第79話

 良し、戦闘中の2人の近くまでやってこれたな。


 俺が介入して、2対1なら隙を作ってマイに繋げられる。


 キンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッ


 息をする暇もない激しい攻防が繰り広げられている。


 ……介入──出来るのか?


 そもそもこんなの割り込めねぇよッ!!!!


 前に戦った時と天と地ほどの差があるぞ!?


 俺よりアリアに来て貰えば良かった……。リリーに増援が来たら操られてやっかいだから地下牢の入り口で見張り頼んだんだけど失敗だったかな。


『はよう行け』


 死ねと申すか!?


『ティナの体力は限界だ。それに比べて敵は魔力の続く限り動き続けられる。お前が行かんとやられるぞ?』


 確かにティナは息切れしている。


 ティナがリリーの前方にいる今なら、背後からいけるか?


 すぅー


 俺は息を吸い込みリリーの背後から攻撃する──


 ──『朧』ッ!


「──消えない?! まさか本物?! というか気配がわからない?!」


 リリーはそんな事を言いながらも大きく飛び去って『朧』を回避する。


「エル兄ッ?!」


「おぅ、エル兄だ。2人で倒すぞ」


「うん」


 実際倒すのはマイだがな。溜めに15分はかかると言っていたからなんとか時間稼ぎしなければ。


「──やっと現れた♪ 髪の色が違うけど『蜃気楼』だよね? 久しぶり♪」


「久しぶりだな。カインは撤退したぞ?」


「知ってる♪ カイちゃんからの連絡で『蜃気楼』がいるって聞いてたからお人形遊びして待ってた♪」


「待ってた?」


「うん♪ 約束守ってもらう♪」


「約束?」


「次に私が勝ったらしてくれるって言ってた♪」


 …………そんな事言ったっけ?


『お前、女なら誰でもいいのか? クズだな』


 いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。俺には覚えがないッ!


 マイとティナの目が怖いぞ!?


「そんな約束はしてないぞ」


「……忘れちゃったんだ……私が次に勝ったら結婚してくれるって言ってたのに……」


 泣き出すリリー。


 心が痛い……ティナからの視線も痛い……。


 だが、そんな約束してないんだが……。


 そういえばティナの時もあんまり覚えてなかったな……。


『お前の記憶力カスだな』


 ……いや、待て今思い出すから。


 これはそんなに昔の事ではない。ここ1年以内の出来事だったはずだ。


 思い出せ──



 戦った時の事を──



 あれは確か、俺が『慈愛の誓い』に入って間もない頃だった。


 任務と夜の義務に殺されそうだったので長期休暇を貰った時だったはず。


 この時に、とある国の凶悪犯罪者が集団で脱獄するという事件があった。


 俺は【絆】──いや、フランの救援要請に応えた。


 その結果──


『傀儡』のリリーと戦う事になった。


 リリーとは初期のラウンズ達と一緒に相対したはずだ。


 その時にリリーから──


「お兄ちゃんが『蜃気楼』? 仲間にならない? 今回の目的は『蜃気楼』のなんだ〜」


 と言われた記憶がある。


 どうやら俺がこそこそ裏で暗殺してたために噂が広まっていたらしい。引き抜きの為に炙り出された感じだったはずだ。


 俺は当然断った。


 すると──


「じゃあ、無理矢理連れて行くね♪ お人形さん達よろしく♪」


 リリーは脱獄させた犯罪者を操って俺達に襲いかかった。


 俺を含めたラウンズ全員で苦戦したが、俺の活躍によりなんとか殲滅する事が出来た。


 まぁ、俺がやったのは『幻影魔法』、『気配遮断』、『隠密』で背後から殺したぐらいだな……。



 術者本人は特にそこまで強くはなかった。


 それは俺がリリーを簡単に背後から捕まえられたからだ。


 リリーは操る事でその人の秘められた力を解放出来るし、加護がわかっていれば発動も出来ると言っていた。


 何故知っているのか?


 時にご丁寧に説明してくれたからだ。


 だが、悲しいかな……俺ってそんなに強くないから駒にすらならなかった。


「俺を倒して、『傀儡』を倒せッ!」と格好つけて皆に言ったら──


 普通にエヴァにぶん殴られて無力化された。


 リリーはこの時「『蜃気楼』の本気がこんなに弱いはずがない!? まさか──私の力に抵抗している?!」とか言っていたな……。


 問題はここからだ。


 この時、フランもいたのだが──


「エルは私達を傷付けない為にわざとやられてくれました。こんな事をさせた敵に報いをッ! さぁ──


 ──と鬼の形相をしながら告げた。


 この後の戦闘は本当にヤバかった。


 ラウンズ達の限界を超えた戦闘は想像以上だった。


 リリーはようで、討伐ランクAの魔物を呼び出して応戦したのだ。


 討伐ランクAの魔物はAランクパーティ相当の強さだ。つまり1人で倒せるという事はSランク相当の強さという事になる。


 それをラウンズ達は1人で1体を仕留めていた。


 ぶっちゃけると、リリーの事を少ししか覚えていなかったのは──


【絆】側の方がヤバすぎて印象が消えていたからだろう。


 確か、なす術なく追い詰められたリリーは逃亡したんだったな……その時に何か言っていた気がするが──意識が朦朧としていたので覚えていない。


 確かその後に意識を失った気がする……。


 可能性としては逃亡の時の台詞が結婚の約束だったのだろうか?


 しかし、当然ながら返事はしていないから無効だろう。


 ちなみに余談だが──


 目が覚めたらフランとエヴァが裸で抱きついて寝ていた記憶がある。


 この時はまだ魔契約されてなかった事もあり、2人を抱いたな……。


 特にエヴァは俺を殴った罪悪感から「ごめんなさい……好きにしていいので許して下さい……」と涙を浮かべながら言われて抱いた時はロリコンになったかと思ったぐらい興奮したな……。


 更に余談だが──


『慈愛の誓い』のメンバーが中々帰って来ない俺を捕まえに来たんだが──この時に追跡用のネックレスを渡された記憶がある。



 さて、今はそんな事よりもリリーの事だな。


「……結婚の約束なんかしていないぞ? そもそもお前が俺に惚れる要素がどこにあるよ!?」


「『次に私が勝ったら結婚しよう』って言ったら頷いてくれたもん! 私の加護に抵抗する人なんて今までいなかったもん! 絶対運命の人だもん!」


 ……それって俺が意識を失って首を縦に振ったように見えただけじゃね?


 しかも、抵抗した事になってるけど──地力が大した事ないから強化されても強くなれなかっただけだぞ?


『弄ぶとはこの事か……』


 いや、言い方ッ!


 俺、別に弄んでないしッ!


 向こうが勘違いしてるだけじゃん!



 これ負けたら──


 お持ち帰りされるんじゃね?

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