第38話 レインナイツと再会したと思ったら、濃い王太子様ガチ勢が出てきました

 隠れなきゃ!

 わたしが庭木の後ろに移動していると。


「セオフロスト様?」

「庭師が通っただけのようだ。ですが、あなたのようなご令嬢がひとりでいるのが噂になったら大変です。場所を移しましょう」


 セオフロストと令嬢は、どこかへと移動していった。

 良かった、ばれてない!

 わたしが胸をなで下ろしていると。


「オーレヴィア様、ここにいらっしゃいましたか」


 耳慣れた声がした。

 

「レインナイツ! なんでここに?」

 

「都に来た瞬間、殿下の誕生日パーティーの警備に入れって。クリストさん、人使いが荒すぎますよ」

「あら何かご用事?」

「王様が終わりのスピーチをするので、全員広間に集合ですって」


 レインナイツに付き添ってもらって広間に向かっていると。

 建物に入る直前の庭園で。


「もし、そこの騎士さん」


 ラベンダーブロンドの髪の令嬢が、レインナイツにほほえみかけた。

 

「なんでしょう?」

「あなたのご主人様が望むのなら、少しお話ししたいわ」


 その声は、セオフロストに寄り添っていた令嬢と同じで。


「わたくし、聖女にして公爵令嬢、オーレヴィアですわ。喜んで」


 と、令嬢同士のあいさつの口上を述べているうちに気がついた。

 この紫一色の姿、悪役令嬢オーレヴィアの取り巻きモブとして、背景に描かれてた!

 

「あたくし、ベラドンナと申します。宰相の娘、こうしゃくれいじょうでございます」


 と、悪役令嬢の背景の取り巻きモブ改め、ベラドンナは、わたしの前で優雅なカーテシーを披露したのだった。


「お話って何かしら? 今日初めて会ったものだから、なにを話したらいいものか」

「それは……セオフロスト様についてですわ」


 ベラドンナ、セオフロストのこと、大好きだもんね。


「ああ……それなら、少し困っていますわ。わたしを婚約者として見せびらかそうとして、皆様を待たせて髪飾りを贈ってくださったりとか」


 破滅回避のため、婚約解消をしてほしくてカーミラを追放したのに、好かれてるってどういう事!? 破滅フラグが折れなくて、本当に困ってるんですけど。

 と、わたしが本音を言うと。


「あら、愛されていますのね」


 と、ベラドンナはなぜか悔しそうだ。

 

「婚約者が正式決定するのは社交界デビュー後のこと。あなたはまだ、婚約者候補に過ぎませんわ。あたくしと同じく」


 破滅フラグはまだ立っていないということ? よかった!


「そうだったんですね」


 わたしのほっとした顔に、なぜかベラドンナは不機嫌になった。


「あなた、セオフロストのことをなんとも思っていませんの?! セオフロストがあなたではなく、あたくしを王妃として選ぶかもしれないのに、なんで必死になりませんの?!」


 宇宙人でも見るような目でベラドンナがわたしを見ている。

 気持ちはわかる。

 王家の人と結婚して出世したい人間が大多数のセイント王国の価値観からすれば、王太子との婚約解消を望むわたしなんて、宇宙人も同然だろう。

 

「全てはセオフロストが決めることですので、わたしが言いたいことは、特にありません」

「権力は愛に勝てませんわ。それを、お忘れにならないでくださいませ、オーレヴィア様」

 

 そう言い捨てて、ベラドンナは逃げていった。


「何だったんでしょうか、さっきのご令嬢……」

「王太子殿下ガチ恋勢かな……まあ、大広間に行きましょう」

 

 と、レインナイツを適当に相手しつつ、わたしは足を進める。

 ベラドンナの話し方は棘があるけれど、ゲームのオーレヴィアとブラック企業の上司のパワハラに比べればかわいいくらいだし……セオフロストを心から想っているのは伝わってきたから、二人で幸せになってもらおう!


 婚約解消されたあとのことも、ちゃんと考えている。

 幸い、わたしは聖女だ。聖堂に入れば確定で司祭になれる。クリストさんも健在だし、なんなら、クリストさんはプロポーズを成功させたらしいので、ヴィラン家の跡継ぎはクリストさんの子供で決まりなので、わたしが聖堂に入って一生結婚しなくても、ヴィラン家は安泰だろう。

 最悪、クリストさん夫婦に何かがあって、腹違いのスノウネージュがヴィラン家継ぐとしても、聖女として後ろ盾になれば良いのだし。


 と、自分にとって一番望ましい未来について考えていて――ふと、大広間からの声が聞こえた。


「ここにいる出席者の中で、セオフロスト王太子に愛の秘薬を贈ったことがないのは、オーレヴィア様だけではないか?」

「表だってはそうでしょう。きっと、聖女の力で作った知られざる愛の秘薬を持っているんじゃありません?」


 持ってないし。


「あってもセオフロストにだけは絶対使わないわよ、媚薬なんて……!」

 

 と、わたしが大広間の腐った大人に聞こえないのをいいことに、ひっそりと言い返していて――気がついた。

 ベラドンナもセオフロストにとんでもないプレゼントを贈っているんじゃないか!?


「オーレヴィア、お父様が呼んでるよ」

「では、私は庭の警備に戻ります」


 考え事をしているうちに、大広間でわたしはばったりとセオフロストに会ってしまった。

 レインナイツもいなくなるし、しかも――とんでもないことを言われた気がする。

 

「こ、国王陛下が?! わたしを? 呼んで?!」

「うん。行こっか」


 と、セオフロストは当然のようにわたしの手を握って、歩き出そうとするので。


「なななななななにするんですかー!」


 まだ子供でもさすがは攻略対象! 自然に王子様ムーブ! 年齢=彼氏いない歴のモテないオタクには刺激が強すぎる!

 わたしが真っ赤になりながら、手を引っ込めると。

 

「婚約者だよ? 手を繋ぐのは当たり前だよ?」

「わたしたち、デビュタントするまでは仮婚約者ですよ!」


 と、わたしがセオフロストから顔をそむけると。


「……それ、オーレヴィアの家庭教師たちには絶対教えないように命令してたのになぁ」

「なにかおっしゃいましたか?」


 なんだか、セオフロストから黒いオーラが立ち上っていた。

 こんなに腹黒だったっけ、セオフロスト?

 そう思いつつも、わたしは話題を変えることにした。


「セオフロスト、聞きたいのですが――ベラドンナ、という人について、どう思いますか?」

「ベラドンナ? 今日初めて会ったのに、やけになれなれしいと思ったよ」

「じゃあ、ベラドンナさんからの贈り物とか、もらったこと、あります?」


 わたしの質問に。

 セオフロストは、大きく首を横に振った。

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