第74話

 馬車が王城に到着すると、マイとティナは1号と2号と共に『幻影魔法』で姿を決して城に情報集めをしに行った。


 謁見予定のメンバーは呼ばれるまで待合室で待機しているのだが──


 とても対応が酷い。


 ミカの言う通り俺達を敵視する貴族が指示を出しているのだろうが、普通に茶菓子に毒が盛られている。


 ピコンッ


『お前以外が食えばお腹下すぞ? 普通に死ぬ毒もあるがな』


 とミカから言われなければ気付かなかっただろう。


 なので、その事を皆に伝えて『無限収納』から【祝福ログインボーナス】で貰ったお菓子を出している。


 俺は1人で毒入りの茶菓子を頂いている。


 その姿を見た事情を知っている執事とメイドは「あれ毒入ってるよな?」と言わんばかりの顔でドン引きしていたが……。



「これ本当に毒が入ってるのか?」


「……間違いなく入っているぞ?」


「いや、お前普通に食ってるじゃねぇか……実は独り占めしたいだけなんだろ?」


 むむ、心外だな。


「鍛え方が違うからな」


 本当は『健康』スキルのお陰なのだが。


「俺にも食わせろ。俺も鍛えてるからな──むんッ!」


 ギルマスは筋肉を強調したポーズを俺に向けてくる。


 正直、視界に入れたくない。


 というか張り合ってくるなよ……。


『そこのハゲゴリラには、端っこにある下剤入りクッキーをやれ。これなら死なん』


 いや、トイレに篭られたら戦力が減るじゃねぇか……。


『私の目算では戦闘には間に合う。どうせ2時間はここにいる事になるからな』


 ……つまり戦闘は確定なのね?


 まぁ、2時間もあれば戦闘に間に合うだろうし別にいいか……というか、客人をそんな待たせるなよな……。


「……これなら死なんぞ?」


 俺はミカからのアドバイス通り下剤入りクッキーを渡す。


「俺も凄いというところを見せてやるッ!」


 そう言いながら下剤入りクッキーを頬張るギルマス──


 しばらくすると備え付けのトイレに駆け出し、「ぬおォォォォォォォォッ」と唸り声が聞こえてきた。


『草』


 草、じゃねぇよ!?


 余計に鬱陶しくなったわッ!




 さて、アリアとロッテは優雅にお茶会を楽しんでいるし、ライクさんは瞑想しているから──暇すぎる……。


 そうだ──今日の【祝福ログインボーナス】を貰うか……これって俺以外に見えないからな。


 発動──


 ん? 


 今日は箱が出てきたな……くじ引きか?


 くじ引きはハズレが多いはずなんだが……ハズレ枠が減ったらしいけど、どうなってるんだろ?


 しかも今回はスキルやアイテム、魔道具などの表示がない。


 神様に限ってイカサマなんかはないと思いたい……。


 ピコンッ


『[大変遺憾である]と私の方に通信が入ったぞ〜。ハズレ無しは確定だぞ』


 すんません!


 わかってます、何が当たるかお楽しみってやつですよね!


 俺は手を伸ばして一枚の折り畳まれた紙を取って開ける──


 文字が書いてあった。


[“(魅力UP効果有り)4枚セット”が当たりました]


 …………は?


 超エロい下着?


 こんな物当たってもどうしろと!?


 しかも魅力UP効果付きとかあっても、これを使んだよ!?


 もっと戦闘とかに役立ちそうな物をくれよな!?


 超エロい下着が4セット出現する──


 手に取って軽く見た感じ──確かに超エロいな……これ本番する時にかなり燃えるな。


 エッチできねぇから使えないけど……。



「ん? エルク様ですね。何ですか?」


 アリアの声にハッとなる。


 ──しまった?!


 アイテム類は目の前に出されるんだったァァァァッ──



「それは下着ですか? また凄くエロい下着ですね。サイズ違いで合計4タイプですか……」


「ロッテさん、この下着のサイズは4です。つまり──エルク様が選んで下さったに違いありません。これを着て欲しいという事ですよね?」


 2人の表情は何故か嬉しそうだった。


 2人はもしかしてプレゼントというのが嬉しいのかもしれない。


 そういえば、今回皆頑張ってくれたのに報酬を用意してなかったな……。


 だからといって超エロい下着をプレゼントしようとしていた事にすれば間違いなく俺は変態の仲間入りだ。


 何がベストアンサーだ!?


 ミカ──教えてくれッ!


 お前だけが頼りだッ!


 俺に──


 最高のアドバイスを────


 ピコンッ


『笑えばいいと思うよ?』


 諦められた!?


 そうだな……笑うしかねぇよ……逃げ場がない上にどう足掻いても誤解が解ける気がしない。


 ここはアリアの言う通りに便乗して開き直るか? 今ならライクさんも目を瞑っているしな。執事とメイドは下着持ってる俺にドン引きしているが……。



 アリアとロッテは俺の返事を待っている。


 なんか親に問い詰められている感じがする……。



 あー、無理。俺にはこのエロい下着をプレゼントだと口が裂けても言えんッ!


 ミカッ!


 何か気の利いた言葉はないか!?


『①着て欲しい。②着て欲しくない。この2択しかないだろ。お勧めは本能に従うのが吉』


 そんな普通の選択肢いらねぇよ!?


『なら、こう言え。「これを着たお前らを想像してナニしてた」とな』


 アホかッ! んなもん余計に言えるかッ!


 アァァァ──どうしたらいい!?


 ここはもうミカの選択肢通り──本能に任せて①を選ぶか!?


 いや、ミカの誘導に乗るとろくな事にならん気がする。


 ここは紳士的に②が妥当だろう。


 ──いや、ダメだ。②は俺が下着を持っている時点で墓穴を掘る事になる。


「いや、これは──収納を整理していたら、前のパーティメンバーの下着が出てきただけだ」


 これがベストアンサーだッ!


『ちッ』


 ミカの反応から正解だと確信したッ!



「そう、ですか……」

「てっきり着て欲しいものだと……」


 2人から凄いがっかりされた!?


 何でだ!?


 あれか!?


 やはりが欲しかったという事なのか!?


 確かに今回頑張ったからな……何か報酬は必要だろう。


「この件が片付いたら頑張ったお前らにプレゼントをやる」


「「本当ですか!?」」


「もちろんだ」


 どうやら正解を引き当てたようだ。


 ふぅ……冷や汗が出たぜ……。



「ご用意が出来ましたので、こちらへ」


 タイミング良く執事がそう告げる。


 どうやら謁見の準備が整ったようだ。


 ギルマスをトイレから呼び出すと、酷くやつれて今にも倒れそうだった。


 少し不安だが、なんとかなると信じたい。



 俺達は部屋を出る──



 その時、アリアが俺に耳打ちする──


「私達サイズの下着を持ってるなんておかしいですよね? 1人でこれを見ながら想像してナニしてたんでしょ? どうせなら私達が着て差し上げますよ?」


 グハッ


 俺はアリアから痛恨の一撃を喰らった。


 最終的にミカの言う通りになってしまったじゃないか……。


『これだからやめられんwww』


 うっさいわッ!!!!


 ちなみに①を選択していたらどうなったんだ?


『ライクにもバレてもっと面白い事になったなw』


 この時ばかりは、自分で考えて良かったと心底思った。


 やっぱり、ミカの頼り過ぎは良くないなッ!



「エルク」


「ライクさんどうしました?」


「下着の件は黙っておいてやるよ……お前も年頃だからな……そういう事にしておいてやるよ……」


 結局ライクさんにもバレてるし!


 しかも痛い子を見る目だし!



「年頃?」


「あぁ、好きな女の子の下着を盗んでる奴らがいた。まぁ、あんまり盗むなよ?」

 

 酷い勘違いされてるんだけど!?


 ①と②を選んでなくても結果がそんなに変わらない件についてッ!

 

 王城に来たら酷い目に合ったんだが!?


『いや、お前が加護をそんな所で使うからだろ』


 ごもっともッ!


 今度からは1人でやろう……。



 俺は凹んだ状態で王の間に進む──

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