第55話
俺は店に入る前に予め、『幻影魔法』で自分の姿を見えないようにして忍び込み──
ロッテの様子を見に行った。
ロッテは牢屋の中で仰向けで倒れ、涙を流していた。傷も相当酷いものだ。既に心も折れているかもしれない。
声をかけようか迷っていると、ロッテは牢屋の中で懺悔する──
内容を聞くに──
大まかな事情がわかっているのは教えられたからだと推測出来る。
意外だったのは街を救いたいという気持ちがあった事だった。
協力が得られそうに無ければ、買うのをやめようかと思っていたが──
涙を流しながら神様に懇願する姿に俺は胸を打たれた。
自分を犠牲にしてでも他人を助けたいと思う奴は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
例え、偽善であっても傍観者を気取るよりは数段良いと思っている。
ロッテは暴走癖があるが、こういう一面があると知って助けたいと思った。
気付けば俺は姿を消したまま──
『──後悔してるなら──助けてやるよ。その代わり、ちゃんと街の人を助ける為に働けよ?』
──そう言葉を投げかけていた。
「街を──救えるなら、私はなんだってする……エル君……だから私を買って──」
すると、気のせいかもしれないがロッテは俺がいる場所を見詰めてそう言った。
もう──
買う事に迷いはない。
ロッテは覚悟を見せてくれた。その覚悟は確かに俺が受け取った。
後は俺が覚悟を決めるだけだろう。
それに今回、自分勝手な行動を後悔しているなら暴走癖も多少マシになるはずだ。
『わかった──直ぐに行く。待ってろ』
そう告げた俺は、店の玄関から入ってロッテを購入した。
店主には口止め料を渡した上に脅したから、国王にバレるまでは時間は稼げるはずだ。
まぁ、今は奴隷1人にかまけている暇はないだろうから国王が動き出すとすれば──
今回の件が終わってからだろう。
今後、もしかしたら国王から狙われる可能性があるかもしれない。
そんな状態ではロッテを返すのは難しいかもしれない。
でも、今回の件が上手くいってロッテがどうしても奴隷から解放されたいと言えば、俺は国王に会いに行くだろう。
それが覚悟を見せてくれたロッテに対する礼だ──
そして、ロッテをお姫様抱っこして奴隷商から連れ出し、路地裏でポーションを大量に振りかける。
ロッテの傷は治っていくと同時に、俺はある事に気付いた。
まず眼鏡をかけていなかった。
眼鏡をかけていないロッテの顔は少し幼く、そして可愛く見えた。
更に、頭から振りかけたため髪の毛からポーションが滴り、色っぽかった。
なにより──
薄着のワンピース1枚しか着ていないのだ。
大量のポーションにより、服が濡れてしまっている。
つまり、おっぱいが透けて見えている。
俺はシリアスな場面なので真剣な表情をしているが、心の中では『おっぱいの突起がァァァァ』と叫んでいる。
いかんいかん、と俺は話出そうとしているロッテの顔を見る。
すると──
「ありがとうございます──私は一生、貴方に仕えます」
ロッテは俺の手を取って涙を浮かべながら笑顔で言ってくれる。
こうやって見るとロッテも童顔で可愛いな……。
ピコンッ
『今だッ! 揉めッ! 揉みしだけッ!』
なんでやねんッ!?
だが、お前のお陰で少し冷静になれたぜ。
「いや、一生はいらない。ただ、俺はお前にチャンスを与えるだけだ。だから、ちゃんと仕事しろよ?」
俺は馴れ合いをする為にロッテを買ったわけじゃないからな。
それでもロッテがもじもじしている姿はエロくて可愛いがな……濡れてるだけで印象って変わるもんなんだな……。
そんなロッテに見惚れていると──
「──はいッ! ちゅッ♡ チャンスを与えてくれたエル君にお礼です♡」
気が付けば頬にキスをされていた。
しかもロッテがくっついた事により、爆乳の柔らかさがダイレクトに伝わっている──
ぐはッ……痛い……。
股間が暴走してパンツを突き破りそうだ……何故、今日に限ってこんなに反応しやがる……。
ロッテを見ると、さっきまでの雰囲気と違い、真剣な表情をしていた。
「──?! ったく……」
既に覚悟は決まっているのだろう。
頭をポンポンと叩き俺達は歩き出す──
薬の製作に必要な道具一式を買おうと思ったのだが、ロッテから「必要ありません」と言われた。
とりあえず、俺達は孤児院まで向かった。
そして、現在は皆とミーティングを行った部屋をシスターから借りて今起こっている詳しい状況を話している。
ロッテの目は真剣だ。
以前のように馴れ馴れしい感じではなく、俺の話を真剣に聞いてくれた。
「──とまぁ、そんな感じだ。それと【深淵】から狙われているから、ここから出ないでくれ」
「分かりましたッ! 【深淵】が怖いのでここにいます! エル君──私が薬を作って街を救いますッ!」
「あぁ、期待している。材料は届けさせる。本当に道具はいらないのか?」
「はいッ! 私の加護は『錬成』です。既に作った事のある薬ならば材料さえあれば作れますッ!」
「へぇ〜凄い加護だな。それは対価無しに使えるのか?」
「魔力が必要になります……」
「そうか、なら魔力回復ポーションは買わないとダメだな。ロッテは疲れているだろうし、少し寝ておけ。その内、嫌でも忙しくて寝れなくなるからな」
「分かりました。不安なので側にいて下さい……」
「……わかった。ちゃんと休めよ?」
ロッテは何故かソファーに座る俺の隣に来て──爆乳を押し付けながらスースー眠った。
相当疲れていたのだろう。
ただ、おっぱいが押しつけられているせいで、とても股間が痛い……違う事を考えよう……。
分身体の状況を確認するか──
アリアは──
特に問題なさそうだな。『病魔』の足取りは掴めていないようだ。
……そう簡単に上手くいかないか。
明日は俺も捜索するか……薬の方はなんとかなりそうだしな。
とりあえず、採取に行っている1号に連絡するか……こいつは他の3体と共にマイ達と採取に向かっているし、集まったポックル草と魔力回復ポーションとか薬を作るのに必要な材料を買ってこさせるか……。
最近なんか1号の情報は入ってこねぇんだよな……自我に目覚めたせいか、他の3体も1号の指揮下に入ってるみたいで、思考も読めないんだが?
目の前の画面はひたすらポックル草だし、状況がわからん……。
こういうのって普通は本体の命令優先じゃね?
ピコンッ
『本体の威厳が無い件について(笑)まぁ、ちゃんとお前の為に動いてるぞ?』
……何で疑問系なんだよ……不安しかねぇよ。
(本体──)
ちょうどその時、1号から連絡が来た。
しばらくやり取りをした後、『鑑定』から連絡が入る──
ピコンッ
『さぁ──面白くなってきたぞッ!』
何が!?
◆──《エルク分身体1号視点》──
けっこう集まったな……数にして約400本か。
まだ午前中なのにいい感じだ。
どうやら『鑑定』がちょっかいをかけるのは本体だけのようだ。お陰でスムーズに採取出来る。
俺は護衛してくれているマイ達に視線を向けると──
魔物を惨殺している姿が見える。
可愛い女の子が魔物の首を撥ね飛ばしたり、消し炭にしている光景はシュールだな……。
こいつらが魔物を倒してるお陰もあって効率が良いんだろうが──
何でこんなに魔物が多いんだ??
後で本体に連絡する必要があるな。
しばらくして、2人が近づいて来たので、俺は分身3体にポックル草を採取させて遠ざけるように命令する。
これはマイ達に会話を聞かれたくないと頼まれたからだ。俺以外の分身体では本体に情報が筒抜けになってしまうからな。
「1号、エル兄に脅威が迫っている。帰る許可を」
「……? ちょっと確認するから待て」
本体に脅威が迫っている?
(本体──)
(何だ?)
(そっちに危険は迫っているか?)
(今、俺に迫っているのはロッテのおっぱいだぞ?)
(……どういう状況?!)
(こっちは予定通りになったんだが────────というわけだ)
本体から今日の出来事を聞く。
(……なるほど。では、帰りに必要な物は買って帰る)
そう伝えて、通信を切ると──
今度はマイから声をかけられる。
「1号はとエルク様と連絡出来たはずです。エルク様は──まさかエロい事してませんよね?」
「してない」
話を聞くに現在、寝惚けているロッテのおっぱいに埋もれて至福の時を過ごしているらしいが、本体からはエロい事はしていない。これは不可抗力だ。
というか、この2人は本体がエロい事をしてるとわかるのか??
「本当ですか? ちゃんと本当の事を言わないと──舐め舐めしてあげませんよ? 今日は股間が辛そうですね?」
まさか──
昨日やってくれなかったから股間がえらい事になってたのか!?
「ちょっと待て、何故昨日していない? 少しでもスッキリさせる代わりに俺は黙っているという協定ではなかったのか!?」
「たまには焦らさないとありがたみがわからないでしょう?」
「まさか──俺を従わせる為にこんな事を!?」
「正解です♪ エルク様に1番近い貴方には私達の味方でいて欲しいのです。私達の間に隠し事はなしですよ?」
「ぐぬぬ……」
俺は本体の情報は大事な所はボカして伝えていた。
たぶん、それが気に入らなかったのだろう……。
どうすれば良い?
俺は本体の味方でなければならない──
「別に裏切れとは言っていませんよ? 私達は嘘偽りのない真実が知りたいだけです──これからもね?」
「しかし……」
悪魔だ……目の前に悪魔がいる。
本体はこんな奴らに狙われていたのか!?
危険だ──知らせなければ────
「1号が真実を教えてくれる限り──エルク様が朝に悩む心配はありません。徹底的に搾り尽くします」
「わかった──要求を飲もう」
俺は本体を裏切ってはいない。そう、裏切ってはいないのだ!
朝勃ちに悩む本体の気持ちはよく分かるッ!
仮に出したくてもこいつらが邪魔をするのは目に見えている。
協力した方が本体のあそこの為になる。
そもそも俺は口止めなどされていないからな。
俺は真実を2人に伝えると──
鬼の形相をして、街に走り去って行った。
本体すまん。なんとか乗り越えてくれ。
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