴィア様、最期にベラドンナ様ですが、ペラどんな様のご実家の侯爵家から今日のためにご寄付を頂いているので、一版前はベラドンナ様、次がオーレヴィア様、最後にマギクラウド様です。では順番に、聖水盤で手を洗ってください!」
(明らかにこの順番、寄付額順でしょ……)
と思いつつも、わたしはベラドンナの後ろに並んだ。
神社の手水場みたいだから、すぐ終わるだろう、と思っていると。
「本当に手を洗わねばならないのですか? 家で礼拝前の入浴は済ませております」
なぜか、ベラドンナが文句を言い始めた。
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