2・破滅回避のため、悪役令嬢の兄生存ルートを作ります
第7話 ゲームの始まりが破滅フラグだと判明しました
目が覚めたとき。
「ここ……どこ?」
世界遺産特集のような豪華絢爛な部屋のベッドの中にわたしは寝ていて、アニメかゲームに出てきそうな、美形で金髪の少年に見下ろされていた。
(わたし、日本の平凡なOLだからこんな部屋も、美少年も画面越しにしか見たことがないはずなんだけどなぁ……ん? 本当にそうだったっけ?)
「オーレヴィア様、お目覚めになりましたか?」
メイドさんに名前を呼ばれ、
(そうだった、わたし、乙女ゲームの世界に転生してた)
「デンカとレインナイツのお茶会の最中に、倒れられたのです」
メイドさんの後ろから、じいやさんが現れた。
「お医者様の見立てでは、緊張で気を失っただけだから健康に問題はない、とのことですが、それほどまでに緊張するきっかけがありましたかな?」
じいやさんの表情は柔らかいが、その視線が面接官のように鋭くて、わたしはふるえた。
(じいやさんに試されている気がする……無難な答えを選んだ瞬間バッドエンドに行くタイプの乙女ゲームの選択肢、みたいな気配が。ここは……ヴィラン家が特殊な血筋であることを利用しましょ)
「言葉、だと、おもいます」
「言葉?」
「なんだか、レインナイツやデンカの会話に、聞いたことがないのに聞いたことがある言葉のような気がして、そのことについて深く考えようとしたら、突然怖くなって、手がふるえたり、気が遠くなったりしたの」
(わたしのゲーム知識が正しく、わたしが間違いなくオーレヴィア・
「ふむ……
「なんでしょうか?」
じいやさんの小声が聞き取れず、聞き返したわたしに対し、じいやさんは「いえ、なにも」とニコニコするだけだった。
「お大事になさってくださいませ、オーレヴィア嬢」
(よし、どうなるかとは思ったけど、じいやさんをごまかすのに成功!)
大人たちとの会話が一段落したところで、わたしは気になっていることをデンカに聞くことにした。
「お見舞い、ありがとねデンカ。ところで、レインはどこに?」
「騎士の訓練に行ったよ」
(え、ほっとかれた? もしかして、実はレインナイツの地雷を踏んで嫌われたり、とかしたのかな?)
「いえいえ。オーレヴィア嬢は、よき部下を持ちましたな」
顔色を変えたわたしに、じいやさんがわたしが気絶した後に何があったかを説明してくれた。
「気絶したオーレヴィア嬢をベッドまで運んだのは、レインナイツです。オーレヴィア様に寄り添っても、医術の心得がないから今の自分ではお役には立てない、だから医術を教えてもらえるほど強くならなければいけないので訓練に行く、と」
(医術を教えてもらうことと訓練の関係がよく分からないけど、レインナイツにやる気があるのは、破滅ルート回避のために最重要だから、よかった)
「わたし……どれくらい気を失ってました?」
わたしの質問に、ふるふる、とデンカが首を横に振る。
「気にしなくて良い……かわいい寝顔だったし」
(モブまで顔も声も良い……さすが乙女ゲーム世界……ってなんて言った?!)
いい声で無防備な姿を見られたことを告げられ、わたしはかあああっ、と顔が熱くなった。
「み……見なかったことにしてください!」
「そう、なの……?」
「恥ずかしいです!」
「オーレヴィアのお願いなら、見なかったことにするよ」
そして、デンカはわたしの耳に顔を近づけ。
「他の令嬢のお願いなんて聞かないけど、オーレヴィアだけ、特別に」
(攻略対象でもない男の子がめちゃくちゃ口説いてくる……乙女ゲーム世界、おそるべし!)
「デンカ……近いです! もっと恥ずかしいです!」
真っ赤になってずりずりとデンカから離れようとするわたしに、デンカは不満げな表情。
「デンカデンカじゃなくて、もうちょっと気楽に愛称で呼んで欲しいな」
「どんな風に?」
(デンカって短い名前でも、愛称とかあるんだ)
「それは――」
「デンカ、勉強の時間ですぞ。もうこれ以上休憩時間は
デンカの言葉は、じいやさんによってさえぎられた。
さらにふくれつつ、デンカはわたしのベッドから離れた。
「わかったよ、じいや」
「お見舞いありがとうね、デンカ」
「またね、オーレヴィア」
そう、部屋から出て行くデンカを見送るわたしの頭の中は。
(レインナイツの好感度上げ成功! 破滅フラグを一本折ることに成功! いやいやそれより、【ほめらぶ】のシナリオ、どれが単発イベントで、どれが伏線なのか全っっっっっくわからなくなったんですけど! 面白いけど不親切だから☆減らす、って内容の【ほめらぶ】の☆2レビューがネット通販サイトで増殖したのも当たり前よ!)
と、破滅フラグを折れた安心感と、運営に対する怒りでいっぱいだったので。
「……本当なんだね、オーレヴィアは、僕がかわいいと言えば喜ぶだけの令嬢たちとは、本当に違うんだ」
と、わたしの部屋から出てすぐに、デンカがそうつぶやいていたことなど、全く気づかなかったのだ。
それはそれとして。
(無関係に思えたイベントの2つが結びついていることがわかったから、作戦を立て直さないと……!)
「マリカ、ノートとペンの用意を!」
「承知しました」
わたしは机に座り、叩きつけるようにペンを走らせる。
(開発、作中できちんと語りなさいよ! ただ単にゲームのプレイヤーに、このゲームは人の命がチリのように失われていく残酷な世界ですよ、って示すだけのシーンじゃなかったんじゃない! あのオープニング、きちんと意味があるんじゃない!)
ヒロインの村が燃えたことについて、ゲーム中ではこのように語られる。
ヒロインの村に、ヒロインの村が含まれる地域を治める領主の騎士団がやってきて訓練をしていた。その時、領主の騎士団は、魔物と相打ちになり、王家の騎士団に増援を要請するため村を離れた騎士見習いのレインナイツ以外、全滅した。
ここに、領主の名前は、一文字も出てこない。
領主が誰でも、ヒロインの境遇には影響を与えないから、語っても語らなくてもいい情報だったのは間違いない。
ただ、悪役令嬢の立場からすると、大事件である。
(レインナイツが悪役令嬢の実家の騎士団に所属しているってことは、ゲームの導入イベントで壊滅したのは、悪役令嬢のところの騎士団だったことじゃないの! つまり、死んでしまう人の中に、悪役令嬢の実家を
隠しキャラルートは、腹違いの悪役令嬢の弟を攻略するルートだ。
このルートでは、悪役令嬢の弟と聖女になったヒロインが結婚し、悪役令嬢たちによって没落してしまった
悪役令嬢の実家が没落した理由について、隠しキャラが語る内容をまとめると。
4年前、
セイント王国は身分差別の激しい国。性別よりも、生まれた血筋が重視される。オーレヴィアはゲーム中で、王を祖父に持つ母親から生まれたことを自慢していた。
だから貴族社会で母が同じオーレヴィアと兄はヴィラン家の一員として問題なく認められたが、弟はそうではないため、差別や嫌がらせを受けた。
しかも弟の母親が……たくさんの男性と同時並行で付き合っている事が公然の秘密になっている人で、本当にヴィラン家の子供なのかも分からない。
このように、ヴィラン家は貴族社会の中で失望され、権力を失う。
そんな状況の中でやさぐれて育った隠しキャラは、【ほめらぶ】では悪役令嬢の追放後、ヒロインが二年生に進級する始業式
(確か、ヒロインが講堂へ入場する新入生を眺めているとき、暗い顔をした黒髪の男の子が何だか気になるというイベントが入ったら、隠しキャラが攻略可能になるんだけど……これって……オーレヴィアのお父さん、何やってんのよ?!)
ゲームをやっている時は、悪役令嬢のきょうだいが攻略対象にいるゲームってそこそこ見かけるから、【ほめらぶ】もそうなんだなぁ、と思っただけだったけど。
(オーレヴィアとオーレヴィアの弟がお母さんが違う一歳違いのきょうだいってことは、身重の奥さんほっといて、愛人のもとに通ってたってこと?! 控えめに言って最低じゃない! オーレヴィアのお父さん!)
ゲーム内情報をまとめる限り、悪役令嬢一族は悪役ばかり、という印象だ。
だから、レインナイツの憧れが悪役令嬢の兄、というのが意外すぎる。
(どんな人なのか、正直想像がつかないのよね……悪役令嬢の父親も、ゲームのオーレヴィアも、ゲーム中で描かれるレインナイツの好きな人物像、『努力し続ける人』とはかけ離れてる。でも、彼が死んでいることが、ゲームでレインナイツがオーレヴィアを見限る大きなきっかけ、つまりはわたしの破滅フラグにつながるのよね!)
わたしは大きく3つ、これからの行動指針をノートに書き付ける。
・何よりも、オーレヴィアの兄、クリストを死なせない。
・セオフロスト王太子と婚約しない。
・ヒロインを虐めない。平民出身者の悪口を言わない。
(色々あって忘れそうになってるけど、わたし、王太子と無理矢理婚約してヒロインを虐めて破滅する悪役令嬢だからね!)
と、書き留めて気がついた。
(セイント王国の常識は、差別をするのが当たり前だから、公爵令嬢のわたしが平民の悪口を言わない、ってメモしてるのは、悲しいことだけど非常識で、『正さなきゃいけない』価値観だと思われかねないのよね……。このノートを読まれたら、ゲームのダークファンタジー具合から推定して……教育的指導と称して虐待されるのはまだ良い方で、最悪、気が狂っていると思われて。幽閉されるかも?!)
よくよく考えると、このノートには未来のことについても書いている。
(このままじゃ……わたし以外にこのノートを読まれたら破滅する前に幽閉されてしまう!)
「マリカ、このノート、誰にも読まれないようにしてくれる? それか、誰かがこのノートを読んだら分かるような仕掛け、できない?」
(こうなったら、困ったときのメイドさん頼み!)
「ええ、マリカにお任せを。少々お待ちください」
マリカはノートをリボンで十字にラッピングし、ちょうちょ結びに。
結び目の中央に溶かした蝋を垂らし、封印する。
「有能ね、マリカは」
封蝋とリボンでノートを封印するなんて、わたしは思いつかなかった。
わたしの言葉に、マリカは目頭を押さえる。
「オーレヴィア様が……またこのマリカを褒めてくださるなど、身に余る光栄です。本当に……成長なされたのだと思うと感慨深くて……すみません」
(ちょっとしたことで感動されると、web小説の世界に来た! 感があるわね……成長したというか中身が二十ウン歳のOLになってるからだからなんだけどね!)
「それはそうと、オーレヴィア様」
「マリカ?」
「明日の朝ご飯はクリスト様と当主様と一緒に食べますか?」
「ええ!」
と、わたしがマリカの答えに内心ガッツポーズしていると。
「オーレヴィア様、お兄様に会えるのがうれしいのですか? 目が輝いておりますわ」
「うん!」
(……これで破滅が回避できる! 何か方法が思いついたわけじゃないけど、オーレヴィアのお兄さんが生きているなら、まだ希望がある!)
「なら、晩ご飯を食べて、お風呂に入ってぐっすり寝ませんとね」
その後、わたしはマリカに色々と面倒を見られた後、深い眠りにつき――【ほめらぶ】の夢を見た。
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