第94話
この間は酷い目に合った……。
マイ達にも醜態を晒してしまった……もうお婿に行けない……。
『あいつらが貰ってくれるから安心しろ』
安心出来るかッ!
影で何言われているかわからないだろ?!
『ナニか言われているだろうが、そんな事かなり前にわかっていた事だろうが』
……ナニか言われてるのかよ……最悪じゃん……。
『それより、『絶倫』の制御は問題なさそうだな』
まぁな……大事な物を無くした気がするがな。
今では誘惑されない限りは大丈夫だろう。
『まぁ、無くす物がない奴の方が強くなれるもんだ。気にせず戦闘訓練するぞ。まずはティナの幻影を脳に直接見せる。周りから見たら1人で訓練してるように見えるはずだが問題あるまい』
つまり、幻覚を見せるわけか……そんな事も可能なんだな……。
『幻影魔法』すごいな……戦闘で使えたら戦術の幅が広がる。
『この方法はお前にはまだまだ無理だな。直接、脳に見せるにはかなりの熟練度が必要だ。人は目から情報を仕入れて脳内で認識する。これは催眠とかの手法に近い。個人に集中して使うのがコツだが、お前にはまだ早い。とりあえず、今は幻影をよりリアルに近付ける訓練をした方が良いだろう』
何言ってんのかさっぱりわからんが、リアリティを出すのはわかった。
『説明するだけ無駄だな。とりあえず訓練するぞー』
目の前にティナが現れ、俺に向かって見えない速度で攻撃してきた──
これはやべぇ──本物のティナの動きだ。
俺はかろうじて、おっぱいセンサーと腰の捻りを活かした動きで回避する。
首に痛みが走る。
首に触れると血が出ていた。
…………ミカさぁぁぁぁんッ!
痛みはまだわかるッ!
でも、何で血が出てんのさ?!
あれか!? 『魔力具現化操作』使ったのか?!
『今回は魔力をティナの形にしているからな。当然、致命傷を受ければ死ぬ。それなりに手加減はしてやるが、油断するなよ』
お前、馬鹿だろ?! そういうのもっと早く言えよッ!!!!
『ほれ、次行くぞー。ちなみに『幻影魔法』は効果が無いから物理でなんとかしろ』
俺の持ち味活かせないとか酷くね?!
俺は『身体強化(極)』で全身を強化する。
更に部分強化を足に施し、『血相術』で足の血の巡りを活性化させる。
これならティナの速度に追いつけるはず──
ティナの幻影は息を吐く暇も無く攻撃を続ける──
ヤバい……これがティナの全力かよ……避けるので精一杯なんだが。
幸いなのは、魔力量がかなり増えたお陰で直ぐにバテない事ぐらいだろう。
攻撃するにしても『朧』は効果が薄い。
このままではジリ貧だ。
この訓練には俺の地力を上げる為というミカの意図があるはずだ。
魔物の大半には『幻影魔法』が通用しない。通用しないというのは語弊があるな……効果が薄い。
フリューゲルに到着すればダンジョンに潜る事になる。
ミカは対人特化の俺をここで高ランクの魔物に通用する為に鍛えてくれているのだろう。
決して、暇潰しではないはずだ! たぶん。
『おい、避けてばっかだとつまらんだろ。次はアリア出すぞー』
目の前にアリアの幻覚が現れる。
はぁ?! 2人同時に相手にすんの?!
『そりゃ、訓練だからな。一応、現時点での強さに設定している』
──いきなり背後に気配が?!
俺は咄嗟にアリアから距離を取るが、即座にティナの攻撃が迫る。
なんとか紙一重で避けるが、避け続けるのは無理だろう。
これで現段階での強さか……厄介極まりないな。
早急に対応策を用意しないと──
アリアの加護って何だよ?!
『これから未知の相手をする時の為に観察力も磨け。魔物にも上位になればスキルと似た力──『カース』があるからな』
お前の言い方だと、そんな魔物を相手にする事が確定のように聞こえてくるんだが?!
今はとりあえず、アリアをなんとかしなければ──
アリアの戦い方は独特だ。いつも立ち位置に気をつけている節がある。そして死角からの一撃がほとんどだ。
ちッ、──また背後か!?
一瞬で距離を詰められるのは心臓に悪いな。
転移系の加護か魔術か?
魔術にしては発動が早すぎる。転移系の加護の可能性が高いか?
ちッ、今度は横か?! 反対からティナも?!
くそッ、避け切れん。アリアよりもティナの方が直線的で攻撃が受けやすい。
ティナの攻撃がかすった。
覚醒した力がなかったらとっくにやられてる。
『おいおい、対人戦特化のエルク君──君の力はこの程度かい? 私の操った1号なら余裕で打破できるぞ?』
ミカの操った1号は正直──
俺の想像を超えていた。
全てのスキルを効率良く使い、一切無駄がなかった。
特に『魔力具現化操作』の使い方が絶妙に上手かった。
俺にも出来るはずだ。
魔力を使いこなせ──
まずはアリアからだ。なんとか対処しなければならん。
自分を中心にして円状に魔力を放出する──
ミカの操った1号は魔力を広げて気配を察知していた気がする。
つまり、これに触れれば現れた瞬間にどこにいるかわかるはずだ。
──下?!
何故下?!
視線を移すと──
アリアの幻覚は影から出てくる。
つまり、影の中を移動する加護という事だ。
これなら影さえ注意していれば問題ない。
だけどなッ!
ティナとアリアのダブル攻撃を凌ぎながら反撃なんか出来るかッ!!!!
しかも避け切れねぇよッ!
『しぶとい。更に追加&トドメだ』
マイの幻覚が現れた──
既に魔力を練り込んでいる。
間違いなく、マイの必殺技である『
俺はティナとアリアの相手で精一杯だ。
「なッ?! 影が俺を!?」
アリアの影は自由に操れるようで、ここに来て俺を捕縛して動けなくする。
アリアとティナは即座に動けない俺に向かって突き刺して来た。
俺は致命傷を避けて攻撃を受け──
アリアの影のように『魔力具現化操作』で2人に魔力を絡ませて捕縛する──
これで2人は動けないはずだ。
マイを見ると既に攻撃を放とうとしている所だった。
今から回避は無理だな。
仕方ない──
奥の手だ。
俺は魔力を練り込む──
マイの『
「──俺の最大の防御──肉盾を召喚ッ! 1号、2号ッ! せめて軌道をそらせッ!」
1号と2号を俺の前方に出す。
「「はぁ?! ふざけんなッ!? ぐあぁぁぁぁぁっ──」」
俺はな……小さい男なんだ……。
この前裏切った件は忘れてないからな?
お前らなら消えても復活するから安心して使えるわ。
本体を守る──それがお前らの使命だッ!
1号と2号は俺の前で消し炭になりながらも『魔力具現化操作』でマイの攻撃をそらす──
だが、威力が強すぎて完全にそらす事は叶わず、俺の方に向かってくる。
耐えるしかねぇ──『根性』と『不屈』を発動する──
「──いってぇなッ!」
俺の片腕では消し飛ぶ。
訓練にしてはやり過ぎだろッ!
『お前、鬼だな。まさかここで自我のある分身体を肉壁にするとは……』
アホかッ! あんなもんどうやっても防げる気がしねぇよッ!!!!
『いや、そこは『魔力具現化操作』で高密度の魔力盾を作ってそらすなり、『血相術』を全力で使えば影ぐらい振り解けただろうに……やれやれ、まだまだだな……』
そんな事考える余裕もないぐらいの攻め具合だったんですけど?!
死ぬかと思ったわッ!!!!
『まぁ、さすがに当たると思ったら解除してたぞ? 今回、お前が畜生だという事がわかったな』
だからそういうのはやる前に言えよなッ!
『まぁ、それ以上騒ぐと本当に死ぬからお前の魔力で換金して買った『再生』スキル使うぞ────』
俺の消し飛んだ右腕は逆再生するように元通りになる。
…………お前さ……俺の魔力でスキル買いすぎじゃね?
『お前の為に買っているんだから、別に構わんだろ。さて、残りの魔力を回収するぞ〜』
いや、意識飛ぶから勘弁してくれよ!?
『魔物はいないし大丈夫だぞ。それに魔力を枯渇させるのも魔力を増やす訓練の一つだ。甘んじて受け入れろ。その後は無理矢理出してやるから安心しとけ』
安心出来るかぁァァァァッ──
そこで俺の意識は途絶えた。
次の日、半月間チャージしまくった【
きっと神様が俺を不憫に思ったに違いない────
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