第33話 攻略対象がヤンデレるのを防止するより、婚約解消を優先する作戦を実行します

 スノウネージュが目の前に現れたので、軽くゲームでのスノウネージュについてまとめよう。


 スノウネージュは、ひとことで言って、「メリーバッドエンドでド派手にヤンデレるキャラ」だ。


 全ての攻略対象の好感度を上げきった状態で、スノウネージュと結婚する、という選択肢を選ぶと。

 結婚の誓いを述べた次の瞬間。


『君が世界を救う聖女だとしても、もうぼく以外を見ないでね?』


 と、ヒロインはヤンデレ全開になったスノウネージュによって監禁され、二人きりの世界で死ぬまで過ごすことになる。


 幸せな引きこもり生活だからいいじゃん!

 と、わたしは最初、そう思っていた。


 しかし、このルートを進めると、【ほめらぶ】のハッピーエンド条件を満たさないため、革命エンドと同等の破滅が国に降りかかり、メリーバッドエンドとしての本領を発揮する。


 その条件というのが、「結婚式後、プレイヤーがセオフロストに結婚の報告をする」こと。

 真の愛に目覚めたプレイヤーが、セイント王国唯一王位継承権を持つセオフロストに会うことで、セオフロストの命をむしばむ呪いが解け、セオフロストと国が救われるのだ。 


 メリーバッドエンドルートでは、結婚の報告をセオフロストにしないため、セオフロストの呪いを解く機会がなくなる。


 そして呪いから解放される機会を失ったセオフロストは、革命エンドと同じように――現実逃避のため贅沢ばかりして――国庫を空にして平民に重税を課し、それに反発した平民たちは革命を起こし、王国内の混乱を侵略のチャンスと考えた魔王軍も攻めてくる。


 監禁された部屋の鉄格子の向こう側で、街が燃え、風に乗って悲鳴が聞こえてくる中、スノウネージュにうっとりと見つめられながら「一緒に死のうね」とささやかれるスチルは、ヤンデレ好きな方々の心を打ち抜き。

 

 スノウネージュとヒロインの関係を題材にしたヤンデレ【ほめらぶ】二次創作は、あっという間に【ほめらぶ】二次創作の投稿数一位に。

 

 セオフロストとヒロインの甘々純愛二次創作を探すため、【ほめらぶ】で二次創作投稿サイト内を検索したら、ヤンデレ、スノウネージュ、がセットのようにタグ付けされた二次創作ばかりが引っかかり、ヤンデレ人気ってこんなに高かったの?! と未知の世界に戦慄し、検索ワードにセオフロストを追加し、ヤンデレを検索除外ワードに入れたのも、懐かしい思い出だ。

 

「お母様、オーレヴィア様はお母様に言いたいこと、もうないようです。お話は終わっているようですから、もうおいとましましょう」

「スノウネージュ! なんて優しい子なの! では、夜会に行きますわ!」


 と、いそいそとカーミラはスノウネージュを連れ、わたしの部屋から出ていった。

 それと入れ替わりに。


「オーレヴィア様! 無事でしたか!」


 アンナが、わたしの部屋に駆け込んできた。


「ちょっと疲れただけよ。アンナ、侍女教育は?」

「オーレヴィア様の様子を確認するようにメイド長から指示されたので、ちょっと休憩です!」

「そうなの?」

「カーミラがオーレヴィア様の部屋に突撃したのを見て、メイドさんたち、みんな心配してましたよ! オーレヴィア様の部屋に、オーレヴィア様が知らない使用人が行くのは悪いから、私が選ばれて」

「待って、カーミラは部屋に来ただけよ? なにか起こるような人なの?」


 わたしがたずねると、アンナの表情が心配から恐怖に切り替わった。


「……カーミラって人、メイドを血が出るまで叩くのは、いつものことみたいです」

「なによ、それ」

「私が偶然、カーミラが住んでいる離れの掃除担当になっちゃった時、メイドの先輩が『自分が代わるから絶対離れに行くな、アンナが怪我したらオーレヴィア様になんて言われるかわかんない』って、強引に担当を変わられて……それで先輩の、お屋敷に花を飾る仕事を代わって、庭師さんに花をもらうために離れの近くを通ったら──カーミラの怒鳴り声と、悲鳴みたいな先輩の謝る声がして、仕事終わりにメイドの食堂でご飯食べてたら、先輩、顔に包帯巻いてました。朝は何もしてなかったのに。動きもなんだかぎこちなくて、顔以外にも絶対ケガしてました、先輩」

「え……」


 カーミラって吸血鬼みたいな名前だと思ってたら、サディストという点は共通していたようだ。


「あと、カーミラは夜会に、デビュタント前の子供のスノウネージュ様を連れて行くので、スノウネージュ様の教育に悪いしマナー違反だって、執事様が怒ってました。しかも、嫌われ者のカーミラが門前払いされない夜会なんて、怪しい会がほとんどで……カーミラ自身は、宰相のベルウッド家系列の夜会だから怪しくない、と言い張ってますけど」

「家庭教師から、ベルウッド家はヴィラン家を引き摺り下ろそうと虎視眈々に狙っている侯爵家って聞いたわよ?! 大丈夫なの?!」

「大丈夫じゃないから、みんな心配してます」


 と、いう騒動があったことを、わたしはセオフロストに語った。

 すっかり、わたしのティーカップの中身は冷めていた。


「カーミラと話してることはわかったけど、スノウネージュとは?」

「スノウネージュとは全く話せていません。彼に話しかけようとすると、『意地悪言う気でしょう!』って、カーミラに全て防がれていて」

「そうなんだ」

「全く、身の程知らずには困ったものです。身の程をわきまえさせる必要がありそうです」


 わたしはあえて冷たく言う。

 これは、婚約解消のための作戦だ。

 セオフロストはゲームの描写と、わたしに自分を呼び捨てするように銘じていることを合わせて考えると、セオフロストは身分によって人を差別する人間のことが嫌いだ。


 だから、思いっきりカーミラとスノウネージュを差別して、セオフロストのわたしに対する好感度を下げ、セオフロストから婚約解消を言い出してもらおう、というわけである。


 セオフロストは、イナカ村での活躍で、貴族社会での発言権を増した。

 聖女となったオーレヴィアの力を借り、魔人を撃退した王太子。

 勇者の再来だと期待する声もある。

 そんな同世代の最高権力者には、聖女と公爵令嬢というセイント王国最強クラスの権力を持ってしても、婚約解消を命じることはできないのだ。


「カーミラ以外に、大変なことはある?」

「終わった話ですけど、引っ越しは大変でした」

「荷物、運んだりとか?」

「いいえ? 力仕事はお嬢様には任せられない、ってことでレインがわたしの代わりに荷物の積み込みとかをしていて、大変そうでしたよ」

「レインは都にいるの?」

「まだヴィラン家の城にいます。まだ騎士見習いだから、わたしの護衛として都に呼ぶための手続きがたくさんいるみたいで」

「レインと一緒にいたいの?」

「わたしがレインと一緒にいたいというか……レインはお兄様の下で修行して、お兄様を倒したいらしいんですよね」

「ああ……オーレヴィアの前でやられたまんまじゃ、終われないもんね」

「でも、レイン自身の家柄だけで都に行けるほどではなかったので、お兄様がレインの希望を叶えるためには、わたしの護衛兼話し相手、っていうことにするのが色々と都合が良かったみたいです」

「オーレヴィアは、レインに都に来てほしい?」

「来てほしいですよ。わたしは友達と気軽に会えてうれしいし、都に来るのはレインの夢でもあるので」


 ゲーム中では、都で騎士として修行するという夢が、自分を大事にしてくれた人たちが住むイナカ村が全滅したことで叶ってしまって、後ろめたい気持ちを持っているレインナイツ。


 まあゲームのレインナイツは、スポ根脳筋の日本ならパワハラ上司待ったなしのクリストさんに憧れていたなど、ちょっと──いやかなり人を見る目が節穴ふしあななところがあるから、勝手にレインナイツとアンナが付き合っているという事実無根の噂を流すイナカ村の人たちに、本当に大切にされていたかは怪しいけれど。

 でも、ヒロインとの交流で吹っ切れて、村の人たちがいたことを自分の活躍で忘れさせないようにする、って方向に成長していくのが等身大の男の子、って感じでわたしはレインナイツというキャラが大好きだった。


 わたしの行動によって村の破滅は回避されたので、レインナイツはゲーム中のような闇を抱えることはなくなったので。

心置きなくレインナイツを応援できるのは、ゲームのシナリオを変えて良かった、と思っている。

 セオフロストの婚約者になり、悪役令嬢化ルートに入りかけてるけど。


「レインの夢?」

「お兄様を超える騎士になるために、都で修行したいんですって。魔人とは戦えなかった自分の未熟さを感じたのもあって、絶対都で修行するぞー! という手紙が届きましたよ」


 と、推しの近況を楽しくわたしは話していたので。


「ふうん……オーレヴィアが、楽しいなら、いうことは、ないかな。オーレヴィアの笑顔が、一番だよ」


 セオフロストの、奥歯になにかが詰まったような──まるでゲームのスノウネージュのような湿度を帯びた──言い回しを気にしているひまは、わたしにはなかった。


 セオフロストとのお茶会から帰って。


 わたしが部屋で一息つこうとしていた時。


「あたしの夕食がありませんわ!」


 カーミラが、またわたしに突撃してきた。


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