第51話
「──ライクか、その威圧を引っ込めろ」
「──?! ギルマスか」
どうしたもんかと思っていると、受付の奥から1人のおっさんが出てきて、ライクさんを制止するように言う。
すると、ライクさんは威圧を弱めた。
しかし、厳ついおっさんが出てきたな……ハゲな上にムキムキのタンクトップを着たのがギルドマスターか……。
ハゲでムキムキのギルドマスター?
俺が冒険者登録した時を思い出すな──
──って、あれ?
よく見ればこいつ──俺が冒険者登録した時に鼻っ柱折る為にボコってきた奴じゃね?
久しぶりに見たわ。最後に見たのは──『慈愛の誓い』で依頼を受けた時だったな……。
依頼から戻ったら、こいつの全身の骨が折れてた記憶がある。
何やら闇討ちにあったと聞いたな。
ここに移動になったのか??
このギルマスのせいで俺は自信失くしたんだよな……。
気持ち的には受付嬢より、こいつにざまぁしてやりたいが──新人の今では無理かな。
「ギルマス──そこの受付嬢は緊急依頼の薬草を持って来たのに確かめもしなかったそうだぞ? どういう教育をしている?」
おぉ、ライクさん任せればまたざまぁしてくれるかも!?
「む、それは本当か? こいつは真面目で優秀な受付嬢だぞ? そんなわけあるか」
「あぁ、俺の可愛がっている新人からそう報告を受けた。そうだなエルク?」
えー、ここで俺に振るの?!
「……えぇ、Fランクの新人が集められるわけないと雑草扱いされて突っ返されましたね」
「ふむ……エルクと言ったな。お前の話が本当なら大変な事だ。もし、持って来たのが緊急依頼の品であるポックル草であるならばな。良ければ見せてくれるか?」
こりゃーギルマスからも疑われてる感じだな。俺を見る目が少し怖い。
しかし、ライクさんが味方だから俺も強気だけどな!
ライクさんやっちゃって下さいッ!
「ギルマス──俺を疑っているのか?」
ライクさんはポックル草を確認しているから強気だ。
どんな反応するかワクワクするなッ!
「確認しなければ何もわからまい? ポックル草は雑草と間違われる事が多いからな。新人でワームを倒して採取出来る者はまずいない。疑うのも当然だろう?」
「確かにな。エルク、出してやれ」
「了解──」
俺は100本のポックル草を目の前に出す。
「?! ……おいッ! 確認してくれ」
一瞬驚いたギルドマスターは後ろに控えていた受付嬢にポックル草を持っていくように告げる。
「ギルマス、あれが雑草だと思っているのか?」
「いや、間違いなくポックル草だろう……まさか本物とはな……」
「ギルマスよ。お前は公平に判断せず、身内を庇う事を優先しただろ? ギルドマスターたる者、命を賭けて依頼をこなす冒険者の敬意が足りないんじゃないのか? まさか今回の件を有耶無耶にするつもりはないんだろう? トップとしてどう責任を取る?」
「……そうだな。そこの気絶している受付嬢は減俸。そして謝罪もさせる。他の受付嬢にも二度とこうならんように厳命しておく」
うーん、誠意が伝わらんな。
ピコンッ
『ピンハネの件とか言っておいた方がいいぞ? 受付嬢として残るなら今後も同様の被害者は出るからな。実際、既に辞めてる人も多い。スラムに流れてる人も多いぞ?』
──!? 確かに冒険者として生計を立てれない人はスラムに流れてくる傾向がある。
確かにこんなくだらない理由で冒険者を辞める人が増えるのは良くない。
これは言っておくべきだろう。
「あ、その人噂によると他の新人にも同じ事してるみたいですよ? 後、冒険者の正当な報酬をケチつけて低い報酬を渡して差額をピンハネしてたらしいです」
「「…………」」
良い感じでまとまりそうだったその場の空気は俺の言葉で一気にピシッと凍りついた。
口を開いたのはライクさんだった──
「──土下座だ。ここにいる奴らにも被害者がいるかもしれんだろうがッ! 部下の尻拭いは上司の役目だろうがッ! ケジメだッ! ケジメをつけろッ! お前らもそう思うよなッ!?」
ライクさん、すげえ怒ってる!?
「「「そうだそうだッ!」」」
──?! ライクさん?!
他の冒険者も味方につけるなんて恐ろしい!
というか、俺の一言で凄い事になってるよ!?
ピコンッ
『さすが『先見』。場をかき乱すとは天晴れである。狙い通りなのだろう?』
いや、お前の言葉を聞いて言っただけなんだが!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
慌てるギルマス。
「お前の職務怠慢だろうがッ!」
ライクさんがここぞとばかりに責めている。
「ぐぬぬ」
逃げ場の無いギルマスは歯噛みする。
「駄々をこねるなら、本部に報告するぞッ!」
「いや、まだ証拠もないんだ。その件については調査して適切な対処をする。そして、仮に事実であれば被害者には賠償金を支払おう」
おぉ、さすがギルマスだな。見事に逃げ道を確保したな。
「ギルドマスター! 全てポックル草でしたので、報酬持ってきました」
ちょうど、その頃に受付嬢が報酬を入れたであろう麻袋を持って戻ってきた。
「ライク、お前の話は後で聞こう。それより、そこの新人冒険者に報酬を渡すのが先だ」
ギルマスは上手く、ライクさんの話を逸らした。
ちッ、俺ももう少しギルマスの悔しい顔が見たかったぜ……。
「ふぅ……とりあえず、坊主──あれだけ大量のポックル草は助かった。今回の迷惑料も含めて報酬も色をつけてやろう。それにお前は俺の権限で今日からCランクだ」
ギルマスは受付嬢に報酬を足すように指示する。
Cランクか……まぁ、今の俺はCランクの強さはあるから問題ないな。
ただ、ギルマスは危機が回避出来たと思って態度が大きくなったな。
まだ俺謝られてないけどなッ! ってか、報酬とランクでお茶を濁す気満々じゃん!
「あ、はい、ありがとうございます。これで薬が手に入る人が増えると良いですね」
とりあえず、俺はお礼を告げる。
まぁ、俺としてはギルマスの焦った顔や、間抜けな顔が見れたからいいか。謝られてないけどな!
もっと、ざまぁしたかったぜッ!
ライクさんをふと見ると──
まだ終わりじゃないと言わんばかり話し出す。
「おい、ギルマス──エルクに土下座しろ」
「はぁ? 何でだよ!?」
「当然だろう。今回、俺が居合わせなければ受付嬢のせいで、新人のエルクでは取り合ってもらえず報酬が貰えなかっただろう。それにこんな扱いをしたギルドに対してエルクは納めても良いと言っている。重要度の高い緊急依頼の品を納めて貰えるお前らはエルクに借りがあるという事だ。それにお前はまだ謝っていない。最大限の誠意は土下座しかあるまい。お前は金とランクだけで事を済ます気か? エルク、次からは他で売ったらいいぞ?」
ライクさんの言葉に俺は頷いて返す。
息を吹き返したようにガンガン責めるな……。
ライクさんがここまで強気なのって、この街に強い冒険者があまりいないからなんだろうな……。
「……」
というか、ギルマスの俺を見る目が超怖いんだが?
「エルクも土下座されたら今後もポックル草を納めるよな?」
ライクさん……このギルマスに嫌な思い出でもあるんだろうか?
まぁ、俺はライクさんのお陰でポックル草を納品する事が出来たんだ。気の済むまで付き合うか……。
「……そう、ですね。俺なら状態の良いポックル草を大量に集められますよ?」
「ぐぬぬぬぬ……──申し訳……ない……」
ギルマスは震える体をゆっくり地面に膝をついて頭を下げながら謝罪する──
「ふむ、許してやろう。今後──同じような事があれば本部に通達するからな? よし、エルク行くぞ」
「あ、はい。酒場に仲間がいるので食事しません?」
「お、いいぞ」
俺とライクさんは酒場に向かう──
なんか想定以上の結果になったが、スッキリしたなッ!
これがざまぁか……中々良いもんだな。
ただ、俺が去る時のギルマスの目が怖かったから闇討ちには気を付けようと思う。
ピコンッ
『ちなみに余談だが、あのギルマスは既にざまぁを受けてるぞ? 『慈愛の誓い』にボコられてるからな』
は?!
何で──って、そういや昔に『慈愛の誓い』の連中にこのギルマスにボコられたって言った事が関係してるのか?
まさか……あのギルマスが闇討ちされた相手って──
ピコンッ
『その通り、お前が大好きなメンバーが闇討ちしたんだ』
知らない所でざまぁが終わってた件についてッ!
ピコンッ
『まぁ、ギルドマスターから印象は悪くなったな。昔のざまぁもわかった上に今回もざまぁ出来て良かったな! お前の要望通りになって私も嬉しいぞ(笑)しかも、新人冒険者を救うなんて、さすが『先見』のエルクさん半端ねぇっす!』
いや、お前に誘導された感が半端ねぇんだけど!?
しかも、ざまぁのはずなのにスッキリしないんだが?
闇討ちされないように気を付けよう──
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