第82話
マイの必殺技は俺とリリーの間を素通りして、壁に当たると凄まじい爆発音と共に壁を貫通していった。
あまりの速さに反応が出来なかった。
「「……」」
俺とリリーは沈黙する。
いやいやいやいや、あんなの当たったら死ぬじゃんッ!
ミンチだよ、ミンチッ!
「コツは掴みました。弾丸は──その辺の鉄屑でも大丈夫でしょう。次は外しませんよ────」
マイさん?! まだ撃つの!?
「ダーリンッ! リリーちゃんを助けてッ!」
こいつ何言ってやがんだよ!?
ダーリンじゃねぇよッ!
それに俺を盾にするんじゃねぇよッ!
確かに脅威的な速度と破壊力だ。死を予感させてもおかしくない。
──マイ、俺がいる事わかってるよな!?
撃たないよな??
『奴隷紋があるから本来は撃てない。ただ抜け道がある』
抜け道?
『奴隷紋にはバグがあってな……救出が目的で敵に照準を当てていれば主が近くにいても奴隷紋が発動しない。まぁお前を殺せばマイも死ぬがな』
なにその仕様!?
それでさっき普通に攻撃が来たのか!?
死ぬじゃん! 俺とマイが死ぬじゃん!
矢に風魔術を付与させて速度を上げるやり方があるが──これは今まで見たどの魔術より異質過ぎる。
こんなもの避け切れる気がしない。
良し、撃つのをやめさせよう──
「マイ──なッ?!」
マイを制止させる為に声をかけようとすると──
地面に磔にされる。
何が起こった?!
これは──『重力魔術』か?!
『しまった──私とした事が……気が付かないとは』
辛うじて顔を上げて周りを見るとリリー以外が地面に磔にされている。
フードを纏った人が歩いてきているのが見えた。
こいつが術者か──
ミカの文字から察するに──【深淵】の増援か?!
【深淵】にも『重力魔術』の使い手がいるとは──
『違う。もっと厄介な相手だ』
厄介?
【深淵】より厄介な相手という事か? 重力魔術?
まさか──
「──エル発見」
この声──
「……ミゼリーさん?」
俺が名前を呼ぶとフードを上げ顔を見せた。
そこには『慈愛の誓い』の一員である『殲滅』のミゼリーさんがいた。
どどどどどどどどど、どうしよッ?!
ミカッ! どういう事だよ!? 何でここにミゼリーさんがいるんだよ!?
本番してないぞッ!!!! 我慢しまくったのにこれはないだろ!?
どうしてこうなった!?
『……マイに渡したミスリルの魔剣はミゼリー作だからだな……感知されたっぽいな。『慈愛の誓い』の装備は探知出来る仕様みたいだ。失念していた』
──まさかの自滅?!
「貴女誰? 私の夫に何か用?」
リリーはミゼリーさんに声をかける。
お前、相手が誰かわかってんのか?! 死ぬぞ!?
いや、こいつには『魔力分解』がある。魔術師であるミゼリーさんの天敵みたいなものだ。
ここは流れに任せよう。そして、残った方次第で考えよう。
「夫? 誰が?」
ミゼリーさん冷淡に返しながら、更に魔力を込めて『重力魔術』を使う──
グハッ、痛みに強い俺でもこれはキツい。
それに怖いッ! 威圧に殺気だけじゃなくて、魔力も上乗せされていて息苦しい……。
マイとティナは無事なのか?
『気を失ったが、生きている。今はそんな事より、自分の心配をしろ』
生きているなら良い。
心配しろって言われても、見つかった以上はどうにもならんだろうに……それこそリリーに頑張ってもらうしかない。
リリーが残ればなんとかなるッ!
「──リリーちゃんには魔術なんか効かないんだからね♪」
その意気だッ!
「なるほど……無効化する加護か魔道具か……──でもそれが何?」
俺達にかけていた重力魔術はリリーに集中して使ったようで重さを感じなくなった。
「──なッ?! 防ぎ切れない?! やられるかッ! お前もリリーちゃんの操り人形になれッ!」
リリーは糸を大量に放出する──
「無駄」
ミゼリーさんは『重力魔術』を使いながら『風魔術』で糸を全て切断する。
リリーは全身が切り刻まれて血塗れだ。
対するミゼリーさんは余裕しかない。
さっき行った魔術の同時行使──
これは才能と努力がなければ成し得ないとされている技術だ。
ミゼリーさんは俺の知る限り──世界一の魔術師。
その力は大賢者様に並ぶと噂されるぐらいだ。
一度、魔術を放てば──
山に穴が空き、海は凍り、大地は裂ける。
その場には草木さえ残らない。
それが『殲滅』のミゼリー。
「化け物……」
【深淵】に化け物と呼ばれるミゼリーさん。
リリーの旗色が悪いな……。
この間に逃げろと思うだろ?
これが無駄なんだよな……。
むしろ、ヘイトがこっちに来たら困る。
ここは様子見だなッ!
「その加護は確かに厄介……でも、どんな加護にも魔道具にも無効化出来る限界と有効範囲がある。もう貴女の限界値と範囲はわかった。心置きなく──死ね」
ミゼリーさんは両手を前に出して構える──
──不味い。
これは城が消滅する──というか、俺達も消滅する! ミゼリーさん激おこだよ!?
ちなみにミゼリーさんが使おうとしている魔術は昔に俺が軽い気持ちで「ドラゴンのブレスって魔法で再現出来ないんだろうか?」と言ったせいで創った魔術だ。
その名も──
『
これの威力はドラゴンのブレスを軽く超えている。
マイの『
ミゼリーさんの『
被害が半端ない魔術なのだ。
リリーは震えている。
もはや心は折れているだろう。
かく言う俺も心が今折れた。
「ダーリンッ! 絶対また迎えに来るからねッ────」
「え?」
リリーは目の前から消えた。
まさか逃げたのか?
マジかよッ!
ここはもうミカに頼るしかな──
ミカの事だ──何か策ぐらいあるよな!?
あるって言ってくれよ! 頼むッ!
『そこのリリーとやらに負けた時用の策があるじゃないか』
……それは諦めると同義語なんだが?
『頑張れ』
何をどう頑張るんだよ!?
『頑張るのは絶倫王としての務めだな。消耗したお前では話にならん。やったな。ついに、ざまぁが出来るじゃないか……たぶん』
戦闘は負けるの確定かよッ! まぁ、もう限界だから戦えないけどなッ!
『お前の欲求不満をぶつける良い機会だろ。全力でヤれ』
確かに今の俺は『慈愛の誓い』を抜ける前よりも性欲がヤバい。
ミゼリーさんは薬が無ければ最弱──なんとかなるか?
俺は起き上がり、ミゼリーさんに向き合う──
「会いたかった……凄く会いたかった……連れて帰る──『
まさか眠らせて連れ帰るつもりか!?
「あれ?」
眠らない?
『スキル『健康』の恩恵だな。状態異常耐性が高いのと、お前は特に睡眠耐性が凄く高いしな』
睡眠耐性だけ高いの??
何で?
『そりゃー、ほぼ毎晩使われてるからな……』
マジかよ……何で使われてるのかは無事に危機を乗り切ったら確認するとして──
とりあえず、これで時間は稼げるな。
「強めに魔術をかけているのに効かない?」
「俺はもう、前の俺ではないですからね。ミゼリーさんはどうしても俺を連れ帰るつもりですか?」
「当然」
「じゃあ──賭けをしませんか?」
俺はまだ諦めない──
こんな所で諦めてたまるかッ!
必ず、自由を掴み取る──
たぶん!
【おまけ】
マイ「ロッテさんが解放されたら──入れずに擦り付けて擬似体験してみませんか?」
アリア「それは名案ですね。そろそろ私も欲求不満になってきた所です。あそこで擦り付けながらエルク様に抱きついたら最高ですね」
ティナ「交尾の練習する」
ロッテ「その為には強力な睡眠薬が必要ですね。使っておきます。しかし、またがって胸を押しつけたらもっと気持ちいいかとしれませんね。たまにエル君は赤ちゃんみたいに吸ってくれますから」
マイ「では──『エルク様を気持ち良くさせて、私達も気持ち良くなろう作戦』のヤる事を決めましょうッ!」
『中々面白そうな事をするみたいだな。最近、睡眠の耐性が強いから、これからは夜だけ『健康』スキルは勝手に解除しておくか』
という、やり取りが王城に向かう前日にあったりなかったり……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます