第37話 パーティーを抜け出して散歩すると情報が手に入るのは、鉄板です
わたしが慌てて回れ右をすると。
さっきのとろけた目はどこへやら、じっとりと暗い瞳で、セオフロストがわたしを見つめていた。
そりゃ怒るよね、自分に挨拶しているのに、他の人ばっかり見てたら、誰でも!
わたしは素早く頭を下げる。
「失礼いたしました、王太子でん――」
セオフロストがわたしに向けている湿度が増す。
なんだか、闇も追加されたような気がする。具体的に言うと、メリーバッドエンド前のスノウネージュそっくりの。
「――セオフロスト」
わたしが言い直すと。
セオフロストは、花が咲いたような笑顔になった。
「がんばったオーレヴィアには、プレゼントをあげよう。ちょうど宝石商が来てるからさ。欲しいものある?」
と、セオフロストは宝石商に、青い宝石ばかりが並んだトレーを持って来させた。
後ろから「見せつけてるな、セオフロスト殿下……」とか、「あえてあいさつで私たちを待たせて、聖女様一筋でいらっしゃることをお示しになるとは……」とか、ほめているのか待っていることをアピールしているのか、よくわからないざわめきが聞こえるので。
「これがいいですわ」
わたしは、適当に宝石を指差した。
金の台座に青い宝石がはまった、派手すぎず地味すぎない、無難な髪飾りだった。
「わかった、じゃあこれを君に」
と、セオフロストはわたしのの髪に青い宝石の髪飾りを挿して。
ギャラリー、「純愛ですわー!」とか「あんな殿方の結婚したいわー!」とか、
赤髪の少年が急いだ様子でやってくる
「殿下、火急の用件がございます。侯爵家に、魔人侵入の痕跡が発見されました」
「ごめんオーレヴィア、少し、彼と話していいか?」
「構いませんよ」
「最後に。この髪飾り、どんなパーティーにでも絶対付けてね」
「了解いたしました、セオフロスト」
わたしは優雅に礼をして、セオフロストから離れ。
やったあ終わった! やっと帰れる!
と、うっきうきだったので。
「自分の瞳と同じ色の髪飾りを贈るとは、殿下は本当にオーレヴィア様のことを愛していらっしゃるのですね」
「……うるさい」
と、セオフロストをからかう赤髪の少年の声が、明らかに攻略対象のものだということに、気づけなかった。
終わった終わったー!
わたしにとっては、半分公開処刑のようなセオフロストとのあいさつが終わって。
やっとパーティーを楽しめる! 料理だ料理! と会場を歩いていると。
紫色の瞳と、目があった。
ラベンダーブロンドの髪に、紫色のドレスに身を包んだ彼女は。
わたしをきっ! と
あの色合い、【ほめらぶ】のスチルで見たことがある気がするなぁ。
と、わたしが思っていると。
「これはこれは聖女オーレヴィア様! わたくしはこういう者で──」
と、わたしの周りに、娘連れのおじさんやおばさんが大集結し。
「娘と、仲良くしてくださいね!」
やけにギラギラした瞳の、娘さんを次から次へとわたしに紹介してくる。
「あの、娘さんを紹介なさるなら、わたしよりセオフロスト殿下の方がいいのでは?」
と、わたしが近くにいた貴族のおじさんにたずねると。
「なにをおっしゃる! セオフロスト殿下は女性不信。ですから、セオフロスト殿下が唯一信じているオーレヴィア様の推薦がなければ、我々の娘にセオフロスト殿下が興味をお持ちになることはないでしょう。ご心配なく。第二夫人として仕えるよう、きちんと言い聞かせております」
なんだそれは。
わたしのこと、セオフロストにあなた達の娘を紹介するための踏み台だと思ってない?
と、わたしがあきれていると。
「愛の秘薬も効果がなかったのに……やはり、聖女はただの人とは違うのでしょう」
なんて、ギャラリーの声も聞こえてきて。
「女性不信の王太子の心を溶かしたのは、聖女だからでしょうな! 慈悲深い聖女様なら、多くの妻をセオフロスト王太子が迎えることもお許しになり、そして我が家門も発展することだろう!」
いや、そうじゃないでしょ。
わたしがセオフロストに懐かれている理由は、よくわからないけど、聖女だからじゃないと思う。
というか。
あなたたちがセオフロストへの贈り物に、変なもの混ぜたから、セオフロストが女性不信になったんだよ!
「気分転換に、外の空気を吸ってきますね」
こんな、人を紹介状か、なにをしても許してくれる都合のいい存在だと思っている人たちと、同じ空気を吸いたくない。
わたしは、庭園へと逃げ出した。
「お待ちくださいオーレヴィア様!」
でも、追いかけてくる人はまだいて。
わたしはとっさに物陰に隠れた。
「どこに行った、あの小娘!」
「しっ! 王太子殿下に聞かれたらどうする!」
「聞くとは良い手ですね。この庭園には玉砂利が敷かれている。玉砂利の音を聞いて、オーレヴィア様を探しましょう」
わたしが13歳の子供だからって、ずいぶん便利に使おうとしてるじゃない。
なんて、大人たちの身もふたもない話を横目に。
音を立てないよう、物陰から物陰へと、玉砂利の上をそっと進んだ。
と、やっているうちに。
ここ、どこだろう。
ひたすら下心丸出しの大人から逃げているうちに、わたしは、知らない場所に出てしまった。
誰かいないかな、とわたしがまわりを見回すと。
「一晩一緒でもよろしかったのに」
蜂蜜のような、べったりと甘ったるい声。
声の方向を見ると、寄り添う男女の姿が。
これ、13歳の女の子が見てていいのかな?! とわたしが思っていると。
「ベラドンナ嬢、未婚のご令嬢なのですから、ご自身を大切になさってください。夜更かしであなたの美しさが曇ってしまうのは僕としても悲しいです」
氷のような、セオフロストの声がした。
「フロスト様、いつになればあたくしの思いを受け入れてくださるのですか?」
「その呼び方を許した覚えはありません」
「そんなつれないところも、セオフロスト様は素敵ですわ」
わたし経由でセオフロストに迫ろうとした子たちより、ずっと勇気があるなぁ。
「僕は婚約者のいる身です。僕につきまとえば、あなたの名誉を傷つける結果にもなります」
「セオフロスト様があたくしを受け入れてくださることに勝る名誉などありませんわ」
おーっ、セオフロスト、愛されてる!
そうだ、セオフロストとあの女の子をくっつけて、婚約解消されてしまえば、あの女の子はセオフロストと結婚できて、わたしは破滅フラグを折れて、良いのでは?
これからのわたしは、セオフロスト直接対決ご令嬢(仮)を応援する会の会長だ!。
と、わたしが意気込んだとき。
ガシャ。
足に力が入って、玉砂利がこすれた。
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