第24話 ショウのワガママに付き合ったら、衝撃の事実が判明しました

 はいはい、とショウのわがままを雑に流していたら。


「まじめに聞いて! レインだけずるい! ボクもお菓子ほしい!」


 ショウはわたしのベッドの上を占領し、あげくの果てにはわたしに枕を投げつけてくる。


「おー! かー! し!」

「アンナ、どうすればいいのこの状況?!」


 ファイアフォックスの扱いを、アンナなら知っているかもしれない。

 そう思って、枕を受け止めながら新米侍女に助けを求めたのだけれど。

 

「オーレヴィア様、アンナは侍女教育のため、今はメイド長による研修で、ここにはいません」


 布団を受け止めながら、マリカがわたしに現実を突きつける。

 そうだった。わたしの部屋に今いるのは、わたしとマリカだけだった!

 

「それならマリカがお菓子作りを手伝って! ショウ、クッキーでいい?」

「やだ! レアチーズケーキ! ママがよく作ってくれた!」


 妖精って料理するんだ!? と、驚いたのも一瞬。

 リクエスト内容に、わたしは無理かもしれない?! と白目になりかけた。

 

「マリカ……レアチーズケーキを作れるような設備って、ある?」


 クッキーを作ったとき、調理場に魔導式オーブンこそあったものの、魔導式冷蔵庫や氷が置いてある氷室ひむろはなかった。

 レアチーズケーキは、生地を冷やし固めて作るケーキだ。

 日本では、冷蔵庫がないと作れない。

 

「設備というか……物を冷やせる魔法が使える魔術士がいないと、作れませんね。確か……甘い物が嫌いな当主様によって、辞めさせられています」

「お父様……早く隠居すればいいのに……!」

 

 絶対、経費削減という形で愛人にみついでる。オーレヴィアの父親が、どうして実の娘を育てる環境に冷淡れいたんなのか、逆に気になってきた。


「オーレヴィア様が当主様をお嫌いなのは、当然のことです。当主様は……奥様の尻に敷かれた状態でしたが、奥様が有能なことが、お嫌いでした。だから、奥様が亡くなったあと、オーレヴィア様を賢くするな、美しくするな、とお命じになり、オーレヴィア様にきちんとしたお世話をほどこせないような環境を作ったそうです。マリカには、よくわかりませんが」

「なにそれ……」


 女のくせに生意気だ、とか言う感じの、日本だと時代遅れな価値観に、異世界あるあるの実の娘しいたげに義母ひいきが重なって、一周回って悪役のテンプレ性格だ。


 そんな事してるから【ほめらぶ】本編ではオーレヴィアが婚約を強行するわ、平民をいじめて暗殺者を差し向けるという平民対貴族でもアウトなことをして、娘と一緒に破滅するんだよ……。


 と、わたしがオーレヴィアの父親に対する怒りに震えていると。


「しんどい話をしても過去は戻らないから、未来の話をしてよ! で、レアチーズケーキは作れるの? 作れないの?」


 ダンダンと尻尾を床に打ちつけ、イライラした様子で火花を散らすショウ。

 

「ショウ……レアチーズケーキは、冷やさないとダメなの。ここに冷やす魔法を使える人はいないから、レアチーズケーキは作れないの」


 これであきらめてくれるかな? とわたしが思っていたら。

 

「魔法は使えないけど、ほら!」

「冷たっ!」

 ショウは、氷で出来たバラをわたしの頭の上に出現させた。

 

「氷しんせいじゅつを使えるし、なんなら――氷よ氷、水にもどらず空気に戻れ!」


 ショウはわたしの頭の上の氷を昇華させ、水蒸気へと戻す。


「少し、あったかい?」

「温度計があるなら温度調節も出来るー! なんなら、食材の浄化もできる!」


 ショウ、話し方は子供っぽいしワガママだけど、普通に有能だ。


「レアチーズケーキ作るけど、冷やせるのはショウしかいないから、手伝ってね!」

「うん!」


 と、いうわけで。


 わたしたちは、調理場にやってきた。

 レアチーズケーキは、オーブンを使わないケーキで、ぐるぐる鍋をかき混ぜるだけの手順がある。


「ひーまー!」


 さっそく、鍋かき回し担当のショウが飽きてきた。


「だったらさ、おしゃべりする?」


 レアチーズケーキの土台にするビスケットが焼き上がり、それをくだく作業をしながらなら、おしゃべりをする余裕がある。


「うん!」

「ショウ、神様の使いなんだって? 聖女がいたらわかる?」

「わかるはずだよ」

「え、わかるはず?」

「会ったことないから」

「イナカ村のアンナは聖女のはずよ?!」

「その子は聖女じゃないよ」

「嘘でしょ?!」


 わたしの、クッキーをくだく手が止まる。


「聖女になるには、命を投げ出してでも、誰かを助けないとダメ。その行いを見て、女神様が祝福をくださって、ただの女の子を聖女にするの」

「そんな……」


 それって。

 村が燃えるイベントが発生しないと、アンナは聖女にならないってこと?!


 詰んだ。王国詰んだ。おいでませ魔王。さよなら文明と人類。


 悪役令嬢に生まれ変わったから、改心してきちんと生きたい、お兄さんの仲間が亡くなるは嫌だ、って願うのは、そんなに悪い事だったの?

 悪役が改心して真っ当な、悪く言えばつまらない人間になってしまうのは原作改悪二次創作だから、許されないってことなの?


「オーレヴィア?」

「あ、デンカ、こんにちは」

「図書室の時みたいな顔してたけど……なにか、悩んでる?」

「……なんでも、ないです。デンカは?」


 わたしがビスケットすら忘れて、闇に沈んでいると、デンカが調理場にやってきた。


「なにかおやつを作ろうかと思ったんだけど……空いてる?」

「だったらレアチーズケーキ、分けましょうか?」

「手伝いますぞ。ビスケットをくだくのは、疲れますでしょう。手を洗ってきますので、少々お待ちを」


 と、ビスケットくだきはじいやさんに選手交代となり。


「ショウ、僕が混ぜるよ」

「ありがとー!」


 と、ショウもちゃっかりデンカと交代し。


 全てが破滅するかもしれない未来にわたしが怯えているあいだに、レアチーズケーキは出来上がってしまっていて。


「どこで食べますかな? オーレヴィア様」


 と、じいやさんに尋ねられたので。


「マリカ、お兄様が騎士さんとの打ち合わせに使う食堂がいいわ」


 デンカは騎士見習いだから、そこを使うのが格式的に合っていると、わたしは思ったのだけれど。


「本当によろしいのですか? オーレヴィア様」


 マリカは微妙な表情だ。

 じいやさんをうかがうと、面接官のようなピリピリした空気になっている。


 何かまずいの? とわたしの背筋を冷や汗が流れる。


 その上、食堂に入ろうとした時。


「ここ嫌な感じがする!」


 ショウが騒ぎだした。


「ここは格を落とした食堂だけど、イナカ村の村長の家より綺麗だよ?」


「ちがう! あいつの気配がする! ボクをケガさせた! あの森みたいに、寒くて暗くて怖いのに、オーレヴィア」

「そうは言っても……昼下がりの、明るい食堂にしから見えないよ?」


 と、わたしたちがやいやい言い争っていると。


「具体的に言うと、どこにその気配がありますかな? ショウさん」


 じいやさんが、ショウに話しかけた。


「敷物の下!」

「改めますぞ。デンカ、オーレヴィア嬢、食堂に入らないでください」


 じいやさんが、ショウの指さしたカーペットをめくると。


「なんで……こんなところに魔法陣が?!」


 禍々まがまがしい模様の魔法陣が、カーペットの下から現れた。


「これは……今すぐ聖水を! 消さねばなりませぬ! そこのメイド、城の聖堂から最も浄化に長けた者を呼べ!」


 じいやさんが焦った様子で、指示を飛ばしはじめた。

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