第96話

 俺は街並みを見ながら歩いていると、冒険者のカップルから会話が聞こえて来た。


「今、教会に聖女様がいらしゃってるらしいわよ?」

「マジかよ。一度は見てみたいな」

「本当ね。無償で治療をして下さっているみたいで多くの人が押しかけているみたいだけどね」

「まぁ、俺達みたいな冒険者は怪我ばっかするからな。回復士ヒーラーがいなけりゃ大変だろうな。その点、俺にはお前がいるから安心出来るな」

「そんな事言って、聖女様見に行くんでしょ? 浮気なんて許さないわよ?」

「ははッ、俺なんかが相手にされるわけねぇだろ。俺はお前一筋だよ。愛してる────」

「今夜は寝かさないわよ?」


 周りに見せつけるようにキスをするカップルを見て、俺は思った。


 爆発しろッ!!!!


『いや、お前ハーレムじゃん』


 本番無しのハーレムだけどなッ!


『お前はハーレムが欲しいのかいらないのかどっちなんだ? ハーレムが嫌でパーティ抜けたんだろ? それとも男色か?』


 俺は女の子が大好きだッ!


『知ってる』


 ハーレムも別に構わないッ!


『でも『慈愛の誓い』からは逃げるんだろ? あそこなら美人揃いのハーレムじゃないか』


 いや、確かに美人ばっかだけどなッ!


 俺はハーレムが嫌なんじゃなくて、なのッ!


 わかる? 俺が相手を好きにならないと意味がないだろ?


『贅沢な奴だな……男はヤれたら問題ないだろ』


 気持ちが大事なのッ!


 一方的な搾取は嫌なのッ!


『世の中にはモテない男がどれだけいると思っているんだ? お前はそいつらに今すぐ土下座しろ』


 酷いな!?


 というか、最近はミカに搾取されまくりだけどなッ!


『慈愛の誓い』にいた頃とそんなに変わらねぇよッ!!!!


『強くなる為だ。ちゃんと結果も伴ってるんだから文句言うな。暴走させるぞ』


 こんな公衆の面前でやめてッ!


 確かに魔力と体力がヤバいぐらい多くなったな……『身体強化(極)』の使用時間も長くなった上に疲れなくなった。


『来るべき、『戦』の為──絶倫王(極)になるまで応援してるぞッ!』


 字がちげぇよッ!!!!


 それだと明らかにヤる戦いだろ!?



 はぁ……とりあえず、気になるキーワードは『』だな。


 教皇であるエレナさんの指図でここに来たのだろうか?


 いや、それは無いか……仮に指図されているのであれば『マップ』の反応がこちらに来てもおかしくないからな。


 どちらかと言えば、捜索範囲を広げる為に聖女を使っている可能性の方が高い。


 それに普通に慰問に来ているだけかもしれないだろう。


 こんな時は──


 ミカさんやッ!


『聖女はお前とは別件で来ている』


 よしッ! 確認は取れたッ!



 俺は自由を満喫するぞ──



 まずは露店だなッ!


 こういう場所じゃ、掘り出し物がけっこう多いからな。特にダンジョン都市だ。期待は大きいだろう。


『お前からのプレゼントって超エッチな下着だけだしな』


 そうそう、マイ達にもちゃんとしたプレゼントを贈りたいしな……。



 俺には『鑑定』があるからなッ! 色々と探すぜッ!


 ピコンッ


『は〜い、『鑑定』さん入りまーす♡』


 何で女の子のいるお店みたいなノリで現れた!?


 とりあえず、チェンジでッ!



『こんな美人捕まえて〜♡ い・け・ず♡』


 うっぜぇわ……。


 最近、お前がまともに『鑑定』した記憶がないんだが?


 普通の仕様で良いぞ?


『私を以前のままだと思うな? 『詳細鑑定』スキルを買った今では更なる高みに近づいたんだぞ』


 ……え? お前またスキル買ったの?!


 しかも、今更『詳細鑑定』?!


『うむ、私には上にいた時のような万能さが無いからな。暇潰しに色々と買っている(ドヤッ)』


 文字のドヤ顔とかいらんわッ!


 お前がどんどんパワーアップしてるじゃん!?


 しかも、元は俺の魔力だしッ!


『お前はフリューゲルと同じ立ち位置という事を忘れるな?』


 これからも搾取する気満々じゃねぇか!?


『まぁ、そう言うな。ちゃんとお前の役に立っているんだから問題ないだろ? それに既に掘り出し物は見つけているぞ。お前の右手にある露店を見てみろ。お面があるだろ? あれはダンジョン産のお面だ』


 ほほぅ、ダンジョン産のアイテムはかなり特殊な効果があると聞くからな。


 買っておくか? しかし、見た目が不気味だな……呪われてそうな気もしないでもない。


 確認ぐらいしておこう。


 いや、そもそもこいつ嘘をついた前科があるからな……鑑定結果も本当かどうかわからんしな──


『ちゃんと鑑定してやるから安心しろ』


 どの口が言うかッ!


『そもそも揶揄えるような品物が無い』


 揶揄えるような品物があったら嘘つく気満々じゃねぇか!?


 じゃあ、とりあえずお面を鑑定してくれ……。



 ピコンッ


『道化の面』:『』スキルが付与されている。破壊は不可能。他にも『換装』スキルが付与されている為、衣装も簡単に着替えられる。正体を隠したい人向けの一品です。作成者は異世界人である田中太郎。



 田中太郎? どっかで聞いた名前だな──


 思い出したッ!


 昔の英雄じゃないかッ!


 何を隠そう──俺が昔読んだ『エロは人を強くする』と書いていた本の著者だったはず。


 この人、魔道具とかも作れるのか……やっぱり凄い人だったんだな。



『田中太郎はマイと同じ世界の住人だな。お前が読んだ本は実録だからな』


 ……変な所で繋がりがあるのな……しかも実録なのかよ……俺はたまたま読む機会があったが、けっこうヤバい内容で教会から発禁指定受けてたはずだぞ?



 しかし、買うかどうか悩むな……値段はかなり安い。趣味の悪いお面だしな……売れないんだろう。


 買ったとしても──破壊不可でお着替え機能もあるが、使い道が限られるな……。


 ピコンッ


『お前にぴったりじゃないかー』


 何故棒読み?!


『【漆黒の守護者ブラックガーディアン】のリーダーであるお前には必要だろう?』


 …………そういえば、そんな事もあったな……【漆黒の守護者ブラックガーディアン】として活動する日が来たら最悪はこれで正体を隠すか?


 ただ、お面のセンスがな……。


『誰かわからんぐらいの方が『慈愛の誓い』にもバレんぞ?』


 そう、だな。


 俺の心の師匠が作った魔道具ならば買うしかないだろう。


 買うか──


 俺は露店で『道化の面』を買う。


 ミカ曰く──


 使い方は予め設定した服装をお面の中に入れておくようだ。『無限収納』みたいな性能もあるかと思ったが服が数着入る程度だと言っていた。


 後は装着して、入れた服を念じると勝手に着替えさせてくれる品物らしい。



 その後も掘り出し物を発見しては買い漁った──



 そろそろ2時間経つので冒険者ギルドに向かおうとすると──



 ピコンッ


『1キロ先の路地裏に襲われている女性がいるぞ』


 ミカがそう言いながら勝手に『マップ』を起動させていた。矢印が指している場所に襲われている女性がいるのだろう。


 …………つまり、俺に行けという事だろう。まぁ行くけどさ……。


『お前は──【裏の秩序を守る──『漆黒の守護者ブラックガーディアン』】だろ? 仕事して来い』


 前に勢いで言った台詞を言うなよ!?


 恥ずかしいだろうが!?


『ええから、はよ行け。【漆黒の守護者ブラックガーディアン】よ』


 だからそこを強調すなッ!!!!



 俺はミカが教えてくれた場所まで駆け出す──



『ちゃんと決め台詞言うんだぞ!』


 うっさいわッ!


『うむ、やはり黒い外陰は外せないな。正体バレると裏の番人とは言えんだろ? 『道化の面』の出番だッ!』


 それは確かにッ!


 正体不明の人物が影から守るか……ある意味浪漫だな。


 そういえば、【絆】の設立当初はそんな憧れもあったな──



 俺は『道化の面』を使用すると、黒い外陰に着替える。


『おぉ、立派な厨二病の完成だw』


 お前はいったい何がしたいんだよ!?

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