第88話

 ピコン


『宰相が逃げ出したぞ。捕まえるか殺せ』


 宰相? あぁ、王城で襲ってきた奴か。


 何か問題でもあるのか?


 脅されていただけじゃねぇの?


 しかも殺せって……国の重鎮殺して問題ねぇのか?


『お前がお盛んな間に調べていたが、どうやら宰相が薬を買い占めていた元締めだ。足がつかないように派閥の貴族を使って売り払わせていたようだな』


 国民に薬を回さずに自分だけ甘い汁を吸っていたのか……。


 それだけで殺して良い理由にならないだろ。指名手配とか嫌なんだが?


『例の敵国と繋がっていた事がわかって死刑が決まっていたから逃亡したみたいだな。宰相が王になれるように支援してやると唆されていたようだな』


 救えねぇな。国民を見殺しにした奴が王になって国を復興出来ると本気で思ってたのか?


 これだから貴族は好かん。


『他にもあるぞ? 買い占めた薬で貴族に恩を売り、他の国や街に手配していた薬を国民に配って英雄になる予定だったようだ。そして、ロッテを【深淵】引き渡して終わりにする計画だった』


 糞だな。


 ──どこにいる?


『ちょうどこちらに向かって来ている。そのまま対処しろ。もうすぐ謁見が始まるからタイミング的にも良いはずだ』


 そうか、謁見が今日なのか。


 また【深淵】を差し向けられたら面倒臭いし対処しておくか。


『一応、伝えておく。宰相の護衛には冒険者ランクで言えばAランク相当が1人、Bランク相当が3人いる。のをお勧めする』


 ……【深淵】や『慈愛の誓い』よりマシだな。


 今後、逆恨みとかされて暗殺者でも放たれても嫌だし──


 ぐらいしておくか。


 Bランク相当なら過去にいくらでも暗殺しているから大丈夫なはずだ。


 Aランク相当は厳しいかもしれないが、最悪ミゼリーさんが助けてくれる事を祈ろう。



「エル?」

「ん、あぁ、ミゼリーさんどうしました?」

「怒ってる?」

「えぇ、少しね」


 普段あんまり怒らないから直ぐバレるんだよな……。


「私のせい?」

「違いますよ。今回、国を滅ぼそうとした黒幕の1人がこっちに来るのでこれから始末します」

「そう、何があったかわからないけど、エルが怒るなんて滅多にない。好きなようにやれば良い。手助けいる?」

「いえ、俺1人でなんとかします。危なくなったら助けて下さい」

「わかった」


 ミゼリーさんの保険を手に入れた俺は覚悟を決める。



 しばらくすると宰相が乗った馬車がやってきた。


 俺は馬車の真ん前に仁王立ちする──


 ような事はしない。


 俺は真っ向勝負するタイプじゃないからな。


 20人か……Aランク相当は馬車の中っぽいな。


 宰相の手駒だし、殺しても問題ないだろう。



 俺は『幻影魔法』『隠密』『気配遮断』『身体強化(極)』を使う──


 そして足に部分強化──



 久しぶりにスイッチ入れるか──


 まずは雑魚だ──


 俺は姿を消した状態で一気に駆け出して兵士達の首を刈り取って行く──



「な、何が?! ──ぎゃッ」

「何だ?! ──敵──ひぎゃッ」


「敵襲ッ!!!!」


 勘の鋭い奴に気付かれたが、俺の姿は捉えられる事なく馬車を守る兵士達を殲滅すると──


 馬車から1人の男が降りてくる。


 こいつがAランク相当の奴か。なんか見た事あるな……そういえば、騎士団長じゃなかったか?


 この国のパーティに参加した時にいた気がする……まぁ、宰相側にいるし殺せばいいだろ。



 俺は先程と同じように背後から首を刎ねるように剣を振るうが──


「──そこか。中々の猛者だな」


 ──簡単に防がれる。


 やはりAランク相当は勘が鋭いな。


 以前にもAランク相当の奴らを暗殺した事があるが、手こずった記憶がある。


 このまま姿を消したまま戦えば勝てるだろう。


 だが、俺はミゼリーさんに勝った男だ。


『勝ったのはエッチだけだろ』


 うっさいッ! ちゃんと【深淵】も退けたわッ!


 俺は以前より強くなっている。


 これは間違いない。


 エクストラスキルである『絶倫王』は戦闘に応用出来る。


 性能を確かめる良い機会だろう。



 俺は正々堂々勝負する為に姿を現す──


「何者だ──?! お前は『先見』?! 何故ここに?!」


 あれ? 何でバレてるの?


『お前の激しい情事で髪の毛の色を変える魔道具が外れたんだろ』


 まぁ、いいか。バレた所でどうせ殺すしな。


「さぁ何でだろうな? とりあえず、戦おうぜ? お前なら良い実験台になる」


『身体強化(極)』と部分強化を駆使すれば互角以上の戦いが出来るのはカインとの戦闘でわかっている。


 ここから更に『身体操作』を使う。


 俺は血流を全身に巡らせる──



 なるほど……かなり力が漲ってくるな。


 ただ、凄く胸が苦しいんだが?



 ピコンッ


『あんまり使い過ぎると死ぬから、程々にしとけよ? 心臓への負担が半端ないからな。全身なら5分程度が限界だな』


 なるほど、今度からは手足だけとかにするか。



「その紅い目は何だ?! お前は吸血鬼だったのか?! 気持ち悪い」


 へ?


 俺って今、どうなってんの??


『目が真っ赤に充血していて、全身の血管が浮かび上がっているから──見た目が悪役そのまんまだな』


 マジか……まぁ、いいか。


 この技は『血相術』とでも名付けるか。


『厨二病乙w』


 ミカが俺を馬鹿にしてるのはわかるッ!



「とりあえず、さっさとやろうぜ」


「舐めるなよッ!? 俺は騎士団を束ねる騎士団長だぞ? 簡単にはやられん──行くぞッ!!!!」


 袈裟懸けに斬りかかってくるが、俺は簡単に弾き返す。


 ……なんだろ?


 騎士団長と呼ばれるぐらいだし、ミカもAランク相当と言っていたはずなんだが──


 普通に対処出来そうだな。


『身体操作』は血流を巡らせるだけでかなり身体能力が上がるっぽいな。そこに『身体強化(極)』で更に強化させるとかなり動きが良い気がする。


 さて、の披露をするか──


「次は俺の番ね? ──『朧:【乱】』──」


 今回の『朧』の『幻影魔法』は適当にしている為、痛みは出ない。


 だが──


「──?! 幻か!? ──な、何だこれは?! 幻じゃないだと?!」


 騎士団長は


 この『朧:【乱】』は幻の剣戟には『魔力具現化操作』でに変えて混ぜながら攻撃している。


 これは『傀儡』のリリーから着想を得た。魔力の糸が攻撃に使えるなら魔力の刃でも可能のはずだと。


 しかし、幻と魔力刃を把握して全てを弾き飛ばすとは恐れ入る。


 だが、これの凄い所は


 しばらくすると、騎士団長は捌き切れなくなり、傷を負って行く──


 良く耐えるな……俺なら普通に死んでる……。


『朧:【乱】』の発動を止める──


「はぁ、はぁ、はぁ……殺すッ!」


 騎士団長殿は全身から血を噴き出していた。


「──そろそろ死んでくれ」


 俺は距離を取りながら構える──


「そんな離れた所から攻撃した所で全て弾き飛ばしてくれるわッ!!!」


「──『朧:【突】』──」


 俺は剣先に魔力を集めてと──


「──あがッ────」


 心臓を貫く。


 騎士団長は何が起こったのかわからないという顔をしていた。


「中々強かったよ」


『魔力具現化操作』を解いて一度は言ってみたかった言葉を告げると騎士団長は前のめりに倒れる。


 これは『病魔』カインの戦闘で苦しめられた攻撃方法だ。


 初見殺しではあるが、応用も効く新技だな。


 この短期間で凄く大変だったが、無駄な事は一つも無いな……。


 ミカもそう思うだろ?


『そうだな……に考えた技にしてはまとも過ぎてドン引きだがな……』


 仕方ねぇだろ?!


 自分を落ち着かせる為に色々考えてたんだよッ!



 まぁ、カインとの戦闘はまぐれではなかった。


 これで俺にAランク相当の強さがあるのは確定だな。




「き、貴様、だ、誰を襲っているのかわかっているんだろうな!? 俺は宰相だぞ!? お前はいったい何者だ?!」


 さて、後は馬車から降りて来た宰相の始末だけだな。


 こいつは俺のことを『先見』とはわからないんだな。それともパニックになってるからか?


 まぁ、どうでもいいや。さっさと殺そう。


 だけど、一回名乗ってみたかったんだよな……。


「俺は──裏の秩序を守る──漆黒の守護者ブラックガーディアンだ────」


 俺は『幻影魔法』で髪の毛の色を紅色から偽装用の黒色に戻し──


 宰相の首を落とす────



 うん、中々格好良いネーミングではなかろうか?



「エル格好良いッ! 私もそれになるッ!」

「え?」


 ミゼリーさんのそんな声が聞こえてきた──

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