第76話

 ◆──マイ視点──



「2人とも──地下に行くぞ。これはからの指示だ」


 分身1号が私にそう言います。


 本体──つまりエルク様からの指示という事になります。


「ん」

「わかりました。向かいます。エルク様はどうなってますか?」


「ん? あぁ、謁見の間で囲まれてるぞ? もうすぐ戦闘だろうな」


「向こうは元から褒賞を渡す気はなかったのですか?」


「んー、そうだな……普通なら褒賞の交渉をするはずなんだが──【】が暗躍している。そのせいで王が不在のまま物事が決まっているようだな」


「「──王が不在?!」」


「そうだ。おそらく、どこかで監禁されているはずだ。だから俺達は王を救出する。さっきまでいそうな場所は他の分身体に探させていたが──見つからなかった。残る場所は地下牢のみだ」


「な、なるほど……エルク様はそこまで読んで別行動を……」

「さすがエル兄」


「ま、まぁな……王城だけあって探知の妨害があって探しにくいが、間違いなく地下牢にいるだろう。強敵もいるはずだから気を抜かないようにな?」


 私とティナちゃんは頷く。



 今日は褒賞を貰う為に来ただけだと思っていました。


 今回、エルク様の分身体と行動するなら許可をすると言われました。


 つまり、最初から王様を救出する為に影で動く予定だったという事になります。


 エルク様はどれだけ先を見据えて行動されているのでしょうか?


 まさか、乗っ取られた国を救う為に動いているなんて思いもしませんでしたッ!


 さすがはエルク様ですッ!


 今の私達では足手まといになってしまいます。また置いていかれないように役に立たないとダメですね。


 1号は【深淵】がいると言っていました。


 あのエルク様でも手こずるぐらいに【深淵】は強いとアリアさんから聞いています。


 ここで実力を示せば、きっと足手まといじゃないと証明出来るはずです。


 そんな事を考えている間に難なく地下牢に到着します。


「全員止まれ」


 1号がそう命令し、私達は止まります。


 目の前には王様らしき男性が気を失った状態で鎖に繋がれており──


「つまんないなー。早く【絆】来ないかな〜。上はもう始まったからそろそろ来るはずなんだけどな〜」


 10歳ぐらいの女の子がその男の前で退屈そうに床にお絵描きをしていました。


 その近くには5人の男が正座しています。仲間でしょうか?


 でも、言葉から察するに──【絆】を狙っている?


「ちッ、こりゃー不味いな。『傀儡』のリリーがいやがる」


 1号の表情は固い。


「傀儡? 操る加護でも持っているんですか?」


「そうだ。【深淵】では珍しく本人の戦闘力は低いが──ラウンズに匹敵する程の戦闘力を他人を操ることで発揮する。過去に一度だけ【絆】と【深淵】はぶつかった時があったんだが──こいつには相当手を焼いた記憶がある。あの時、ラウンズが揃っていなかったら被害が甚大だっただろう……見た目に騙されるなよ? あの近くにいる奴らも駒として使うだろう」


「……勝算はあるのですか?」


「──こちらにはティナがいる。急襲で速攻仕留めれば行けるかもしれん。頼めるか?」


「ん。任せて」


「ティナ──。わかったな?」


「心外……必ず一撃で仕留める」


 ティナちゃんは1号の言葉に不服そうだった。


 ティナちゃんの速さで急襲されたら対応なんて出来ないはず……だけど1号の言い方だと防がれる事を前提に話している。


「ティナはそれで良い。だが、最悪回避する事は頭の片隅に置いておいてくれ。俺と2号はもしもの時の為に近くで控えておく。マイは魔法で援護だ」


「わかりました」


 私が返事すると同時に2号は気配を消して駆け出します。


 私も魔力を込めていつでも発動出来るようにします。


「2号の準備は整った。俺も向かう。その後ティナ頼んだぞ。マイは最悪の場合──ティナが離脱したら分身諸共、即座に爆撃しろ」


 そう1号は言い残して駆け出します。


「本気で行く──────『一条の閃光ストゥリークフラッシュ』────」


 ティナちゃんはしばらく力を溜めてから攻撃を仕掛けます──


 一瞬にしてその場から姿が消えます。


 速すぎて全く捉える事が出来ません。なんとなく魔力を感知して場所がわかるぐらいです。


 これに反応出来る人はいないでしょう。



『傀儡』を見ると──


「やっと来たね?」


 お絵描きをやめて、ティナちゃんの方向に振り向き──


 レイピアを刺し出します。


 このままではティナちゃんが串刺しに──


「「「──『朧』────」」」


 分身3体が姿を現すと同時に『傀儡』目掛けて攻撃を繰り出し、レイピアを分身体達に向けさせます。


「もらった──」


 ティナちゃんの攻撃が当たる瞬間──


「──甘い♪ 私を守りなさい──」


『傀儡』は近くで正座していた男共を盾にして分身体とティナちゃんの攻撃を受けさせます。



「中々良い線いってたよん♪」


 致命傷を受けたはずの男共は攻撃を仕掛けてきました。


 1号はティナちゃんを抱えて離脱し、2号はさっきの攻防の間に王様を解放して離れた場所に移動させていました。


「マイ──やれッ!!!!」


 そして、1号が合図を送ります──


「──『灼熱の光線ヘルファイアレイ』──」


 私は渾身の魔法を放ちます──


 これなら──


「──えい♪」


『傀儡』に当たったと思った瞬間に魔法は掻き消されます──



「わぁ〜けっこういるね〜。私もに頼っちゃうね? 出てきて〜♪」


『傀儡』はに向かって声をかけると──


 次々と犯罪者が牢屋を破壊して出てきます──



「全員気を引き締めろよッ!!! こいつは操った奴を強化して襲わせてくるぞッ!!!」


 1号の掛け声に全員が構えます──

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