第57話

 目の前に選択肢の無いルーレットが登場する。


 出来れば戦闘系スキルが欲しい……だが、物欲センサーが働いている時ほど欲しい物が当たらないんだよな……。


 そんな事を思いながらルーレットを回すと──



 スキル『魔力譲渡』



 ──という文字で止まる。



「魔力を渡すスキルっぽいな……まぁ、ハズレではないだろう……」



 ピコンッ


『魔力譲渡は条件がいるが、スキルの方は条件無しで行えるから当たり枠だぞ?』


 確かに……。


 一般的に魔力を分け与える事は出来ないとされている。


 一応可能ではあるそうだが、魔力の波長が合わなければ出来ないと聞いている。しかも自分の魔力を渡した所で、他人からすれば異物扱いされてしまって、そこまで回復はしないそうだ。


 それが無条件で行えるというのはある意味レアな力だろう。



 しかし、これから『病魔』カインとの戦闘があるかもしれないと考えるとやっぱり戦闘スキルが欲しかったな……。


 相手は裏世界では相当強いと言われている【深淵】の精鋭だ。


 勝てるのか不安しかない。


 とりあえずは早く探さないとだな。『鑑定』さんや、場所わかったりしない?



 ピコンッ


『敵の場所は教えんぞ?』


 何故?! 『慈愛の誓い』が迫ってきた時とか教えてくれてたじゃん!?



 ピコンッ


『そもそも、私には元々そんな権限が無い。何より人を探すのは得意じゃない上に常に見ているわけじゃないしな。今後は『マップ』を活用しろ。その為のスキルだ。というかお前に肩入れしてるのが上司にバレて減給させられた上に、こっぴどく説教されたんだぞ? 今も仕事サボって内緒で文字打ち込んでるんだが?』


 いや、仕事しろよッ!?



 ピコンッ


『だからプラスαの鑑定としての役割は果たしてやるから、頑張れ♪』


 お前絶対暇潰しがしたいだけだろ?!


 というか、普通の『鑑定』でいいぞ!?



 ピコンッ


『まぁまぁそう言うな。お前が強くなる方法を教えてやるから。ぶっちゃけ今のままだと苦戦すること間違い無しだし』


 ……まぁ、俺ってそんなに強くないからな……アドバイスはありがたいな。



 ピコンッ


『お前はまだ『幻影魔法』を使。これからは今から言う事を常に考えながらスキルを使え。内容は────』



 俺は『鑑定』とやり取りしながらアドバイスを受けた。


 内容としては『幻影魔法』はと言われた。


 この視覚から脳に働きかける時──よりリアルであればあるほど、現実味を帯びて本物と変わらない効果が出るそうだ。


 例えば、炎を『幻影魔法』で作り出して相手を焼けば、実際は燃えていないが脳が焼けたと錯覚を起こすらしい。


 そして、勘違いを起こした脳は体に火傷を作る事があると聞いた。


 これを聞いた時は人体の神秘だなと感心した。



 つまり、幻影とわからない幻影を創り上げれば──


 実際に起こったと錯覚させてダメージを負わせる事が可能というわけだ。


 あくまで幻影だが、──


 それが『幻影魔法』の真髄だそうだ。



 やり方を聞くと、とてもシンプルだった。


 本物と思い込ませるぐらいイメージを創り上げて、それを魔力と同調させるだけだ。


 言うのは簡単だが実際に試してみると、かなり難しい。


 今までなんとなくイメージして使っていたからな……。


 まず、イメージが鮮明に出来ない。


 出来たとしても、魔力を同調させて具現化する事が出来なかった。


 どうしても、幻影がブレてしまう。


 今までは幻影だとバレても混乱させるには十分だったし、そこに本物を加えた戦術は効果があった。


 なんせ、それが『蜃気楼』と呼ばれた所以だからな。



 もし、俺がアドバイス通りに『幻影魔法』が使えれば──


 間違いなく更なる高みに行けるだろう。


 ただ、問題なのは『病魔』との戦闘までに習得出来るかどうかだがな……。


 ちなみにイメージを鮮明にするには体験した事や、物を見続ける事が重要らしい……。


 とりあえず、頑張るしかねぇな──



 ◇◇◇



 俺の目の前に【絆】の構成員とマイ、ティナ、アリア、ロッテがいる。


「皆、役割をしっかりこなしてくれよ? では本日の行動開始だッ!」


 俺の言葉で全員が気合いを入れて行動に移った──


 その場に残ったのは俺とアリアのみだ。



「エルク様、どこに行きますか?」


「とりあえず、昨日アリアが『病魔』がいそうな所を調べてただろ? 潜伏してそうな場所をしらみ潰しに探していこう」


「わかりました。スラムで怪しい場所が数ヶ所ありますので行きましょう」


 俺達はしらみ潰しにスラム内を探し出す──



 ────


 ────────


 ────────────



 気がつけば夕暮れになっていた。


「手掛かり無しだな……」


「ですね……この街にいるのでしょうか?」


「まぁ、間違い無くいるだろうな……」


 丸一日かけてスラムを探したが、怪しい奴はいなかったな……。


 ロッテを狙っている以上は確実にこの街に潜伏しているはずだ。


 ロッテは元貴族だから、探すなら貴族街の方がいいのかもしれないな。


 貴族街に忍び込むか……。



「スラムはエルク様がいなければ全滅していた恐れがありますね……本当にありがとうございます」


「ん? あぁ、思っていた以上に感染が広がっていたな……」


 スラムでは思っている以上に石化病が流行っていた。


 症状の重い人もいたから一旦、孤児院に薬を取りに戻って、『病魔』を探しながら薬を配るぐらいだったからな。


 この感じではスラム以外の住人も感染が広がっている可能性が高いだろう。


 そういえば──


 ライクさんは薬を手に入れられたのだろうか?


 まぁ、ギルマスと約束しているから大丈夫だとは思うが……。



「これからどうされますか?」


「そう、だな……もう夕暮れだし、一旦戻ろう。俺はこれから薬を作るのに必要な物を買い足しに行く。アリアは明日、街の住人にも薬を配布する為に協力者を確保しておいてくれるか?」


「確かに……この調子では街の方もかなり不味いですね……わかりました。話をつけに行ってきます」


「あぁ、頼む。?」


 アリアの暴君振りは今日1日付き合ってよくわかっている。


 チンピラに絡まれた瞬間、直ぐに気絶させていたからな……。


 確かにスラムという場所は柄が超悪いから、仕方ないのはわかるが……。



「任せて下さいッ! このアリア──エルク様の期待は裏切りませんッ! では────」


 そう言い残して、目の前からアリアは消えた。


 この一瞬にして移動するのは加護なのだろうか?


 移動したにしては全く見えないんだが?


 俺の周りには強い女しかいねぇんだが……。


 はぁ……俺も負けてられんな……せめて『幻影魔法』を少しでも使いこなして俺の必殺技である『朧』を完成させなければ……。



 そんな事を考えていると道具屋に到着したので必要な物を買う事にした。


 ただ、ここでトラブルが発生してしまった……。


 魔力回復ポーションの在庫がなかった。


 事情を聞くと、薬師ギルドは現在──体力回復ポーションしか作っていないと言われた。


 これは薬師の人数が少ない為、少しでも石化病になった人を延命する為だろうと予測出来る。



 俺はここでピンと来た。


 今朝、【祝福ログインボーナス】で当たった『魔力譲渡』スキルは──


 これでなんとかしろという神様からの啓示だと。



 すかさず『鑑定』を使用する──



 ピコンッ


『魔力譲渡の使い方ね? 触れれば譲渡可能だよん♪ よん♪』


 ……つまり──正当な理由でロッテに抱きつけるわけか……魔力が無ければ薬が作れんからな。


 合法的に体に触れれるのはかなり美味しいな……。



 正義は我にありッ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る