第75話

 先程、俺達は普通に王の間に案内された。


 しかし、目の前の光景は完全に想定外だった。


 なんと玉座にはのだ。


 王の間にいたのは20人の近衛騎士団と偉そうな貴族だけだった。


 王が来る感じではなさそうだ。既に戦闘がいつ始まってもおかしくない感じだ。


 まさか、2時間以上待たされたのって近衛騎士団を揃える為か?


 俺は警戒レベルを1段階上げる。皆の顔にも緊張が走る。



 無いとは思うが──【絆】の情報が伝わっていない可能性もあるかもしれん。


 それに交渉を有利に運びたいという理由なのであれば威圧的な対応も納得出来る。


 まぁ、現状がよくわからない以上──まずは情報収集が必要だろう。


 俺は貴族に告げる──


「この国は【絆】を敵に回すのか? それと王はどこだ? これは王の判断なのか? あと、お前は誰だ?」


 俺は基本的に貴族が嫌いだ。


 力があると勘違いした無能ほど害悪な存在はいないからな。


 王なら多少の敬語は使うつもりだったが、貴族なら必要ないだろう。


 なんせ俺には心強い仲間と【絆】がバックにいるからなッ!


『この他力本願が』


 うっさいわ!



 1人の貴族が俺の言葉に頬を引き攣らせながら答える──


「私はこの国を任されている宰相だ。王は現在床に伏せている。代わりに私が対応する事になっている。無論、【絆】のラウンズがいると報告は受けているぞ? 暴れられては困るので近衛騎士団を配置しているがな」


 凄い強気だな。


【絆】の影響力って実は大した事がないのか?

 迎えの騎士団長の態度では敵対しないように取り計らっていたからそんな事はないと思うんだがな。


 この貴族が馬鹿なだけか?


 あー、そうか【絆】が怖いからこれだけの近衛騎士団を配置しているのか!



 とりあえず確定したのは──こいつと交渉しなければならないという事ぐらいだな。


 ただ、予定が変わってしまったな……宰相とはいえ──王が不在の中、こいつが勝手に褒賞を決めてもいいのか?


 せいぜい、言付けを頼むのが関の山だろう。


 ミカはどう思う?



 ピコンッ


『あーすまん。ちょっと手が離せんから、お前のフォローが出来ん。確実に戦闘になるからそこでウォーミングアップしておけ』


 えぇ!? 戦闘確定なの!?


 ウォーミングアップとか言ってるけど、こいつら近衛騎士団だぞ?! 王様の警護を任されるぐらい強い奴らなんだが!?


『なんとかしておけ。また戻る──』


 ……マジかよ……あーなんか急に面倒くさくなったな……俺の考えてたプランと違うんだが?


 なんて言うの? こう──パパッと話をして終わりみたいな予定だったんだけど?


 はぁ……一応、交渉したという形だけ取るか……。


「なら、本題に入ろう。既にわかっているとは思うが──俺達は国を救った英雄だという事はわかっているな? 褒賞を貰える権利があるはずだ。俺の希望はこのロッテを奴隷から解放する事だ。ロッテは俺の奴隷として国を救う為に尽力した。それぐらいは容易いだろう?」


 俺の物言いに更に顔を引き攣らせる宰相。


「……それは出来ない。そこにいるロッテにより、我が国は危うく滅ぶ所だったからな。どんなに尽力しようとも重罪を犯した事に変わりはない。後で奴隷商から買い取る手筈だったのだが、お前が買い取っていたとはな……ロッテを引き渡してもらおう。これは王命である」


 ロッテを奴隷商から買い取って俺と同じように薬を作ろうとしていたのか?


 こちらの意向を無視して引き渡せか……舐めてるな。


 しかも、王が不在の上に勅令書もないのに王命とは恐れ入る。


「王命? 勅令書もないのに笑わせてくれる。それなら王を連れてこい。そもそも、その件は既にロッテが奴隷落ちという形で罰を受けているがな」


「いいや、あれはで奴隷落ちさせたのだ。つべこべ言わずにさっさと引き渡せッ!』


 そう来たか。だがその言い訳は苦しいな。


 ロッテを見ると、宰相の物言いに不安そうにしている。


 まさか俺が引き渡すとか思ってないよな??



「その時には石化病は蔓延していたはずだ。その件と毒を盛った件は一緒に罰を受けているはずだ。そもそも、今回最大の貢献者の俺が褒賞を貰う話をしにきただけで、ロッテが裁かれた時の話をしにきたわけではない。これは褒賞として望んでいるだけだ。話をすり替えるなよ? そもそもお前らが俺の所有物を奪い取る権利は無いだろうがッ!」


 こいつらは鼻から褒賞を出す気がないのが良くわかった。初めからロッテを差し出すように持っていくつもりだったんだろう。


 なんか段々腹が立ってきたぞッ!



「お前達の褒賞は別に用意する。冒険者ギルドと【絆】もそれで文句はあるまい。。お前が一生抱く事の出来ないような女をな。その胸がでかいだけしか取り柄の無い女と交換だ。それなら文句あるまい?」


 この言葉を聞いてアリアは殺気を放つ。


 おそらく、【絆】を格下扱いした事が逆鱗に触れたのだろう。



 俺もぼちぼち我慢の限界だ──


「──断る。お前は勘違いしている。俺はお前らを敵に回そうが、国を敵に回そうが──ロッテを手放すつもりは無いッ!!!!」


「エル君──」


 ロッテは涙を流しながら俺を見つめてくる──



「政治も知らんクソ餓鬼がッ! そもそも、お前が買い取ったせいでが台無しだろうがッ!」


 計画だと?


 そもそも、俺が買い取らなければ──ロッテをどうしたんだ?


 まさか──


「計画ね……爵位を剥奪したロッテと引き換えに交渉でもしようとしてたのか?」


「そうだ。【深淵】に手を引いてもらうように王太子に交渉していた。ロッテの引き渡しがだった。そうすれば──石化病も早くに終息したものを」


 国を預かる者として、その選択は間違いではない。


 しかし──


 甘いな……そんな簡単に【深淵】が引くわけねぇだろうが。


「お前の考えが甘い事はよくわかった。断言してやる。ロッテを引き渡した所で石化病は終息しなかっただろう。そして終息した今でもロッテを引き渡せと言う事は──まだ何かあるんだろ?」



「その通りだ。今からでも国をに必要だ。──ロッテはあちらに売り払う算段になっている。もし──断ればわかるな?」


 この感じだと、宰相自身にも何か得があるんだろうな……。


「さてな? 俺は仲間を引き渡す気はねぇよ。全ては本人の意思に任す──ロッテッ! お前はどうしたいッ!!!」


「わ、私は──エル君達とずっと一緒にいたいですッ!!!」


「だってよ? 俺達を敵に回した事を後悔するなよ?」


「ふんッ、餓鬼がッ! お前ら──こいつらを捕まえろッ! ロッテ以外は最悪殺しても構わんッ!!!」


 近衛騎士団は俺達に向かって抜剣する──



「ロッテは俺の後ろに来い。皆は迎撃態勢ッ!」


「はいッ!」


 ロッテは俺の後ろに来る──



「エルク様、殺しても構いませんね?」


「エルク、予定通り殲滅するぞ?」


 アリアとライクさんは気満々だった。


 物騒だな!?


「……まだ腹の調子が……」


 ギルマスは未だに顔が死んでいた──


 まぁ、頑張ってくれ。



「いや、生かしておいてくれ。さすがに城で虐殺は不味い。ギルマスは死ぬなよ?」



 俺達は戦闘を開始する────

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