第54話

「…………」


 ここはどう考えても奴隷商だ。


 そう看板に書いてあるからな。


 ロッテが本当にこんな所にいるのか?


 確かにここなら【深淵】からの捜索から外れる可能性は高いが……まさか本当に奴隷になってないよな? 匿われているだけだよな??



 ピコンッ


『奴隷になってますが? じゃなきゃこんな場所にいませんよ』


 はぁァァァァッ!? 意味わかんねぇよッ!


 仮にも国王の隠し子だろ!? 何で奴隷なんだよ!?



 ピコンッ


『どうやら、今回の婚約破棄の件を貴族達に追求されたようですね。相手方の王子に毒らしき物を盛ったという事で爵位の剥奪と犯罪奴隷落ちになりました。国王もさすがに周りの反発が強くて阻止出来なかったみたいですね』


 なんかマイと似たような境遇だな……。


 ロッテは自業自得な上に、冤罪ですらないがな……。


 というか、薬師が必要なのに何考えてんだろ……普通は「薬を作れば奴隷落ちは勘弁してやる」みたいな温情とか与えねぇか?



 ピコンッ


『まぁ、そんな事より──ルーレットを所望する』


 いや、このタイミングで?


 凄く嫌な予感しかしねぇんだけど?


 絶対ロッテを買う選択肢が出てくるじゃん……。



 ピコンッ


『今なら『調合』スキルも当たるかもしれないセレクトだぞ? 上司がそう言ってた! ここで当たればご都合主義まっしぐらだな(笑)』


 むむ、薬はいくらあっても困らないからな……。



 ピコンッ


『それに、ロッテは今日奴隷になったばかりだが──近いうちに国王が買いに来るぞ? 薬も作らないとダメだからな』


 そうだな……薬は必要だ。『調合』が当たらなければロッテが必要になるのは間違いない。


 スラムの住人は1番に見捨てられる。


 まぁ、『調合』が当たれば俺は直ぐに帰るがな。どうせ、国王が救出するなら問題あるまい。



 よし、やるか──


祝福ログインボーナス】──



 いつもの候補が見えないルーレットが登場した。



 ……えぇ、これ本当に『調合』スキル入ってるのか? 不安しかねぇんだけど?!



 とりあえず、開始──



 止まった文字は──



『爆乳奴隷』



 ──だった。


 俺にご都合主義というのは無いらしい……。



『爆乳奴隷』って……間違いなく、ロッテだろ……本当に『調合』が選択肢にあったのか疑いたくなる……。


 令嬢という言葉は消えたんだな……まぁ爵位を剥奪されて奴隷落ちだもんな……。



 ピコンッ


『おめでとう(笑)相変わらず、期待を裏切らない奴だな(笑)爆乳奴隷を好き勝手に出来るなんて羨ましいじゃないか(棒読み)』


 うっさいッ!


 しかも最後棒読みって書いてんぞ!?


 ロッテを手に入れたら俺が変な薬盛られて好き勝手にされる可能性の方が高いだろッ!



 はぁ……ロッテを買うのは決定だな。


 これ買ったの国王にバレたら問題なんじゃなかろうか?


 暗殺者を放たれたりしねぇよな??



 ……すげぇ尻込みするわ……。


 これなら令嬢の時に仲間にしておけば良かった……。


 だって……奴隷って事は途中でさよなら出来ないじゃん……。


 いや、この件が済んだら国王に引き渡せばいいか?


 そうだな、そうしよう。


 それなら全てが丸く収まりそうだ。



 買う事は決定したが、その前に──してからだな。



 ────


 ────────


 ────────────



 しばらくして俺は再度、店の前に戻る。


 と判断した俺はから奴隷商の店に入る──


「今日はどんな奴隷をお求めでしょうか?」


「店主よ──今日、仕入れた爆乳の奴隷をくれ」


 俺は店主に堂々とそう言った。


 俺の言い方で店主の顔が引き攣っていたが、時間を無駄にしたくないからな。


 さっさとロッテを買わせて貰おう──



 ◆



 宰相から王城に呼び出された私はそこで、今回の見合い相手の素性を知りました。


 そして、猛烈に抗議を受けている事も。


 相手が実は隣国の王子とか今更教えられても後の祭りです。


 毒は盛っていませんが、それに近い行動を起こした私は爵位の剥奪と奴隷落ちを言い渡されました。


 まさか、相手が本物の王子様とは思わないじゃないですかッ!


 知ってたら媚薬なんか盛りませんよッ! 盛るなら婚約してからにしますともッ! たぶん!


 現在、街では石化病が流行っているとも聞きました。


 これも私のせいだと言われました。


 どうやら、あの王子が報復として裏組織を雇って病気を蔓延させたとか……。


 私は人々の命を守る為に宮廷薬師になりました。


 だから宰相に言いました──


「奴隷落ちは構いません。ですが、それは今でないとダメなのですか? ──私は王都の人達の為に薬を作りたいのですッ!」


 ──と。


 しかし、毒物らしき物を盛ったという理由だけで一切取り合ってくれませんでした……。





 それから私は犯罪奴隷として奴隷商人に引き渡されて、牢屋に入れられてしまいました。



 私は看守の言う事を守らずに反抗すると奴隷紋が働き、激痛に襲われます。


 更に躾という名目で暴力を受けました。



 悔しい……何も出来ない事が……。



 涙が止まりません。



 せめて──


 私が蒔いた種ぐらいは私が刈り取りたい……。


 石化病が蔓延すれば間違いなく王都は滅びる……私ならなんとか出来るのに……。


 私の加護は大量生産に向いた加護。絶対に街を救えるのに……。



「ごめんなさい──


 私の身勝手に巻き込んだ人達──


 本当にごめんなさい……何も出来ない私を許して下さい……。


 出来る事なら──神様……私にチャンスを下さい……。


 どんな事だってします。


 薬さえ作れれば、どんな変態にだって買われても良いです。


 どんな酷い目に合っても良いです。


 私に街を救う──いえ、償うチャンスを下さい──


 ──お願いします」



 1人うつ伏せに倒れる私の声は虚しく牢屋に響き渡ります──



「あはは……私にはそんな資格なんかないか……」


 乾いた笑いが出てしまう。


 こんな事を願ってもきっと、変態に買われて弄ばれる運命なんだろうなぁ……それか──買われる前に石化病になって死ぬかもしれない。



 最後に──



 一目惚れしたエル君と会いたいなぁ……。




『──後悔してるなら──助けてやるよ。その代わり、ちゃんと街の人を助ける為に働けよ?』


 ──幻聴? 今エル君の声が聞こえてきた気がする……。


 これはエル君に会いたいと思っていたから、その願望が幻聴として聞こえてきたのかな?



 でも──幻でも幻聴でも何でも良い──


「街を──救えるなら、私はなんだってする……エル君……だから私を買って──」


 気付けば、私は虚空に向かってそう告げる──


『わかった──直ぐに行く。待ってろ』



 なんて都合の良い夢なんでしょう……。



 でも声が聞けたお陰で少し、冷静になれた気がする。



 その時、店主が私に声をかけてくる──


「おいッ! お前を購入したいという人が現れたぞ。出てこいッ!」


 そう思った矢先に丁度、買い手がついたみたい。



 誰に買われたとしても、薬を作らせて貰う為に絶対諦めないッ!



「あー、いたいた。こいつだ。こいつを買おう」


「……え? エ、エル…君?」


「本当にこいつで良いのですか? 確かに胸は大きいですが──本日入荷したばかりで教育もしていないし、反抗するので躾けている途中ですのでボロボロですよ?」


「構わん」


「わ、わかりました。では早速ご用意をさせて頂きますので少々お待ち頂いても構いませんか?」


「いや、こいつはこのまま貰っていく。後、俺がこいつを買った事は他言無用だ。この中に口止め料も入っている」


「こ、こんなに!?」


「足りるだろ? ちなみに俺の事を話せば──わかるな?」


 エル君は気が付けば店主である奴隷商人の首元にナイフを当てていました。


「ひッ、絶対誰にも言いませんッ!」


「よろしい。ロッテ──「ひゃッ!?」──怪我で動けないだろ? これで行くぞ」


 私はエル君にお姫様抱っこをされ、そのまま店を後にします。



 裏路地に入ると私は降ろされます。


「酷い有り様だな? ほれッ」


「ぷはッ……ポーション?」


 エル君は私の頭の上からポーションの瓶を何本か開けて一気にかけてきました。


 私の髪の毛はびしょびしょになりますが、傷口は治っていきます。


「そうだ。全く、ロッテを探してたらまさか奴隷になってるとはな……。お前の懺悔はしかと聞いた。これからはもう少し考えて生きろよ? 


 エル君は悪そうな笑みを浮かべながらそう言います。


 もしかして、あの時の声って──


 本物のエル君?


 私を探してくれてたの??


 事情も知ってるの??


 エル君ってやっぱり只者じゃない気がする。


 それに首筋にある黒子──


『先見』のエルク様と同じだ……エル君とエルク様は同一人物?




「ありがとうございます──私は一生、貴方に仕えます」


「いや、一生はいらない。ただ、俺はお前にチャンスを与えるだけだ。だから、ちゃんと仕事しろよ?」


「──はいッ! ちゅッ♡ チャンスを与えてくれたエル君にお礼です♡」


 私はエル君の頬にキスをします。


「──?! ったく……」


 照れるエル君を見詰めたまま時間がしばらく過ぎます──



 本当にありがとうございます。



 必ず──役に立ちますね?

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