第45話

 俺達は冒険者ギルドに向かって歩いている。


 俺の足はとても軽やかだ。


 さっさと情報収集して、アリアの所へ行くんだッ!


 ピコンッ


『それ叶わないフラグだ(笑)』


 はぁ?! なんでやねんッ!


 アリアはやる気満々だったじゃねぇか!?



 ピコンッ


『マイとティナをよく見てみろ。2人が行かせてくれると思うか?』


 ……。


 俺はごくりと息を飲みながら2人を見る。


 2人は真剣な顔をしながら話している。


 もしかして、さっきのアリアとの会話を聞かれてたのか?


 聞かれてたら──間違いなく阻止してくるだろう。


 何か策を考えなければ──



 そんな事を考えているとマイから声をかけられる。


「エルク様」


 凄く真剣な声色だな。アリアの件を聞かれたら流そう。


「何だ?」


「本当に『石化病』が流行るんですか?」


 違った!


「おそらく──既に流行っている可能性が高い。ラウンズであるアリアが直接動くという事は緊急性が高いと判断したのだろう。その為に情報を集める必要がある。あいつは裏から探るはずだ。俺達は表から探る。情報をすり合わせて対処する方が良いだろう」


「流行っていたらどうするのですか?」


「──まぁ、国も動くだろうし、【絆】も既に動いているし、大丈夫だろ。双方とも、最悪の状況を生まない為に薬の手配はしているだろう。そんなに不安になる必要は無い。俺も出来る事はするからな」


「はい! エルク様がそう言われるならきっと大丈夫ですね! なんせ『先見』と呼ばれるぐらいですから!」


「そうそう、俺がいるんだ。なんとかなるさ」


 ……たぶんな。


 俺がそう仕向けたものの……マイを安心させると同時に過度の期待をされて胃が痛い。



 さて──冒険者ギルドに到着したな。


「とりあえず、中で情報集めをするが──お前らというか、マイが絶対絡まれるから、相手が手を出して正当防衛が成立したら対人戦の練習だと思ってボコってもいいぞ?」


「え? 私がピンチになったら助けてくれるんですよね??」


 マイは少しビビっているようだ。


 まぁ、冒険者ってごろつきよりは強い事が多いからな……。


 俺はマイに言ってやりたい。


『お前に勝てる奴なんかそうそういねぇよ』


 ──と。


 助ける事なんかなさそうなのが現状ではある。


 一応、助けたいと思うが……情報収集は1人の方がやりやすい。


 そもそも、冒険者同士で争い事が起こったら受付嬢が止めるだろ……。


「当然だと言いたい所だが、俺は追われている身だからな。あまり目立ちたくない。ヤバけりゃティナが助けてやってくれ」


 ティナは頷いてくれる。


 この街にティナより強い奴はいないはずだ。


 俺よりもティナの方がランク詐欺だからな……。




 俺達は中に入る──



 今は比較的空いている。昼過ぎだからこんなもんだろう。


 ギルドに活気があるのは依頼書が貼り出される早朝だからな。


 情報を集めるならギルド内に併設された酒場が1番良いだろう。


 酒で酔った奴はポロッと情報をくれるからな。


「じゃあ、俺は情報収集してくるから2人は……そうだな──この素材売ってきてくれ」


「「了解!」」


 最近倒した魔物の素材を2人に渡して換金を頼んだ後、俺は酒場に向かって歩いていく──



 途中、依頼掲示板の一部分で人だかりが出来ていた。


 軽く視線をやると──


『緊急依頼』の文字を発見する。


 内容は『ポックル草』採取依頼だった。


『ポックル草』は『石化病』の薬を作るのに必要な薬草だ。


 報酬は──


 相場の約5倍か。



 ……既に材料不足なのか?


 いや、薬が足りなくなる事を想定しているのかもしれんな。


 この材料となる『ポックル草』は強力なワーム系の魔物が好んでよく食べるので危険が多く、手に入れるのは非常に難しい。


 依頼ランクもC以上推奨だ。



 とりあえず、酒場で情報収集するか。


 どうせ受付で聞いても重要な事は何も知らされてないだろうしな。


 ターゲットはベテランの冒険者だ。


 ちょうど1人で酒を飲んでるおっさんがいる。あいつで良いだろう。


 俺はカウンターで酒を買って、そのおっさんの横の席に座り──


「隣、失礼します。これは俺のおごりです」


 ──酒を渡す。


「んあ? おぉ、サンキュー。何か知りたい事でもあるんだろ? 先輩が教えてやるぞ」


 ベテランであればあるほど、こういう事に慣れている。


 俺が近付いたのも何か知りたい事があると察してくれているから駆け引きとかも必要ない。


 後は俺が酒をおごり続ければ気前良く教えてくれるだろう。


 それに、このおっさんは他の冒険者と違って強者の臭いがする。おそらくだが高ランクの可能性が高い。


 俺とプリッツもオフの日は真っ昼間からよく飲んでたからな。



「いいんですか?? 助かります! ベテランの方からのお話はいつも感謝しかありませんよ! 実は掲示板にあった『緊急依頼』を見たんですが、報酬が高かったので何かあるのかなと思って……」


「あぁ、あれか。ついさっき貼り出されたやつだな。俺も明日に受ける予定だ。坊主のランクは? 足手まといにならなければ連れて行ってやるぞ? 緊急依頼だからランクの制限はないし、受けれん事はないからな」


 ついさっきか……。


「Fですね」


「新人か……ならやめといた方が良いな。ワームは地面から突然襲ってくる。成り立てでは経験が浅いから死ぬ可能性が高い。さすがに守りながらはキツいからな」


 新人冒険者にも気遣いをしてくれるとは── 中々良いおっさんだな。


「そうですね。僕にはまだ無理かもしれません。えーっと──「ライクだ」──ライクさんは1人で行かれるんですか?」


「そうだな。俺は行かねばならんからな。飲んだくれに見えるが、これでもAランクだからな」


 Aランクか……やはり高ランク冒険者か。


 俺の知る限り、この街を拠点にしているSランクはいない。


 Aランクであれば何かを知っている可能性が高いだろう。


 少し揺さぶるか──


「Aランクなんて凄いですねッ! 尊敬しますッ! やっぱり緊急依頼だから行くんですか?」


 少しずつ会話を『石化病』に近付けるか。


「……そう、だな。坊主は冒険者ギルドって職業は何の為にあると思う?」


 逆に質問されてしまったな……警戒されてるのか?


「……人々の生活を守る為に発足されたギルドだと聞いてます」


「その通りだ。俺はんだ。坊主に大事な人はいるか?」


 ライクさんが冒険者をやる理由は守りたいからか。それは共感出来るな。


「仲間や家族です」


「そうか。良い答えだ。俺の嫁さんは昔、病で死んだ──そういう悲しい思いはしたくない」


 病で死んだか……。『Aランクだからそういう人を減らす為に緊急依頼を受ける』と言っているように聞こえてくるな。


 この感じだとギルドからは何も聞かされていないのかもしれないな。


 気になるのは、ライクさんがガバガバと酒を飲んでいる事だ。


 この飲み方は嫌な事があった時にする人が多い。


 俺は1つの可能性が頭を過ぎる──


『悲しい思いはしたくない』そう言った。つまり、そういう気持ちになりたくないという事だとも取れる。


「もしかして──ライクさんの身内の方が『石化病』を発症したんですか?」


 嫁さんは昔に亡くなっていると言っていたが、他に身内がいないわけではない。


「──!? なるほどな……ただの新人じゃねぇな」


 しまった。いきなり踏み込み過ぎた。


「すいません、気になったもので……」


 完全に警戒させてしまったな。これ以上は話を聞くのは難しいか?


 そう思っているとライクさんは再度語りだす──


「まぁ、お前が何者でもいい。──嫁さんはもう死んでいるが、俺には娘がいる。俺の宝物だ。娘が『石化病』になってしまった。だから俺は娘を守る為に今回の依頼を受ける。おそらくだが、今回の依頼は今後事を見越した依頼だな。それが──聞きたかったんだろ? 顔に書いてあるぜ?」


 やっぱ、長年修羅場をくぐり抜けた猛者には敵わないな。


「ははッ、わかります? でも、わかってて教えてくれるあたり、優しいですね。ありがとうございます」


「お前の周りでも『石化病』が出たんだろ? 俺がお前の分も取ってきてやるよ」


「ふふ、ありがとうございます。マスターッ! この店で1番高い酒をライクさんにッ!」


 俺はマスターにそう告げる。


「おいおい、無理すんなよ!?」


「ライクさん、娘さんが早く元気になる事を祈ってます。これは前払いの酒ですよ。報酬に比べれば安いもんです」


「へっ、新人の癖して。だが──ありがとよ」


「えぇ、頑張って下さいね?」


「おぅ。今度は一緒に飲もうぜ」


「えぇ、今度は仲間も連れてくるので皆でわいわいしましょう。では──」



 俺は挨拶をし、席を外して歩き出す。


 マスターにはライクさんの飲み代と言って少し多めに金を渡した。貴重な情報代ってやつだ。


 なんか久しぶりに良い話を聞いたな……娘の為に依頼を受けるか……。



 久々に胸が熱くなったな。こういう人は好感が持てる。何か手伝える事があれば力になりたいと思える人だったな。


 ライクさんはAランクだ。俺よりも強いだろうし、問題なく素材を集める事が出来るはずだから俺の手なんか必要ないだろうけどな。



 今度は約束通り酒を一緒に飲もう。



 しかし、『鑑定』の言う通りだったな……既に街の人達が発症している。


 薬が足りなくなるのも時間の問題だろう……いや、ライクさんが依頼を受けるぐらいだ……既に足りないのかもしれないな。



 こりゃー俺達も採取依頼を受けた方がいいかもな……。



 マイ達を探しにギルド内を歩いていると──



「ゆ、許して下さいぃぃぃ」


 叫び声が聞こえてきた。


 よく見ればマイが「えいッ、えいッ、避けないでくれませんか? えいッ、当たったッ! ──「ウギゃぁぁァァァァ」──あれ? おかしいですね……気絶してくれませんね……これならどうでしょう? えいッ!」とか言いながら冒険者のを蹴っていた。


 ティナはマイに「勢いが足りない」とかアドバイスをしている。


 床にはその仲間らしき者達が股間を押さえて悶絶している。



「どうしてこうなった!?」


 心底そう思ったし、声に出てしまった。



 ピコンッ


『下品な連中だからいいんじゃない? アレが使えなきゃ、悪い事が出来ないという結果に至ったようだね……それはどんな未来をもたらすのだろうか?』


 マイ……どんな思考回路してんだよ……。



 というか、どんな未来って──



 玉の潰された男が量産される未来しか見えねぇよッ!



 ライクさんの話から落差が激しいんだが!?



 ついさっきまで胸が熱くなってたのにッ!

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