第69話
ギルマスを部屋に通して、話をする事にした。
メンバーは俺、マイ、ティナ、アリア、ギルマスだ。
ギルマスが口を開く。
「許可が降りた。謁見は明後日だ」
早いな。情報収集は明日だけか……。
「わかった。行くメンバーは俺、アリア、ロッテ、ギルマスだ。マイとティナは前に話した通りだ」
「「「了解」」」
予め、マイ達と打ち合わせしていたのでスムーズに話が運べたな。
ちなみにマイとティナにはその時に待機を命じたのだが、当然ながら駄々をこねた。
仕方ないので、分身1号と2号と共に隠れてついてくる事になっている。
「わかっているとは思うが、もう一度言っておく。予定通り、俺を最大の貢献者とする。そして、協力者としてアリアが【絆】の代表、ギルマスが冒険者ギルド代表だ。俺に褒賞は出るだろうが、協力者にも出るだろうから何か希望があるなら決めておけよ?」
「わかりました。経費を多めに請求しておきます」
配布組にけっこう金がかかったからな。妥当なとこだ。多めというのが気になるところではあるが……。
「へ? 普通は王からの褒賞は選べないだろ……無礼罪適用されるぞ……」
確かに通常であればギルマスの言う通り、王からの褒賞は選べない。こちらから褒賞を指示すれば無礼罪として打ち首だろう。
だが──
「ギルマス、今回の敵は【深淵】の1人『病魔』だったのは知ってるか?」
今回、【深淵】が動いている事は向こうも知っているはずだ。
「はぁぁぁッ?! 【深淵】だと?! しかも、その中でも最悪な『病魔』が何で動いてるんだッ!? それでそいつの対処はしたのか!?」
ギルマスから驚きながら質問される。
「俺が撃退しておいた。今はこの国にはいない。つまり今回、国を滅ぼしかねない事した【深淵】から俺達は国を救ったんだ。そんな俺達が無礼罪なんかにされるわけないだろ。好きな褒賞を貰えるはずだ。俺はその方向で動くつもりだからギルマスも冒険者ギルドとして必要な褒賞を貰えばいい」
ロッテの奴隷からの解放が目的だからな。
それに当然ながら策もある。
いきなり褒賞を申し出るのはさすがに無理だ。それこそ無礼罪だろう。
だから必ず前置きが必要になる。
今後も【深淵】に襲われる可能性があると王達は思っているはずだ。
それをまず再認識させる。要は『お前ら、また襲われるかもしれないよ?』と遠回しに言うのだ。
それと同時に今回、【絆】が味方であった事実があれば『対応次第で【絆】が味方になる?』と思うはずだ。
つまり、簡単言うと──『味方になってほしければこちらの条件を飲め』という事だな。
だからこそアリアを連れて行くし、その事をギルマスから向こうに伝えるように言ったんだ。
予め、フランにも手紙で『エルドラン王国が【深淵】に襲われる可能性があるから、もしもの時はよろしく』と伝えている。
裏組織が国と繋がるのはあまり良くないが、別に悪い事をするわけじゃないから問題ないだろう。たぶん……。
要は協力関係だからな……たぶん。
フランが何か要求する可能性もあるが、大丈夫だろう……たぶん。
そんな事を考えていると、再度ギルマスから質問がくる。
「…………お前……『病魔』撃退したのか?」
「そうだな。苦労したが──なんとかなったぞ?」
いや、本当死ぬかと思ったけどな……。
「…………」
何故黙る。
沈黙するギルマスを無視してロッテが話しかけてきた。
「エル君は褒賞が欲しいんですか? 何か欲しい物とかあるんですか?」
「ん、あぁ、そういえばまだ言ってなかったな。ロッテは今回1番頑張ったから犯罪奴隷から解放をしてもらう予定だ」
「え? 私、解放してもらえるんですか?」
「そうだ。俺はお前を買う時にチャンスを与えると言ったはずだ。そしてお前は見事に俺の期待通りに動いてくれた。その報酬だな」
俺は報酬を払う男だ。
「嫌なんですけど?」
…………何でやねんッ!
犯罪奴隷の解放を断られるとか聞いた事ないんだが!?
「いや、犯罪奴隷は立場が弱い。今後生活していく上で──」
「エル君の側にいたいです」
そうは言っても、ロッテって王の隠し子だろ? そんな爆弾抱えたくないんだが?
「それは別に犯罪奴隷でなくて良いはずだ。これは既に決定事項だから変更するつもりは無い。今回の件が上手くいけば仲間になれば良い……」
どうせ、解放後は王が反対するだろ……王が囲い込めば俺にはどうする事も出来ない。
つまり、俺の当初の目的通りになるわけだッ!
ピコンッ
『そう簡単にいくかな?』
不穏な事言うなよ!?
「わかりましたッ! 皆の仲間になれるよ♪」
ロッテはマイ達に向かって嬉しそうに告げる。
「「「おめでとう」」」
お前らなんなの?!
ピコンッ
『これでロッテちゃん置いてけぼりとか──お前は鬼かッ!』
いや、王が駄々をこねたら無理だろッ!
「ハーレムとは羨ましい……」
ギルマスのそんな呟きが聞こえてきた。
別に俺はハーレムは作っていないがな……たまたまだ。
そういや──
「ギルマスには告白してない女性がいるんだろ? 告白したのか?」
なんか命乞いでそんな事言ってたじゃないか。
ピコンッ
『こんなハゲゴリラになびくメスがいるかッ!』
ひどッ!?
「…………」
このギルマスの沈黙はきっとフラれたんだろうな……。
「まぁ、なんだ……いつか彼女ぐらい出来るさ……ギルマスは強いんだろ? 強ければ、誰かを守った時に惚れてくれる人もいるかもしれないじゃないか!」
「……そんな偶然などあるわけないだろ……」
何故か俺にはあったがな……。
「いやいや、諦めるな!? 大事なのはハートだ! 中身なんだよ! 何か自慢出来るような事はないのか?!」
「──そういえば1つだけある。お姉ちゃんのたくさんいるお店で話したら盛り上がってモテた話だ」
それはモテたんじゃなくないか? 金払えばヨイショしてくれるお店だろ?
「ちなみにどんな話だ?」
「一年程前に訓練ではあるが『先見』をボコった」
……確かに冒険者に成り立ての頃にボコられたが──
それ自慢話になるのか?
新人の頃は誰でも弱いだろ……今も正面から俺が戦っても勝てる気がしないが……。
まぁ、『先見』の二つ名はけっこう有名だったし、酒の場ならいい話の種か?
というか、そんな店ばっか行ってるからモテないんじゃないのか?
──?! 凄い殺気だ。
「へ〜、そこのハゲは『先見』をボコったんですね?」
犯人はアリアだ。
ギルマスに絶対零度の視線を送りながら言う──
「──そうだ。俺は唯一それだけは自慢出来るッ! そう、俺は強いんだッ!」
「ならば、私とも模擬戦しませんか?」
「良かろう。俺は強いッ! 【絆】のラウンズであっても負ける事はないッ!!!!」
アリアとギルマスは中庭に向かう──
「手加減はいるか? なんせ俺は『先見』をボコった男だぞ?」
何度も言うが、新人の頃な? 今は『身体強化(極)』もあるから簡単に負けないからな?
しかも、訓練だったから『幻影魔法』とか使ってないからな?
「ただ模擬戦するのではつまりません──賭けをしましょう。勝者が敗者の言う事を聞くというのはどうですか?」
アリアは賭けをすると言う。
普通なら止めるんだが、アリアが負ける未来が全く見えないので止めるつもりはない。
ミカ的にどうだ?
ピコンッ
『ハゲゴリラが這いつくばる姿しか見えん』
ミカもそう言っているなら大丈夫だろう。
「ふっ、良かろう。俺が勝てば──お前には俺の彼女になってもらう」
ギルマス……女に飢えているな……。
一回、ギルマスが女の子のお店に行ってる時を見てみたいな……。
「良いでしょう。私が勝てば──今後一切逆らう事は許しません。一生私の下僕になってもらいます。もし、うっかり殺してしまったらごめんなさいね?」
対するアリアは
殺してしまうと、計画に支障が出るから半殺しにしてくれよ?
「ふっふっふ──俺は簡単には死なんわッ! ついに俺の時代が来たァァァァァァァァ」
2人の模擬戦が開始する──
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────────────
「そちらにいるお方もエルクという名前なんです。『先見』と同じ名前ですよね? これから『先見』をボコったなどと自慢すれば──殺しますよ? 私とエルク様の命令は絶対服従ですから、わかりましたね?」
「ひぃ、わ、わかりましたッ!」
模擬戦という名の戦闘が終わる頃にはギルマスは地べたに這いつくばり、アリアによって足蹴にされていた。
きっと、アリアは昔の俺がボコられた事に腹を立てたんだろう。
ぶっちゃけると、そんなに気にしていないので自慢されても問題ないんだがな……ギルマスの時代は儚く散ってしまったな。
しかし──アリアさん……滅茶苦茶強くないですかね?
速いとか、そんなんじゃないんだよな……その場から消えて一瞬で移動してたんだが……あれがアリアの加護か?
訓練とはいえ、あのギルマスがアリアに手も足も出ないとは……。
しかも、唯一自慢出来る話も言えなくなってしまったギルマス……哀れなり……。
しょぼんとなったギルマスはトボトボと帰って行った。
さて、寝るか……俺全然寝てないんだよな……。
次の日──
目が覚めると昼前だった。
かなり寝てしまったな……情報収集しないとダメなのにな……。
だが、ミカがいればなんとかなるだろう。
ピコンッ
『……お前の思惑通りに事は運ばないぞ? 私には見える。「どうしてこうなった!?」と叫ぶ未来が──』
寝起きに不吉な事言うなよなッ!?
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