第50話

 俺達は日が暮れる頃には冒険者ギルドに到着した。


 ちゃんと帰りの際は俺も魔物を倒したぞ?


 ほとんどマイ達に先越されて倒せなかったがな……。


 ちなみに暇な時にちょくちょく『マップ』を使ってみたら、案外役に立つ事がわかった。


『慈愛の誓い』のメンバーを調べたら、ここから離れた所にいたので一安心した。これなら近付いた時にわかるだろう。


 何故か『慈愛の誓い』のメンバーは黒色に光っていた。俺の中で黒色は最大の警戒を現す色なのかもしれないな……。



 そんな事を考えていると、マイが声をかけてくる。


「私達は席を確保してきますね?」


「ん? あぁ、そうだな。軽く飯食ってから帰るか」


 2人は併設されている酒場に向かう。



 さて、俺も受付に行ってくるか……。


 俺の依頼を受理した受付嬢はいなかったので、空いてる受付まで向かう。


「──緊急依頼の『ポックル草』持ってきたから換金頼む」


 そう言いながら冒険者証と『ポックル草』を出すと──


「ん? Fランク? 雑草なんか持ってきても買い取れませんよ? 薬草の採取すらまともに出来ないなんて可哀想に」


 パッと見て、調べる様子もなく諭すように大変、遺憾な事を言われた。


 いや、まぁFランクの新人だからポックル草を持って来た事が信じられないのはわかるけどさ……。


 後、外見って大切だな……子供っぽく見えるからすげぇ舐められてるわ……。


 せめて依頼を受理した受付嬢がいたらスムーズに事が運べたんだがな……。


 Cランクのティナに変わりたい所なのだが──


 既にこの場にいないしな……俺がなんとかするしかない。



「いや、これポックル草なんだが?」


「Fランクの新人がこんなに集められるわけないじゃないですかぁ〜。私でもそれぐらいわかりますよ?」


 いや、ちゃんと見てねぇじゃん!?


「いや、本物だって。疑うなら──他の受付嬢さんに見てもらうか、査定場所に持って行ってくれないかな?」


 この受付嬢では話にならないと、他の受付嬢か査定に持っていくように言う。


「はぁ……たまにいるんですよね〜背伸びしてくる新人冒険者が?」


「あんたはちゃんと仕事した方がいいぞ?」


「はぁ……私忙しいんですけど? さっさとこれ片付けて帰ってくれない?」


 少しカチンと来たので、俺も売り言葉に買い言葉で返すと帰れと言われる。



 低ランクというのはこういう扱いを受けるもんなんだなぁ。


 そういや『慈愛の誓い』にいた時はこんな舐められる事はなかったな……。


 むしろへりくだる人しかいなかった記憶がある。


 なんせ、リーシェさん達を怒らせたらギルドが半壊するからな……。


 まぁ、こういう扱いは凄く新鮮だがな。新人って大変なんだな……。


 しかし、このままでは買い取って貰えなさそうだ……どうしたもんか……。



 ピコンッ


『この受付嬢は新人冒険者の報酬を勝手にピンハネしてますね。こうやって依頼の品を受け取らずに突っ返すのはよくあるようです』


 マジかよ。不正じゃねぇか……こりゃあ一旦帰って出直した方がいいな。



 そんな事を考えていると──


「はーい、さっさと僕ちゃんはこれ片付けてね〜。次の方〜」


 受付嬢は次の人を呼ぶ。



「ん? いいのか? まだ途中だろ? おッ、この間の坊主じゃねぇか! 何かの採取依頼か?」


 次の人が来る前にポックル草を片付ける。


 なんか聞いた事のある声だなと思って振り向くと──


「ん? あ、ライクさん。えぇ、まぁそんな所です。それより、ポックル草は採取出来ましたか?」


 酒場で知り合ったライクさんだった。


「ポックル草は少し手こずったがこの通りだ。採取依頼なら今度一緒に行って教えてやるぞ?」


 おぉ、さすがAランクだな。手に持っているポックル草は30本ぐらいあるっぽいな。


 だが、魔物を倒しながらだから数を確保するのは難しいし、状態も悪そうだな。


 しかし、相変わらずライクさんは良い人だ。

 新人の俺に採取の仕方をレクチャーしてくれると言ってくれるとは。


 でも──俺が集めたのもポックル草なんだけどな……。



「さすがライクさんッ! 王都最強の冒険者ですッ! 直ぐに査定致しますね♪」


「あぁ、じゃあ頼むわ」


 受付嬢はルンルン気分で走り去って行った。ライクさんが来てからは態度が一変している。


 この世界では強い者がモテる。それは間違いない。


 なんせ強い冒険者は稼げるからな。


 だからこそ、受付嬢は玉の輿を狙う為に高ランク冒険者には媚を売る事が多い。これはどこの冒険者ギルドでも同じだろう。



 俺か? 俺もランクだけはAだったからな。


 当然、俺も良く食事に行こうとかたくさん声をかけられたぞ?


 全部阻止されたがなッ!



 ピコンッ


『可哀想に(笑) それより受付嬢にはよ』


 その『笑』ってのやめろッ!


 俺だって普通のデートとかしてみたかったんだよッ!


 暇があれば部屋に監禁されるんだぞ!?


 というか、何でざまぁせにゃならんのだ!?



『鑑定』とそんなやり取りをしているとライクさんから話しかけられた。


「えっと──「エルクです」──エルクは何かの採取依頼か?」


「ええ、これなんですけどね?」


 俺は100本のポックル草を取り出す──


「おまっ、これポックル草?! しかも俺より多い、状態も良いじゃねぇか!?」


「あの受付嬢曰く、雑草らしいですよ?」


「はぁ?! マジかよ……俺から言ってやるよ」


「本当ですか?! ありがとうございますッ! 助かりますッ!」


 神降臨ッ!


「気にすんな。高い酒も奢ってもらったしな。というかこれだけの量をどうやって集めたんだ?」


「その辺に生えてるの片っ端から集めてきました」


「え? マジで? お前すげぇな……確かにたまに雑草の中に混ざってるが、普通は見分けなんかつかねぇんだぞ? 割に合わねぇしな」


「まぁ、特技みたいなもんですよ」


「マジですげぇよ!」


 少し照れ臭いがこうやって褒めて貰えるのは嬉しいものだな。


 自慢じゃないが褒められた事が基本的に無いからな。


【絆】では存在感薄かったから、知り合い少ないし、『慈愛の誓い』じゃ周りが凄すぎて自分がちっぽけだった記憶しかない。


 最近だと褒めてくれるのはミランちゃん──いや、アリア、マイ、ティナぐらいだな……。



「──お待たせしましたッ! ライクさんの報酬になりますッ!」


「サンキュー。それよか、姉ちゃん──これポックル草だぞ? 何故査定しない?」


 うおッ?!


 さっきまでと違ってライクさんから凄い威圧が放たれている。


 俺は慣れているから普通だが、周りの冒険者や受付嬢はガクガク震えている。


 声も出せないようだ。



「ライクさん、それぐらいで良いですよ!?」


「しかし、これはギルド側の怠慢だ。しかも緊急依頼の品物を調べもせずに突っ返すなどあり得んだろ」


 言ってる事は理解できる。正しく正論だろう。


 だけどな!


 受付嬢さんが白目剥いてるからッ!


 泡も吹いてるしッ!


 軽い気持ちで頼んだけど、まさかここまでやるとは思わないだろ!?


 どうすんのさこれ!?



 ピコンッ


『ふっ、やるじゃないか。これはまさしく。スッキリしただろ? その受付嬢を見てみろ。新人を散々馬鹿にした者の末路だ』


 いやいやいやいやいや、こんなもん俺は求めてねぇよッ!


 誰か他の受付嬢に密告するだけで良いだろ!?



 ピコンッ


『お前がそうなるように仕向けたんだろ? さすが『先見』だな……自分の手を汚さずにざまぁをするか……完敗だぜ……』


 勝手に負けるなよッ!?


 しかも、目立ちたくないのにめっちゃ注目されてるしッ!


 どうしてくれんだよぉぉぉぉ────

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