第二部 都で破滅フラグを折ります

1・破滅フラグに弟に、考えることはいっぱいです

第31話 ゲーム開始シーンの惨劇を防いだら、ゲームの悪役令嬢と同じ立場になってしまいました

 どうしてこうなった?!

 

「オーレヴィア、緊張しなくてもいいのに」


 乙女ゲーム【ほめらぶ】の悪役令嬢、オーレヴィアに転生してしまった日本のしがないOLの、わたしとテーブルを挟んだ目の前には。

 ティーカップを片手に、上機嫌なセオフロストが座っている。

 乙女ゲーム【ほめらぶ】の攻略対象、セオフロスト王太子といえば、氷のような虹を帯びた銀髪と、冬空の淡い水色の瞳、硬い表情によって、氷の王太子というキャッチフレーズが、よく似合うキャラクターだった。

 だが、わたしの目の前のセオフロストは。

 太陽のような金髪と、目の覚めるような夏の海に似た鮮やかな青い瞳で、にこにこ笑っている。


「わたし、王宮に呼ばれて何も感じないような、氷の心は持っておりませんわ!」


 ゲームのシナリオ、改変し過ぎちゃったかもしれない。

 正確に言うと、魔王によって日本に転移させられた、わたしたちの現在地、セイント王国を守っていた異世界の女神が書いた未来視を元に作られたゲームが【ほめらぶ】なので、未来改変という方がいいのかもしれない。


 でも、ゲームと同じまま、変えられなかったこともある。


「もしかして、オーレヴィア、庭園と、お茶会の道具が立派すぎて、緊張しちゃった?」


 わたしとセオフロストが二人きりのお茶会を開いているのは、王宮の庭園だ。

 

 一輪もしおれず、咲き誇るバラの花。

 香り高い茶葉に、華やかなデコレーションがなされたケーキ。

 テーブルクロスには、星祭りがある7月と言うことで、繊細に金糸銀糸の刺繍の星が、天の川のようにみっしりと美しく縫い取られ。

 茶器も、上品に金や草花があしらわれていて。

 極めつけには、フォークやナイフは、おろしたての、傷一つない銀食器だ。


 わたしの視野に入る物、全てが一流の品質と技と気遣いで出来ていることをさりげなく、かつしっかりと主張していて。

 六畳一間のワンルームに住んでいたOLとしては、目が潰れそうなほどキラキラで、物言わぬモノたちに、圧倒されて感想を述べる事すらできないのだが。


「これからのオーレヴィアが、王妃として毎日使うものとしては、最低限の品質だよ? 早く慣れてね?」


 そう。

 公爵令嬢、オーレヴィア・ヴィランは王太子セオフロストの婚約者なのだ。

 ゲームの通りに未来が進んでいくなら、王太子セオフロストに婚約破棄されて破滅する、悪役令嬢である。

 

 ゲームの中で、オーレヴィアは部下で攻略対象のレインナイツをこき使う、無理矢理一目惚れしたセオフロストの婚約者になった上に、セオフロストと仲良くなった平民出身者のプレイヤー操作キャラクター、アンナをいじめる、などのやりたい放題をした結果――婚約破棄され、追放され、あげくの果てにはオーレヴィアは死んでしまった、と一行で締めくくられるという末路を迎える。


 わたしはそんな末路はごめんだったので、ゲーム開始前の12歳のオーレヴィアに転生したわたしは、ゲームの前提条件を変えるため、ヴィラン家の城で偶然出会ったレインナイツに親切にした。

 その結果、オーレヴィアがセオフロストとの結婚に執着するきっかけが、ヴィラン家の正統な跡継ぎでオーレヴィアの兄のクリストさんが、ゲーム開始シーンでアンナを守って魔物と相打ちになったことだとわかった。

 ので、アンナの出身地、イナカ村を守るための助力を、ゲームのスチルとは全く違う見た目だから、ゲームに登場しない人物だと思って、レインナイツの友達のデンカにお願いしたら――なんと、デンカは、14歳の誕生日に呪われて白銀の髪になる、セオフロスト王太子ご本人だったのだ。


 一応ゲーム内情報で、セオフロストは呪いで髪と瞳の色が変わっていた、ということは語られていたけど、たったの一言だけだった。

 このマイナー設定忘れてたわたし、仕方ないよね? というか、【ほめらぶ】以外にも追いかけてるコンテンツ、いくつかあったし。というか、最推しアニメと声優が一緒だったから、【ほめらぶ】を始めたし。


 悪役令嬢に転生してしまい、推せなくなった別作品の話は置いておいて。

 クリストさんを生かし、アンナに無駄に重い過去を持たせないため、セオフロストと一緒にイナカ村に向かったのだ。

 わたしは魔人にやられて死にかけたと思ったら、女神と出会い、色々と衝撃的なことを知った。

 【ほめらぶ】は異世界を元に作ったゲームで、異世界の未来を描いた予言書であること。

 わたしがオーレヴィアに転生したのは、オーレヴィアと魂を入れ替えようとしていた魔王の企みを阻止するため、女神が魔王の魂と、悪役令嬢になりたいと願っていたわたしの魂を入れ替えたからだということ。

 そして、日本のわたしの身体には魔王の魂が入っていて、わたしの魂はオーレヴィアの身体に入っていて――オーレヴィアの魂は、行方不明だということ。

 極めつけには――誰かを魔物や魔人からかばって死にかけた女の子が、聖女になるということ。


 と、いうわけで、わたしは聖女になってしまった。

 悪役令嬢が、本来ヒロインのアンナがなるはずの聖女になってどうするの、とは思ったけど、聖女にならないと生き返れないし、聖女の力で支援しないと、魔人ノワールを撃退できない状況だったから、仕方がない。


 聖女になる条件として、女神にオーレヴィアの魂を見つけたときは全力で助けることを約束してもらったのと、【ほめらぶ】の設定資料集の同人誌をもらうことを約束してもらい、【ほめらぶ】の元となった異世界、セイント王国に戻ったわたしは。


 魔人ノワールの撃退に成功し、村とクリストさんを守り切ったはいいのだけれど。


「殿下、気が早すぎませんか? わたしの誕生日は6月22日ですので、もう13歳ですが、結婚可能な年は18歳からですよ! あと5年はあとのことですよ!」


 わたしの正論に対して。

 

「14歳のデビュタントまで、正式な僕の婚約者としてオーレヴィアを認めない王国の法律が、遅すぎるだけだと思うけどなぁ」


 セオフロストは、きょとんと首をかしげている。

 いやいや、14歳は、日本だったら中学生の年だ。

 現状でもこんなに若くして、婚約者を決める事が出来る時点で、わたしからすれば充分早いのだが――どうやら、セイント王国では50歳でおじいさん、60歳は長寿、100歳は伝説の長寿、という年齢の感覚をしているから、婚約も日本より早いのが常識らしい。

 まだ、異世界価値観には慣れないなぁ。

 と、わたしが思っていると。


「ルールなんてどうでもいいけれど、オーレヴィア、殿下なんて他人行儀な言い方は、やめてほしいって、前から言ってるよね?」


 セオフロストが、上目遣いに。

 乙女ゲームのメイン攻略対象の美しい顔を最大限に使用した、ずるいくらいに嫌とは言えない表情に――妖艶な、声。

 

 ヴィラン家の城にいた5月まで、セオフロストは声変わり前の不安定な声で、だからこそデンカとセオフロストが同一人物だと気付けなかったのだが。

 イナカ村で魔人ノワールを撃退した戦いのあと、転移でセオフロストが都にすぐ帰り、王宮からわたしをセオフロストの婚約者にしたいという正式な書類が届いて、6月一杯とを使って、わたしが都に引っ越す準備をして、今現在、7月の中旬には。


「ねぇ、オーレヴィア、ちゃんと、身内として、僕のことを、呼んで?」


 無理! 耳が幸せすぎる!

 セオフロストはすっかり声変わりが終わり――安定して、わたしの推し声優そっくりの声質になっていて、なんだか、困る。


「で、では王太子様?」

「それ、ただの肩書きで、僕自身のことじゃないじゃん」

「セオフロスト王太子様」

「もっとくだけた感じで」

「セオフロスト様」

「あと一歩!」

「……セオフロスト?」


 わたしがセオフロストを呼び捨てにすると。


「オーレヴィアは恥ずかしがり屋だからね、まあ、セオフロストでいいよ……」


 と、なぜかセオフロストは残念そうだ。

 ゲームでは、好感度最大の「恋人」にならないと、セオフロストは呼び捨てを許してくれないのに、この呼び方でも「恥ずかしがっている」と考えるってどういう事?

 わたしが不思議に思っていると。


「フロスト、って呼んでくれたら、ヴィアって呼べるかなー、って思ってたのに」


 フロストって。

 そ、それはセオフロストルートで、セオフロストと結婚する直前に、これからは「フロスト」と呼んでほしいと言われる、好感度が上限突破していることを示すシーンでだけ出てくる呼び方じゃないですかー!

 わたし悪役令嬢なのに、攻略対象の好感度をゲーム開始の一年前に、上限突破させてるんですけどー!


 わたしが天を仰ぐと。


「オーレヴィア、もしかして、悩んでる?」

「ええ」

「話、聞かせてくれる?」


 と、身を乗り出してくるセオフロストに、婚約を円満に解消したい、なんて言えるはずもなく。


「お兄様が、ヴィラン家を継いだでしょう? それで、わたしの母親違いの弟、スノウネージュをどうしたらいいか、悩んでいて……スノウネージュ自身はいい子なのですが、母親が強烈で……」


 隠し攻略者である、オーレヴィアのてい

 スノウネージュの母親、カーミラに、都に来てから困らされていることを、相談することにした。


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