第66話

 アリアがいる場所まで向かいながら俺とライクさんで世間話をしていると──


「──そんでエルク、俺はポックル草を集めたら良いのか?」


 そう聞かれた。


「そうですね。とりあえず今日はそれでお願いします。行く前にやってほしい事があるんですが良いですか?」


 ライクさんにやってもらいたい事は採取と冒険者達の士気の向上だ。


「ん? 何をするんだ?」


「冒険者に薬を配る依頼を出したんですが、ライクさんが士気を上げてくれると助かります。真面目な人もいますが、適当に仕事をされて失う命が増えるのは嫌なので」


「わかった。俺に任せておけ。言う事を聞かすのは得意だ」


 おぉ、頼りになるなッ!


「では、任せました!」



 しばらく歩くと、アリアを発見する。


 アリアの周りには人だかりが出来ていた。


 その人だかりは【絆】の構成員や冒険者で、アリアは何やら説明しながら薬を配布していた。


 ギルマスもいる。


 ギルマスはアリアが話しかけるとペコペコしている。


 もはやギルドマスターの威厳はない。


 隣にいるライクさんも「あいつ何やってんだ?」と言いながら疑問符を浮かべている。


 そんな光景を眺めているとアリアが俺に気付く。


「あ、エルク様ッ! そちらはひと段落ついたんですね!?」


「あぁ、アリアの方はどうだ?」


 俺は状況を聞く──



 最初は【絆】の構成員が重傷者を中心に家まで出向いて薬を渡し、症状が軽い者は仮設のテントまで来てもらって配布していたそうだ。


 今日は冒険者がかなり参加してくれた事により人手不足が解消し、少し予定を変更したと言っていた。


 配布漏れを防ぐ為、冒険者に5人で1組のグループを作らせ、決めた区画の家を一軒ずつ回ってもらい薬を配布するらしい。


 サボって配布漏れが起きた場合はランクの降格と罰金があるらしい。


【絆】の構成員は、これまで通り動けない重症者の家まで配布しに行く。



 その説明が先程終わったようだった。



 どうやらジャストタイミングで来れたようだな。


 お膳立てとしては十分だろう。


 ライクさんに声をかけようとすると、ギルマスを揶揄っていた。


 ギルマスは平謝り状態だ。おそらく薬の約束を守れなかったからだと推測出来る。


「ライクさん──話してる所すいませんが、冒険者達に一言お願いします」


「あぁ、ギルマスから大まかな話は聞いた。任せておけッ!」


 サムズアップするライクさんは冒険者達の前に出る──そして、話し出す。


「冒険者諸君、聞けッ! 今、王都は石化病で苦しむ人が増えている。かなり逼迫した状況である。だが、今回、無料で薬を配布してくれる人が現れた。俺達がその薬を配る事で、救われる人々がいるッ! 俺達一人一人が王都の英雄になろうじゃないかッ! わかったかッ!?」


「「「オォォォォォォォォォォッ!!!!」」」


 この反応だけでライクさんの方がギルマスよりも人望がある事がよく分かるな……。


「ちなみに──」


 ん? ちなみに?? まだ何かあるのか?



「サボれば──こうなる。────ふッ!!!」


 スゴォォォォンッ


「「「……」」」


 ライクさんが地面を踏みつけるとクレーターが出来上がった。


「返事はッ!!!」


「「「はいッ」」」


「なら言われた通りに行動しろッ!!!!」


「「「はいッ!」」」


 蜘蛛の子を散らすように冒険者達は薬を配りに行った。逃げたと言った方がいいな……。


 最後に脅しとは……。


 まぁ、冒険者は適当な連中が多いからこの方が良いだろう……サボられても困るからな。


 それより…………この人、何でAランクなんだ?


 今までAランクやSランクの冒険者はそれなりに見てきたけど──


 これ、Sランク相当の強さだろ……。



「エルク、俺はポックル草を集めに行ったらいいのか?」


「あー、そうですね。それでお願いします」


「わかった。集めたらまた孤児院に行く」


 ライクさんはそう言い残して、この場を後にした。



「ギルマス、時間あるか?」


「時間はあるが……お前、何でライクに敬語を使って俺には使わん……」


「いや、だってギルマスに敬語を使う意味がわからない。それにギルマスからそんなにお世話になった事ないしな」


「あぁ? 俺はギルドマスターだぞ? 冒険者ギルドの支部を任されるぐらい偉いんだぞッ!」


 ギルマスに胸ぐらを掴まれそうになると──


「おい、そこのハゲゴリラ」


 アリアが睨みながらギルマスを呼ぶ。


「はッ、何でしょうか?」


 アリアに逆らえないのか、ギルマスは膝をついて畏まった。


「エルク様は私の大事な人──手を出せば、わかっているでしょうね?」


「この方が大事な人? だ、大丈夫です。今、冒険者に絡まれた際の対処法を教えていただけですのでご安心下さい!」


「エルク様、本当ですか? そこのハゲゴリラが無礼な事をしてませんか?」


 ……どう答えるのが正解なんだろ?


 ギルマスを見ると懇願するような目を向けてきている。


 正直、気持ち悪い。こういうのは美少女でやってくれたら庇いたくなるんだがな……。


 まぁ、今後ギルマスは俺のに必要だ。


 断り辛くする為に案を売るか……。


「……今、ギルマスから教えてもらった対処法を行うところだったんだ。他の人のやり方も気になるからな」


「そうでしたか。失礼な事をされたら教えて下さいね?」


 そう言い残して、アリアは薬の在庫をチェックする。



「……ギルマス」


「……何だ?」


「アリアに何で頭が上がらないんだ?」


「そりゃあ、【絆】のラウンズを敵に回せるかよ……様付けされてるって事はお前もなのか?」


 あー、なるほど……【絆】ってバラしてるのか。


「俺は外部委託されてる協力者みたいなものだな」


 俺は【絆】を抜けているからな。


「……殺さないで下さい……俺にはまだ告白出来ていない女の子がいるんです……」


 土下座された?!


 しかも、理由がしょぼいッ?!


 普通なら妻がいるとか、子供がいるって言うんじゃねぇのか!?


 逆に真実味があるが……。


 不憫だ……なんかギルマスが不憫過ぎる……。


 良い年したおっさんなのに妻子すらいないとは……。


 相当モテないんだろうな……。


「これから話す事を承諾すれば借りは返した事にしておく……」


「な、何でも言って下さいッ! あ、靴でも舐めましょうか?」


 男に靴を舐められるとか虫唾が走るわッ!


「気持ち悪いからいらん……それと、敬語もやめてくれ。とりあえず、本題に入るぞ? この調子で行けば──石化病はその内終息する。その目処が立ったら謁見の許可を取ってほしい」


「謁見? 王と会いたいのか?」


「あぁ、今回の手柄は──いや、最大の貢献者は俺という事にする。これは確定だ。信用のある冒険者ギルドのギルドマスターなら、報告しやすいはずだ。なんせ、冒険者達も薬を配る為に奔走したんだからな。アリアも連れて行きたいから、ついでに【絆】が動いた事も言っておいてくれ。今回、王都を救う事が出来れば謁見の許可を取るぐらいは簡単だろ?」


「確かに成し遂げれたら可能だろう……わかった必ず謁見出来るように取り計らう」


「頼んだ。一応、その時はギルマスも来てくれよ? もちろん──ギルドも手を尽くしてくれるんだろ? その為に依頼したんだ。ギルマスも貢献者の1人だからな」


 上手く行けば俺が代表で手柄を貰うつもりだが、俺だけの貢献ではない。


 さっきも言ったが、冒険者ギルドも薬を配布するのに貢献している。【絆】は裏組織だから公に報酬は貰えないだらうが、何かしら見返りはあるだろう。


「……そこまで考えてくれていたのか……ありがとう」


 俺がギルマスの顔を立てるつもりなのがわかり、お礼を言われた。


 そのままギルマスに手を振って、孤児院に戻る──



 今回の褒賞でロッテを犯罪奴隷から解放する。これは決定事項だ。


 ロッテは寝る間も惜しんで薬を作っている。


 努力は報われるべきだ。


 今回を逃せば、犯罪奴隷からの解放は難しいだろう。


 というか、このまま連れて行きたくないだけなんだがな……この件が終われば襲われそうで怖い。




【深淵】に狙われたのはロッテの自業自得ではあるが、病気から王都を救ったのは間違いない。



 『鑑定』からの情報とロッテの話から推測するに──


 ロッテは今回の元凶として扱われる可能性もあるが、それを知っているのは一部の貴族だけだ。


 王都を救ったという事実は消えない。貴族に戻すのは無理でも奴隷からの解放は問題ないだろう。


 というか、褒賞を貰うのは王都を救った俺だ。薬を作ったロッテを奴隷から解放するように望むのはおかしい話ではない。


 なにより、毒殺未遂の罪は既に犯罪奴隷になる事で裁かれているからな。


 それに他国が【深淵】を使って王都を滅ぼそうとした事の方が問題だ。


 これは戦争をふっかけて来ている事に等しい行為だからな。


 とりあえず、王城に行くメンバーは俺、アリア、ロッテ、ギルマスの4人だな。


 裏がありそうだから、この布陣が1番良いだろう。ロッテを始末しようとすれば抵抗するつもりだからな。


 仮に王城で戦闘になればギルマスは普通に強いから俺達の盾として使おうと思う。


 借りは命を賭けてでも絶対に返してもらうつもりだ。


 まぁ、今回の件は【絆】が動いているから敵に回すとは思えないが、念には念を入れた方が良いだろう。



 裏を探ろうにも、手が離せる状況じゃないからな……。


 薬の作成が落ち着いたら調べてみるしかないな。



 こういう時にいつもなら、揶揄いながら『鑑定』が登場して情報をくれたりするんだが──


 メリルちゃんを助けた時から音沙汰が無い。


 もしかしたら、上司に見つかったのかもしれんな。


 その内、現れるだろう──



 そう思っていた。



 しかし、5日経っても『鑑定』は現れなかった──

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