第95話

「やっと着いた……」


 やっと──


 ダンジョン都市『フリューゲル』に俺達は到着した。


 しばらくは地獄のような日々とおさらばだ。


 もう、二度とやりたくないな……。


 未だに幻覚に勝った事はないが、負ける事は無くなった。回避だけは断然上手くなった自信があるな……。


 攻撃出来たとしても仲間を攻撃するのは躊躇うからな。


『チキンが』


 うっさいッ!


『魔力枯渇させんぞ』


 俺には『気絶耐性』があるから、無様な姿は見れないぜ?


『あそこ暴走させんぞ』


 こんな人が大勢いる場所では勘弁して下さいッ!




 しかし、ここに来るのは久しぶりだ。


 正直あまり良い思い出はないけどな……。


 ダンジョンにもS〜Dのランクがあるのだが、『慈愛の誓い』と潜る時はSランクのダンジョンばかりだった。


 ずっと『気配遮断』と『隠密』を使って空気になって身を潜めていたな。



 そんな事を考えていると──


「「「壁が大きい」」」



 アリア以外は初めて来たのか外壁に驚いていた。



 さて、フリューゲルと言えば──


 強固な壁に囲まれた都市だ。


 これには理由がある。


 元々はフリューゲルという国だったが、ダンジョンの発生に伴い魔物が溢れ出して滅びかけた。


 そして当時、周辺諸国が軍を派遣してなんとか溢れ出した魔物を討伐した。


 ダンジョンは何故か死体が残らない。代わりに何かしらのアイテムや魔物の核である魔核を落としてくれる。


 この魔核の有用性は高く、魔道具や街の至る所に使われている。


 ダンジョンでは解体の必要が無いから冒険者も身の丈に合っていれば楽が出来る。


 何より、ドロップするアイテムが潜れば潜る程、高価な物が手に入れられる。


 諸国は安定した魔核の供給とドロップアイテムを目的に復興の援助と助けた見返りとしてダンジョンの利権を手に入れた。


 だが、時が経つに連れて諸国が国を乗っ取る為に動いて貴族は追い出され、今ではフリューゲルの王族と各国が派遣した特使が街を収めている。


 実際、国の運営は各国の特使と王の5人が多数決で行なっている。


 確か『五帝』と呼ばれていたはずだ。



 おっと、外壁が強固な理由だったな。


 この理由も簡単だ。


 ダンジョンは危険だ。溢れる危険性を考慮して外壁が強固にされている。


 魔物が自国に襲ってくる時間を稼ぐ為──ように作られているのだ。


 各国は何かあればフリューゲルを捨て石にして態勢を整える為に作られているって事だな。



 ──と、マイ、ティナ、ロッテに説明してやった。



「では、ここは国では無いのですか?」

「運営出来てるのが不思議」

「ここなら色々な薬の素材が見つかりそうです♪」


 マイ、ティナ、ロッテの順で感想を述べてきた。


 ロッテに怪しい薬を作らないよう後で念押しをしておこう。また犯罪奴隷に戻ったら今までの苦労が水の泡だし……。


「ん〜、一応国ではあるが──4か国の植民地みたいな感じで搾取されまくってるがな。運営は楽だと思うぞ? この都市に派遣されてるのは各国の王位を継げない王族とかだが、優秀な部下がいるから問題ない。むしろダンジョンがある分、他の街より裕福だろうな」


 初心者向けの低ランクダンジョンだと食料がドロップする。質は普通より良いから輸出で運営費を賄っていたはずだ。


「なんかフリューゲルの王族の末裔さんが可哀想ですね……」


 マイの言いたい事もわかるが、こればっかりはな……。


 確かに可哀想ではあるが、国を維持する為になりふり構わない姿勢は好きだけどな。


 国民あっての国だしな。


 それに王族の末裔とは会った事があるが、別に境遇とかは気にしてなかったな。


「それなりに強かにやってたから大丈夫だろ。とりあえず、宿屋に行くぞ」


「「「はーい」」」




 宿屋はこの間の報酬の一つとして──


 王族とかが泊まるような高級宿屋の最高ランクの部屋にした。



 その際に多数決で一部屋になったのは言うまでも無いだろう。


 俺は反対したんだぞ?


 だが──


「エル兄を1人で寝かせたら朝が


 と言われ、全員が頷いていたので何も言えなかった。


『絶倫』を制御出来ていると思っていたのだが、出来ているのは起きている間だけのようだ。


 だって、未だにパンツが朝になると代わっているし……。



 その後は散策する為に出掛けた──


 アリアは来た事があるようで、俺と同じく他の皆の反応を見て楽しんでいる。


 マイは「これぞ異世界ッ!」と言いながら目をキラキラさせている。


 ティナは屋台から流れてくる匂いに惹かれているようでクンクンと嗅いでいる。


 ロッテは薬の材料が売っている場所を見詰めながら「あれを使ってエル君に飲ませれば」とブツブツ言っている。



 まぁ、初めて来る街だ。自由行動でも構わないだろう。


「これから自由行動にしよう。まぁ、お前らに勝てる奴らなんか少ないと思うが一応言っておく。他の街よりも柄が悪いから気をつけるように。情報収集もしたいし、2時間後に冒険者ギルドで落ち合おう」


 俺はお小遣いを皆に渡す──



「むぅ、お子様扱い禁止。でもやる事あるから買い食いしながら行ってくる──」


 ティナは一瞬で移動した。


 ミカの幻覚よりも速い気がする……やる事ってなんだろ?



「エルク様、私は本部に連絡をする為に孤児院に向かいます。後程会いましょう」


「わかった。じゃあ、また後でな」


 アリアは【絆】の本部に連絡をするようだ。

 最近、『絶倫』の制御が出来なかったせいで街に長居出来なかったからな……定期報告が出来ていないのだろう。



「エル君──私は素材屋さんに行って来ますね!」


「買ってもいいが……変な薬を作るなよ?」


「エル君のあそこが暴走しないようにする薬ですよ? (最近は私達のテクでも中々出辛くなりましたからね……必ずやたくさん)」


「……そ、そうか。それは助かる」


 後半は声が小さくて聞こえなかったが、きっと俺の夢精をなんとかしてくれる薬を作ってくれるに違いない。


 俺からの許可が貰えたのが嬉しいのかルンルン気分で去って行った。


「マイはどうする? 行きたい所があったら行ってきていいんだぞ?」


「では、今から念の為にこの街の全ルートを調べ上げておきます。(あの精力では娼館に行かれてしまうかもしれませんしね。エッチなお店には絶対に行かせません)」


 後半は聞こえなかったが、マイはきっと何かが起こった時用に逃走ルートを確認しておきたいのかもしれないな。


 なんせ俺は追われている身だからな。


 抜かりはない──さすがはマイだ。


 ただ、口元を吊り上げながら走り去って行ったのが気になる所ではあるが……。



 さて、久しぶりに1人になったな……どうするかな……。


『特訓するか?』


 絶対嫌だッ!



 せっかく1人なんだし、食べ歩きでもするかな──

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