3・王宮以外にも貴族社会、いろいろあるようです

第41話 真剣での決闘未遂で王太子様とは会えなくなったと思ったら、クリストさんの結婚式が決まるってどうなってるの?!

 クリストさん、本気で怒ってるから敬語が追いついてない!

 

 ふるえるわたしは置き去りのまま。

 

 クリストさんは、セオフロストが黙ったのを確認して。

 

「レインナイツもレインナイツだ! 殿下の挑発に乗るな! 短気な上、指示を守らないとはよっぽど死にたいようだな!」

「事実無根の疑いを晴らせる機会でした! それに、殿下の剣で死ぬほど弱くはありません!」

「そうじゃない! イナカ村ではオーレヴィアの聖女の力があったから誰も死なずに済んだが、実戦たる魔物との戦いでは、冷静さを失った者、リーダーの指示を聞かない者から死んでいく! レインナイツ、お前は現実を侮り、隙だらけだ! そんな人間に、真剣を持つ権利はない!」


 クリストさんに本気で怒られ、セオフロストもレインナイツも、本気でしょんぼりしている。

 

「殿下もレインナイツも、反省が終わるまで、ヴィラン家当主の権限を以て、ヴィラン家の一員であるオーレヴィアとの面会禁止だ! いや、王太子殿下には命令しない! 王太子殿下の反省が終わるまで、オーレヴィアが王太子に会うことを禁じる!」


セイント王国では、貴族の家において当主の権限は絶大だ。

「クリスト卿、横暴ですよ!」

「冷静さを失って真剣を使うような危険人物は、どのような身分であれ、大切な妹に近づけるわけにはいかん! もし、反省前に妹に近づいたのならば――王立騎士団全員の、離反と、ヴィラン公爵家のセイント王国からの独立をお望みと考えます」


 セイント王国は、貴族たちが王を中心にまとまっているだけで、日本のような統一された政府はない。

 だから、聖女の武器を借りる時に、恐ろしい書類仕事が発生する可能性があったのだ。

 セオフロストが来てくれたおかげで、なんとかなったけど。


 というわけで、貴族家の独立性を根拠にした主張は、王太子といえども従わざるを得ない。


 こ、これどうなるの……。

 セオフロストと距離を取ることは、わたしの望んだことではあるけれど。

 

「お兄様、セオフロストが真剣を取るに至ったのは、わたしがきちんとセオフロストと話し合っていなかったからです。どうか、話し合う機会を」


 このままだと、まずい!

 なんだかうつむいたセオフロストから「オーレヴィアを手放したくないのは僕だけだよね、だったら、次会ったときにどこかに閉じ込めてしまえば……」なんて聞こえてきたし!

 

「なら、5分以内だ」

「ありがとう、お兄様」


 わたしは、セオフロストの前に寄り、頭を下げる。

 

「ごめんなさい、セオフロスト」

「別に。僕のことは嫌いで、レインナイツのことが好きだから、僕の誘いには乗らないのに、レインナイツの誘いには乗るんでしょ」

「違います!」


 本当に違うのだ。

 レインナイツは、セオフロストの勘違いで巻き込まれているだけだ。

 誤解を解くには――ゲームのことを、少し話そう。

 

「信じてもらえないとは思いますが、聖女になったとき、わたしは女神様から、神託をいただきました」


 まぁ、【ほめらぶ】は異世界から日本に追放された女神の未来視を元に作られたゲームなので、間違ってはいない。

 

「その神託によると、わたしとセオフロストが結婚すると、国が滅ぶとのことでした。そして――わたしも、セオフロストも、処刑されてしまうと」

「なんだ、それ」

「セオフロストの気持ちを考えていなくてごめんなさい。国と、女神のことと――なんて、きれい事ですよ」


 わたしは、ずっと誰にも言えなかったことを。

 

「わたしは、自分が死なないことが最優先の、きょうものです」


 思い切り、吐き出した。


「オーレヴィア、もういいんだ。顔を上げて」


 わたしが顔を上げると。

 なんで。

 泣きそうな顔の、セオフロストがいた。

 

「王子だから、他人から求められて当然だと思ってた。だから、僕に興味がないオーレヴィアに振り向いてほしくて、それで婚約も申し入れたんだけど……嫌、だったのかな」

「……予想外でした」


 【ほめらぶ】では、オーレヴィアが無理矢理セオフロストに婚約を迫るから、セオフロストから婚約を申し入れられるなんて、考えてもいなかった。

 

「五分経ったぞ。オーレヴィア、行こう」


 クリストさんに手を引かれ。

 

「またね」

 セオフロストの声を背に。

 そうやって、わたしはセオフロストと別れたのだった。


 それから、一週間。


「結婚おめでとうございます、お兄様!」


 わたしは都の聖堂で、二回目の結婚式を開いているクリストさんに向けて、花びらを振りかけていた。

 クリストさんの隣を笑顔で歩いているのは、【ほめらぶ】では、数学の教師として登場していたジェシカさん。

 そういえば、ジェシカ先生って、結婚予定の方が亡くなったから教師に就職したって言ってたな……クリストさんの存在、どうして【ほめらぶ】本編に書かなかったんだ、女神。


「国王陛下のおかげだ! 聖女の兄に、盛大な結婚式を挙げてほしいというな!」


 つまり、王家がヴィラン家に恩売ってるってこと?!

 思わず、わたしの口角が引きつる。

 ジェシカさんは、子爵家の出身で、王家にもヴィラン家にもつてがない弱小貴族なのだが――王立騎士団の事務員をしていたところクリストさんと意気投合しゴールイン、というシンデレラストーリーを実現させた人だ。


 現在、ヴィラン家はセイント王国物理最強のクリストさんと、セイント王国最上級の癒し手かつ、魔王軍特攻の祝福を与えることができる聖女――つまりわたしが存在している。


 実質、セイント王国最強の貴族家になってしまったヴィラン家に、なんとかしてセイント王国に残留してほしい。

 そんな思いで、王家はクリストさんの結婚式に出資したのだろう。


 まさか、危険行為があったからセオフロストとオーレヴィアを会わせません! とクリストさんと一緒に国王陛下に報告したとき。

 国王陛下に。

 

「おっけー! ところで君、式挙げ直そうよ! 上司の結婚式が地味だと、部下が本当は奥さんのために派手な結婚式を挙げたくても遠慮しちゃうから、お金は出してあげるからぱーっと挙げな?」

 

 と、軽いノリで提案された結果が、国一番の聖堂で、セオフロストの誕生日会以上に貴族たちが詰めかける国家行事並みの結婚式だ。

 王家に囲いこまれてるな……クリストさん。


 と、大人の事情をわたしが邪推している間にも、式は進んでいき。


「死が二人を分かつまで!」


 と、結婚の誓いが終わった後。


「では、祝福のため、この世界をお作りになった女神の偉大さを説きます」


 なんだか頭が輝いている司祭の方が、長話を始めた。

 内容は、隣人を大事にしろとか盗みはするな、とかいった人生訓の合間に、魔族絶対滅ぼすべし! という殺意の高い内容が挟まる、いい話なのかなんなのかよくわからない異世界神話だった。

 締めくくりに。

 

「女神様は魔王に負け、天上に追いやられてしまいましたが、いまでも信仰を通じて人間を守ってくださっております。その証拠が、聖女オーレヴィア様なのです!」


 と、予想外の豪速球がわたしに向かって飛んできた。

 いや、女神、天上じゃなくて日本に追いやられてるし。

 しかも魔王も、わたしと魂を入れ替える形で日本にいるし!!!

 こうやって日本には八百万の神々が増えていくんだなぁ……うーん、でも話を聞く限り、なんだか女神が弱い気がしてきた。


 なーんて考えてるうちに、結婚式が終わったので。


「シスターさん、お手洗い、どこですか?!」


 うん。

 自然がわたしを呼んでるんだ!


「こちらです!」


 ありがとうシスターさん。いまはあなたが女神だ。

 わたしがシスターさんについて、聖堂の奥へ進むと。

 図書室、と書かれた部屋があった。

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